白き目覚め
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「精霊虚域ってなんだ?」
マヤの提案を受け入れたロロベリアが詩を紡ぎ始める中、そもそも精霊虚域を知らないツクヨは首を傾げる。
ツクヨだけでなくミューズもラタニのとっておきは聞かされていないので、マヤの提案を理解できない。
対するカナリアは知っているからこそマヤの忠告を理解していた。精霊虚域は僅かな制御ミスが命取りになる危険な精霊術、習得に至っていない中でいきなり試すなどいくら制御力に長けているロロベリアでも命懸けだ。
しかしそれ以前に精霊虚域は強力な精霊術ではあるも、ロロベリアの保有量では数メルの範囲しか展開できない。そもそも浄化の為に精霊力の消費を控える状況で使用するべきではない。
にも関わらずこの提案をしたマヤの真意に疑問を持ち、止めるタイミングを失っていた。
既にロロベリアは詩を紡ぎ始めている。危険な精霊術が故に中断させるとどんな影響が起こるか不明なだけにカナリアは成功を祈るしかできない。
「……ん?」
「え……?」
「どうなさいました」
そんな中、状況を呑み込めないでいたツクヨとミューズが妙な反応を見せる。
精霊力を視認できるだけに何か違和感を感じたのかとカナリアが問えば、二人は難しい表情でロロベリアを見据えていて。
「いや……白いのちゃんの体内で巡ってた精霊力が視えなくなってきてるんだよ」
「視えなくなっている……?」
「少しずつ薄まってる感じか? 聖女さまにはどう視えるんだ」
「わたしはロロベリアさんの腹部に白い輝きが視えています……。ですがこれは感情の輝きというよりも……生き物のような感覚が……」
従来の精霊術には視られない変化が故に二人は気になったらしいが、精霊力を視認できないカナリアにはいまいちその感覚を共有できない。
ただ徐々に、カナリアも違和感を抱くようになってくる。
精霊虚域は自身の精霊力を周囲の精霊力に溶け込ませるように交わらせていくことで、少しずつ微細な煌めきが周囲に帯びていくはず。
だが詩も後半に差し掛かっているのに未だロロベリアの周囲にはその輝きが帯びていない。
加えて周囲に自身の精霊力を分散しつつ放出していくことで本人の精霊力は弱まっていくはずなのに、気のせいかロロベリアから感じられる精霊力は徐々に高まっている。
「いったいなにが……」
「精霊虚域ってのは何なんだ? こいつはちょっと普通じゃないぜ」
異常を感じてツクヨが焦りを抱くも、従来とは真逆の変化だけにカナリアもどう答えればいいか分からない。
もしかすると失敗すれば起きる変化なのか。
「ぅ……っ」
だとすれば一か八かで止めるべきかと判断に迷うも突然ミューズが呻き両目を覆う。
「うぉ!?」
「これは――っ」
気遣う間もなくロロベリアから放たれた天を貫く白い輝きに二人も驚き声を上げ――
「……なんだ、今の……は……」
「わかりません……それよりも……」
輝きが収束していく中、首を振りつつロロベリアに視線を向けた二人は硬直。
「ロロベリア……さん?」
ミューズもまた恐る恐る覆っていた手を外すなり困惑していた。
何故なら目の前に居るロロベリアに明らかな変化が起きている。
精霊力を解放して詩を紡いでいたなら彼女の瞳や髪は水の精霊術士の特徴、サファイアよりも美しい蒼のはず。
なのに今は金瞳と透き通るような乳白色の髪に戻っていた。
しかし普段の彼女とは違って金瞳も、乳白色の髪も新解放と同じような煌めきを帯び、特に髪は肩下から地面に着かんほどまで伸びている。
「カナリアさん……マジでなにが起きてんだよ!? どんな精霊術なんだ!?」
「分かりません……私の知るものとは全く別物で……」
あまりの変化にツクヨが問い詰めるもカナリアには答えられない。
ただ精霊虚域に唯一似ているのはロロベリアの気配も精霊力も、そこにあってそこにない奇妙な感覚がある。
そもそも今のロロベリアは本当にロロベリアなのか。
普段の感情豊かなロロベリアからは想像も付かないほど表情や瞳から感情を感じられない。加えて幻想的な見目から同じ人間ですら思えない。
それこそ擬神化したアヤトや、マヤのように別次元の存在――
「マヤさん、ロロベリアさんの変化は何なのですか! あなたは何を企んで精霊虚域を提案しました!?」
「企むだなんて。わたくしは望み通り状況を覆す提案をしただけですわ」
故に今度はカナリアがこの変化を知るであろうマヤに問い詰めるも、クスクスと笑いつつ首を振る。
「ですが所詮は人間の思い付きでしたね。強引なやり方でもありますし、半端になってしまいましたが……良くも悪く成功と言って良いでしょう」
「いったいなにを言っているんです……? そもそもロロベリアさんは無事なのですか!?」
続いて空を見上げ独り言のように呟くが、全く答えになっていないと苛立ちを露わにカナリアが叫ぶもマヤには通じず。
「むしろみなさまはご自身の心配をされた方が良いのではないですか?」
「は……?」
「ほら、来てますよ」
『――早く逃げろ!』
その指摘に虚を衝かれるも不意にフロッツの叫び声が。
ロロベリアの変化に驚く余りカナリアは当然、ツクヨもミューズも無数の黒弾が迫っていることに気づけなかった。
「ですが問題ありませんね」
『――――』
精霊術で迎撃する間もなく、声すら上げられない状況下でもどこか楽しそうに呟くマヤを他所に、先ほどから微動だにしなかったロロベリアが口を開く。
ド――――ッ
瞬間、地面が盛り上がり黒壁が顕現。
黒壁に守られたことで黒弾の直撃は避けられたがそれよりも。
「……今のは土の精霊術だよな」
役目を終えたようにボロボロと崩れていく黒壁は土の精霊術によるもの。
しかも恐ろしく鮮麗された精霊術で、ツクヨは精霊力の感覚で理解したが、ここに居る精霊術士は水と風のみ。
にも関わらずなぜ土の精霊術が守ってくれたのか。
『――――』
混乱する間に再びロロベリアが口を開けば、今度は周辺に風が流れる。
その風に乗るようロロベリアの体が浮くも、この感覚も飛翔術と同じ。
「まさか……白いのちゃんか……?」
なら今のロロベリアは土や風の精霊術を扱えるわけで。
しかしロロベリアの金の瞳も、乳白色の髪も変わらず輝きを帯びたまま。土や風の精霊術士の特徴は垣間見えない。
そもそも一人で土や風のように別種の精霊術を扱える者は居ないはず。
『……穢れてる』
次々と起こる不可思議な現象に茫然となる三人を他所に、ロロベリアは感情のこもっていない声を発するなりラタニの元へ飛び立ってしまった。
精霊虚域を使用したことでロロに起きた変化、ある種の覚醒と言うべきでしょうか。
とにかくミューズやツクヨが視認した違和感や従来の精霊虚域とは違う現象、更にマヤさんの意味深な呟きと色々ありますが今のロロは水は当然、風や土だけでなく、火の精霊術も扱えます。
その理由にお気づきの方もいるかもしれませんが、そちらについては後程のお楽しみということで。
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