神さまの提案
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白夜に精霊石を突かれたことで全身を覆っていた黒焔も消失、ラタニは意識を取り戻した。
しかし浄化を施す寸前、ラタニの手によってアヤトは重傷を負ってしまう。
「どう……して……」
唐突な出来事に目前まで迫っていたロロベリアは茫然自失。
いったい何が起きたのか。
なぜアヤトは血を吐き倒れているのか。
ヒントを元に見出したよう、ラタニは意識を取り戻したはず。
にも関わらずなぜラタニは再び黒焔を纏っているのか。
ただ確実なのはラタニの暴走は続いている。
「ロロベリアさま!」
故にエニシは茫然としたままのロロベリアの手を引き離脱。
「なにがどうなってんだよ――『クソが!』」
『ウ――ッ』
「カナリア……!」
「分かってます!」
同時にフロッツは風の精霊術でラタニを引き離し、援護をスレイに任せてカナリアは負傷したアヤトの救出に向かう。
「――私も行くっ」
更にダリアも援護に向かい、カナリアは無事アヤトを抱えて安全圏に離脱。
不測の事態が起きても即座に最善の行動に移れるのは修羅場を潜った経験か、とにかく五人の迅速な判断によって最悪な事態は免れた。
「いったい何があったんだよ白いのちゃん! アタシの眼にはラタニさんの精霊力は元の色に戻って視えたんだぞ!」
「黒い精霊力も確かに弱まっていました……なのに急激に輝きが増して……っ」
しかし状況が改善されたわけでもなく、アヤトに治療術を施すカナリアを心配そうに見守っていたロロベリアと合流するなりツクヨとミューズは問いただす。
二人の眼にもラタニの精霊力は従来の色に戻り、黒い精霊力も収縮しているように視えた。
だが僅か数秒で従来の翠色が視えなくなり、精霊石のある位置から再び黒い精霊力が溢れだしたのだ。
「わかりません……私には急に黒焔が溢れたように見えただけで……」
「もしかしなくても白夜で黒い精霊力を無力化できないのかっ?」
「ですが一時的にでもお姉さまは意識を取り戻していましたが……」
「じゃあ浄化のタイミングが遅かったとでも言うのか? あんな数秒でどうしろってんだ? マヤも無茶な要求しすぎだろ!」
「――無茶ではありませんよ」
荒ぶるツクヨを煽るよう静観していたマヤが否定する。
「みなさまが予想した通り白夜……神気にはラタニさまが取り込んだ精霊力を抑制する効果があります。もちろんロロベリアさまが浄化する時間は十二分にあるほどに」
「じゃあなんで――」
「簡潔な説明になりますが、精霊石に秘められた精霊力は内部で循環することで活性化します。故に先ほども兄様が白夜で突くことで循環が乱れ、一時的にラタニさまは意識を取り戻しました」
更にツクヨの言葉を遮るよう続ける内容は、先ほどの出来事に対する疑問を解消するもので。
「つまり元となる精霊石を両断する、が正解でした。そうすれば二つに分かれた精霊石の内部で再び循環し始めるまでは影響力も弱まりますからね」
憶測の中にあったミスを指摘。
従来の精霊石にマヤの言うような現象を視たことはないが、精霊力を持つ者の体内では常に精霊力が巡っているのはツクヨも知るところ。なら生命に結びつく精霊石に同じような循環をしていてもおかしくはない。
そしてヒントを元に惜しいところまで迫っていたが、唯一のミスがこの状況を生んでしまった。
「このクソ神さまが……今さら重要な情報を教えやがって……っ」
ただ自分たちのミスを嘲るようなタイミングで指摘されてはツクヨも怒りを抑えきれない。
「で、ですが今度こそお姉さまを救うことが出来るのですから、マヤさんには感謝しないと……」
「だな……アヤトが目を覚ましたら速攻でリトライだ」
それでもミューズの言い分も確か。嘲りや愉悦だろうとマヤのお陰でラタニを救う方法も確実となった。
「……そう簡単にはいかないかと」
故に今度こそ希望が見えたと切り替えるも、治療を終えたカナリアは弱々しく否定する。
「傷は完全に塞がりましたが、アヤトさんが意識を取り戻すには時間が掛かりそうです」
ただでさえアヤトは意識不明の重傷から復帰したばかり。ろくに休めないまま無理を続けている中で再び重傷を負ったのだ。失われた血液は治療術でも戻らないこともあって、よくショック死しなかったと思える程で。
地獄のような実験を生き抜いた体なら回復力も相応に高いはず。
それでもいつ目を覚ますのか、カナリアには見当も付かない。
「私は当然、スレイやフロッツさんの精霊力やエニシさんやダリアさんの体力が持つかどうか……。持ったとしても再び隊長のスキを作ることが出来るか……微妙なところです」
もしかするとこの状況を見越してマヤは今さらながら情報を与えたのか。
だとすれば悪質すぎる……いや、元より傍観を楽しむ神に言うだけ無駄。
とにかくカナリアも含め主力はかなり消耗している。
アヤトが目を覚ますまでラタニを押し留めるなど不可能と、理解したツクヨやミューズも絶望する中――
「みなさんの精霊力がある内にお姉ちゃんを浄化しましょう」
しかし理解しても尚ロロベリアの心は折れていなかった。
「マヤちゃんの言う通りなら、私の役目が浄化なのは確実でしょ? 最悪、私がお姉ちゃんにしがみついて浄化する。だから力を貸して下さい」
僅かな希望を元に、自らを危険に去らすような方法を提案してくる。
「少しでも可能性があるなら諦めない……絶対にお姉ちゃんを救う」
誰もが諦める状況にも関わらず、諦めようとしない。
意地でも抗い続けるとの意思を前に、三人はかける言葉が見付からない。
「では別の方法を試してみますか?」
そんなロロベリアの呼びかけに、意外にも真っ先に応えたのはマヤだった。
「絶対にとは言い切れませんが、この状況を覆すことが出来るかもしれません。ただし、失敗すれば確実にロロベリアさまは死んでしまうでしょう」
しかし告げられたのはロロベリアの命に関わる提案で。
ただでさえ急に協力的な姿勢を見せられれば訝しむもの。現にツクヨやカナリアだけでなく、ミューズでさえマヤに対して懐疑的な視線を向けていた。
にも関わらず提案されたロロベリアといえば安堵の表情を浮かべていて。
「対価は必要?」
「ロロベリアさん!?」
その質問はマヤの提案に乗ると同意、故にミューズが止めに入るがロロベリアはどこ吹く風。
「心配しないでミューズさん。私が失敗しなければ良いだけだから」
「んな短絡的な……いや、それでこそ白いのちゃんか」
犠牲が自分一人で済むなら、みたいな理由ならツクヨも止めるつもりでいた。
しかし、よくよく考えればロロベリアが犠牲になればアヤトが目を覚ましてもラタニを救えないのだ。
要は本気で成功させることしか考えていない。
窮地に立たされれば誰よりも強い意思を持つ、まさにロロベリアの真骨頂とも言えるその姿に。
どのみち絶望的な状況なら、今はロロベリアの強さに賭けるのも良いと思える程に頼もしく感じた。
「……本当に危険であればすぐに止めますよ」
カナリアも同じ気持ちなのか、ため息と共にロロベリアの意思を尊重することに。
「気をつけて下さい」
「任せて……まだ何をするか分からないけど」
最終的にミューズも頷き、了承を得たロロベリアは再びマヤに問いかける。
「マヤちゃん、対価はどうなの?」
「必要ありません。所詮はその時が訪れるのが少々速まるだけですから」
「それって……?」
「さて、どういう意味でしょうか」
「やっぱりマヤちゃんも捻くれてるね……」
意味深な発言に肩を落とすも今さら、マヤの答えを待つ中――
「精霊虚域を使用して下さい」
「精霊虚域……?」
予想外の方法にロロベリアはキョトンとなるも、即座に切り替え目を閉じた。
今もフロッツが、エニシが、ダリアが、スレイが必死に時間を稼いでくれている。
『――領域を脅かず・手を取り合うように・弾かれず・溶け込むように』
なら今やるべき事に集中すればいい。
◇
迷いなく詩を紡ぎ始めるロロベリアに唖然となる三人を他所に、クスクスとの笑い声が響く。
「やはりロロベリアさまは面白いですわ」
突然の提案に対する疑心もなく、疑問すら抱かない。
普段はすぐに構ってちゃんになるのに、やると決めたことにはこの切り替えの速さ。
また制御ミスが死に直結する危険な精霊術だからこそ試すのも躊躇っていたはずが、覚悟を決めれば即実行できる危うさ。
しかしこの危うさもまたロロベリアの強さで――
『――精霊虚域』
詩を紡ぎ終えた瞬間、天を貫かんばかりの白い輝きがロロベリアから放たれた。
従来の精霊虚域では起きない現象を前にしても、マヤは驚くどころかニタリと笑う。
「果たしてどのような結果になるのか……楽しみです」
なぜラタニが再び暴走したのかをマヤさんが教えてくれましたが……タイミングがタイミングなだけに意地悪というか、ツクヨが苛立つのも仕方ありませんね。
そしてアヤトの負傷によって窮地に立たされる中、やはりロロだけは諦めません。
作戦が始まってから陰薄でも、もう一人の主人公ですからねはさておいて。
マヤさんの気まぐれか、それとも別の目的があるのか、提案のまま精霊虚域を使用したロロに何が起きたのか。また本当に現状を覆すことが出来るのか。
ラタニ救出作戦もいよいよ終盤戦、最後までお楽しみに!
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