窮地の中で
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ラタニを救う為の第一段階として、ノア=スフィネの精霊石から溢れた黒い精霊力を取り込んだであろう体内に移植された精霊石の位置や形状を把握してアヤトに伝える役割をミューズは無事完遂。
「お疲れさまですミューズさん」
「よくやったぜ!」
「……ありがとうございます」
フロッツに送り届けてもらったミューズをロロベリアと援護を終えて戻ってきたツクヨは手厚く出迎える。
まだ作戦は第一段階を終えたばかりなので気は抜けないが、次に繋げた労いの言葉を掛けるのは当然で。
故にミューズも素直に自身の功績を受け入れるも即座に切り替える。重要な役割を果たしてもまだ別の役割があるのだ。
なんせこの中で水の精霊術士はエニシとロロベリア以外ではミューズのみ。特にロロベリアは精霊力を出来るだけ温存しなければならない。つまり誰かが負傷した際、ミューズは治療役に回るのだ。
そしてある意味でロロベリアの本番もここから。
第二段階としてラタニの体内にある精霊石をアヤトの白夜で斬りつけ、一時的に黒い精霊力の影響を受けなくすることで根本の精霊石を浄化がロロベリアの役割。
その時間がどれだけあるか不明なだけに、いつでも飛び出せるよう注視しなければならない。
ただ白夜が黒い精霊力を抑え込む、というのは憶測の領域。もしかすると見当違いの可能性もあるが今はみんなで模索し、出した答えを信じるのみ。
「問題はここからだな」
「今は成功すると信じるしかありませんよ」
「ああ……いや、そうじゃねーんだ」
なのでツクヨの心配も理解した上で鼓舞する言葉を返すが、懸念しているのは別の問題らしく。
「思っていた以上にラタニさんのアヤトに対する警戒が強すぎた」
エニシ、ダリア、フロッツで出ていた場合、ラタニの意識は基本近くにいる者に向けられていた。
しかしアヤトが加われば距離関係なくラタニの注意はアヤトに向けられる。特に白夜を抜いた際、今までにない反応を見せる程だ。
先ほどは囮としても功を奏したが、第二段階ではラタニの意識をアヤトから逸らさなければならない。
「たしかにアヤトの剣技なら針に糸を通すレベルで正確に狙える。でもあれだけ警戒されて、攻撃に晒されてりゃ別だ。特にラタニさんは空中にいるから難易度も格段に上がるだろ」
現に今も三人がかりで注意を引きつけようとしているが、ラタニは常にアヤトを追っている。唯一フロッツの挙動には反応を示すも所詮はそれなり。
いくらアヤトの剣術がデタラメでもこの状況下で三センメルの球体を正確に斬れるとは思えない。
エニシは精霊術士だが保有量から援護するほどの精霊術が扱えないだけに、どうしても攻めあぐねてしまう。
もう少しラタニの注意を逸らすか、一時的にでも動きを止められればまだ可能性はある、というのがツクヨの見解で。
「やっぱ精霊術士がフロッツさんだけってのが痛いな」
いくらダリアやエニシでもやはり近接戦特化では重荷なのか。
かといって近くに居るカイルたちを呼び出しても残念ながら実力不足。
本来ならカナリア、モーエン、スレイ、ジュシカの四人が受け持つ役割。しかし距離的に四人の到着は期待できない。
「――失礼します」
「……急にどうしたよ、気まぐれな神さま」
完全に八方ふさがりと思えていた中、突如マヤが顕現するのでツクヨは嫌味を一つ。
神にも縋りたい状況下で本物の神が現れれば希望になるもマヤは別。むしろ嫌な予感しかしなかった。
「そんな嫌な顔をされては傷つきますわ。みなさまに朗報をお伝えしに来ただけですのに」
「朗報ねぇ……姿見せなくても白いのちゃんやアヤトにはお伝えできるだろ」
全く信頼できないだけに実に胡散臭いとツクヨは目を細めるも、マヤはクスクスと笑いつつ。
「状況的に面白くなりそうだったのでつい。それよりも先ほど連絡がありましたが――」
意味深な前振りはともかく、続く報告は確かに朗報と呼べるものだった。
◇
「――ラタニ殿はどんだけアヤトくん好きなんだよ!」
一方、軽口を叩きながらもツクヨと同じ見解からフロッツは焦りを滲ませていた。
ラタニの注意を引こうと、エニシやダリアも必死に攻撃をかいくぐりながら精霊力を飛ばしているも効果はない。逆にフロッツが詩を紡ごうとすれば即座に対応してくる。
暴走状態でも精霊術士としての本能は残っているのか、精霊力の高まりには機敏で全方向スキがない。
残念だが精霊士のダリアや保有量が少なく近接戦主体のエニシでは囮になれない。
「さーて……どうすりゃいいかな」
先ほどと同じようにダリヤとエニシに援護してもらい詩を紡ぐ時間を作る手もある。ただラタニを食い止める程の精霊術を放つ時間が稼げるかどうかは微妙なライン。
せめてもう一人精霊術士が居ればアヤトに優位な場を作ることもできるが、無い物ねだりをしている暇はない。
なんせあれだけ精霊力を利用した黒弾や黒刃、精霊術を使用してもラタニの精霊力は全く衰えていない。
対しこちらは攻めあぐねている間も体力や精霊力は消費していく一方。
「迷ってる暇もない……なんだ?」
ならエニシとダリヤが動ける内に一か八かに賭けるしかないとフロッツは覚悟を決めも協力を呼びかける前に、ロロベリアたちがこちらに向けて両手を振っている様子が視界に入った。
声を張り上げ何かを伝えようとしているも距離があり過ぎて聞こえず――
「フロッツ! なにをしている!」
変わりに地上からダリアの叫び声が耳に届く。
一瞬でもロロベリア達に気を取られたことで黒弾が迫っていたことに気づかなかった。
「やば――っ」
己の不注意に後悔する間もなくフロッツは黒弾の衝撃に備えて目を閉じる。
ドンッ
しかし待っていたのは衝撃ではなく轟音で。
もしかするとダリアかエニシが迎撃してくれたのか。
だがフロッツを助けたのは二人でもアヤトでもなく。
「ふう……間に合った」
「フロッツさん、すぐに退避してください!」
間に合わないと諦めていたスレイとカナリアだった。
アヤトに対する警戒心が予想以上で囮が上手くいかず窮地に立たされた中で強力な援軍が到着しました。
ラタニを救う戦いなら最も慕っている小隊員が抜きのまま、というのもアレですからね。
ただ間に合わないと思われた中で二人が到着した理由、またなぜ小隊員の中でスレイとカナリアのみ間に合ったのかについてはもちろん次回で。
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