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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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誇らしい成果

アクセスありがとうございます!



「爺さん、フロッツは下がれ」


 早めに休憩を終えたアヤトは飛び出すなり指示を飛ばす。今後に備えて最初にエニシを休息に回すと同時にフロッツをミューズの護衛に回すつもりで。


「エニシさん、お疲れ」

「お疲れさまです」

「ありがとうございます……ふう」


 指示通りロロベリアたちの元へ戻ったエニシはツクヨから受け取った水筒で水分補給を。全方位に注意を向けつつ常に動き回っていれば疲労も相当、休める内に休むのは鉄則。

 加えて休息中はラタニの観察、俯瞰で見ることで次の出番に備える必要がある。


「いやはや……暴走してもラタニさまはアヤトさまが大好きなようで」


 冗談交じりに呟くよう、先ほどまでは距離の近い相手に攻撃を集中させていたはずが今は距離関係なくアヤト側に偏っている。恐らく本能からより脅威を感じる者を排除しようとしているのか。

 エニシとダリアはアヤトの変わりに注意を引きつけるのが役目。これでは多少の役にしか立たないが今は好機にもなるわけで。


「良いのか悪いのかちょっとは楽できそうだ。ミューズちゃん、行くぞ」

「はい!」


 フロッツも感じているようにラタニの敵意がアヤトに偏っているのなら他は散漫ということ。ミューズの役割を完遂するには出来る限り距離を詰めなければならないだけにフロッツはやりやすくなる。


「行ってこい、聖女ちゃん」

「フロッツさんも頑張ってください」

「お任せあれ」

「いってきます」


 ツクヨとロロベリアの檄を受けフロッツに負ぶさりミューズは精霊力を解放、飛翔術でラタニの元に向かっていく。

 合わせてアヤトとダリアは対角線上に位置取り少しでも近づけるよう配慮を忘れない。もちろん背後を取ろうと精霊力を感知され近づけば迎撃されるが、やはり先ほどに比べて手数は少なく、黒弾を交わしつつフロッツは順調に距離を詰めていく。


「どうだミューズちゃん!」

「まだ……視えません」


 五〇メルほど近づき確認するもミューズは首を振る。

 距離を縮めたことでラタニの精霊力は視認できるも変貌時と同じく、黒い精霊力が渦巻いているのみ。特により激しく渦巻く心臓付近は視るだけでも吐き気がするほどおぞましい。


「ならもうちょい近づくか」

「……すみません」


 故に視認できないのは距離以前の問題かと自信をなくすミューズに構わずフロッツは更に距離を縮めてくれる。

 近づけば近づくだけ危険度は増すのに、自分を心配させないよう努めて冷静に振る舞っているのは精霊力の輝きで判別できる。こんな状況下でも相手に対する配慮が出来るフロッツに敬意を抱く反面、無理をさせている自分が不甲斐ない。

 それでもラタニを救う為には何よりも自分が体内にある精霊石を見つけなければ始まらない。アヤトやロロベリアに繋げるためにもまず役割を果たさなければ――


『悪い、ちょっと頑張っててくれ!』


「……え」


 そう必死に自身を鼓舞するミューズだったが、突如フロッツは声を拡張させてアヤトやダリアに向けて告げるなり方向転換。

 近づくと言ったばかりなのにむしろ大きく距離を取り始め困惑するミューズを他所に、フロッツは地上に降り立ってしまう。

 今も注意を引きつけるためにアヤトやダリアは危険な役割を努めているのだ。


「あの――」

「相手の精霊力が視えるってなら、それは精霊力を利用した力と同じようなもんだ」


 こんな所で休んでいる暇はないと訴える間もなく、フロッツは言葉を被せてくる。


「そんでもって精霊力の扱いは精神が大きく作用する。つまり緊張でガチガチになってたら視えるものも視えなくなるんじゃないか」


 そのままミューズを地面に下ろし、向き合う形で肩を竦めつつ助言を。

 確かにラタニからも精霊術、延いては精霊力の扱いは精神面が作用すると教えられた。ただ精霊力を視認するこの能力にまで当てはまるとミューズは考えもしなかった。

 また使命感に囚われるあまりミューズが固くなっていると背中越しで伝わったからこそフロッツも間を置くべきと思い立った。

 本当にミューズの眼が精神面に左右されるかは分からなくても、力みすぎては良い結果は得られない。

 更にもう一つ、ミューズの性格上この特異性とどう向き合っているか予想できるだけに伝えたい助言があった。 


「後はミューズちゃんのことだ。その能力を申し訳ないなって忌避してるんじゃないか。自分で能力を拒絶してる内は上手く扱えないぞ」


 相手の感情を読み取る能力は使い方によって莫大な利益を得られる反面、望む望まない関係なく知りたくもない感情を知ってしまう恐ろしい能力だ。

 しかしミューズの場合、優しいが故に恐ろしい以上に相手に対する恐縮を抱く。欲しくなかったと、なぜこんな能力が自分にあるのかと拒絶していただろう。

 もし精霊力と同じように精神面が左右するのなら、自身が拒絶している能力は真価を発揮しない。


「いいか、ミューズちゃん。力の使い方ってのは結局の所、そいつ次第だ。あそこに良いお手本が二人も居るだろ」


 故に今だからこそ自身の能力と向き合わせるのも一つの手と、フロッツが視線を向けるのはラタニとアヤトで。

 方や非合法な実験の影響で持たぬ者でありながら霊力持ちと互角以上の能力を得た上に、神と契約して人知を越える力を手に入れた。

 方や両親の所業により従来の精霊術士を軽く凌駕する精霊力を秘め、やはり人知を越える力を手に入れている。

 両者の共通する部分は元より望んでいなかった力を受け入れた上で、その力に魅入られなかったこと。

 それこそ一国を傾けかねない強大な力を私欲に走らず、周囲の為に振るい続ける在り方はまさにお手本となるべき存在で。

 それがどれだけ難しい使い方なのかは重々承知。


「ミューズちゃんなら大丈夫だ。あの二人みたいにその力を間違わず扱える。それでも心配なら俺たちの存在を思い出せ。間違えそうになったら全力で叱って、導いてやるからよ」


 むしろ二人のように魅入られない方が希有だからこそフロッツは一人で怖がらず、もっと周囲に頼るようミューズの頭を優しく撫でる。


「前も言ったろ? ミューズちゃんの周りには頼りになる存在がいっぱい居るってな」


 公国から戻る途中、ロロベリアと先に帰国したアヤトを追いかけている最中でも助言したように、ミューズは一人で抱え込む癖がある。

 あの時はアヤトとの恋路に対する助言だったが、特異性や役割についても同じこと。

 一人で向き合うのが怖いなら、誰かと一緒に向き合えばいい。

 ミューズの問題を一緒に抱えるのが嫌だと渋る者など周囲にはいない。少なくともここに一人、進んで抱えようとしている自分が居るぞと伝える為にフロッツはこんな状況下でも向き合っているのだ。


「だからもっと気楽に、その力と向き合ってもいいんじゃないか」

「……ですね」


 フロッツの気持ちが伝わったのか、ミューズの表情に柔らかな笑みが漏れる。

 この能力が精神面に左右されるかは分からなくてもこの助言は間違っていない。

 序列選考戦後、リースと一緒に受けた訓練でアヤトに指摘されて本格的にこの能力と向き合うと決めたのに、まだ心のどこかで拒絶していたと言われても否定できない。

 しかしロロベリアもエレノアも、他のみんなも自分の特異性を知っても変わらず接してくれた。感情を読まれるのは嫌だとか、異質な存在だと敬遠する感情を一切抱かなかった。それは自分に対する信頼の現れで。

 なら周囲が受け入れてくれたこの力を、自分が否定し続けるのは違う。

 また自分一人でラタニを救おうとしているのではない。多くの協力を得て、みんなで救おうとしているのだ。

 こんなにも心強い仲間がいるのに、なにを一人で気負っていたのか。


「行きましょう、フロッツさん」

「良い子だ」


 ミューズの瞳に強い輝きが宿ったことに満足したフロッツは再び背負い上空へ。


 その変化を感じたのはフロッツだけではなかった。


「アヤト殿!」


 ここが山場と察したダリアは援護に回るべくラタニの引き付けをアヤトに任せて後退。


「構わねぇよ――ツキっ」

 

「へへ……上等だ」

「では援護をお願いします」


 更にアヤトに呼ばれたツクヨも精霊力を解放、エニシと共に飛び出した。


「フロッツ、構わず行け!」

「おうよ!」


 そのまま二人と合流したダリアの指示通りフロッツは一直線に飛翔。


「剣聖さまとエニシさんはあっちに集中してくれ!」

「頼みましたぞ!」

「助かる!」


 黒弾や風刃を地上からダリアとエニシが精霊力を飛ばして迎撃、その間無防備になる二人をツクヨが守る作戦で。


『アアアア――――ッ』


 三人の援護によってフロッツは攻撃を気にせず距離を詰められるも、三〇メルまで接近したところでラタニの精霊力が増した。

 いくらアヤト以外に脅威を感じなくとも近づかれれば別なのか。これ以上の手数となればさすがに迎撃は不可能だが――


()()()()()()()()()?」


『ァ――ッ』


 直後、刀を引き抜く仕草でアヤトは白夜を顕現。

 狙い通り神気の塊、白夜に反応したラタニの動きが止まった。

 それは一秒程度、しかしその僅かな時間の間にラタニとの距離は一気に縮まり。


 真横を通り過ぎた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()


「ここにあります!」


 自身の胸、やや左側の鎖骨下を指さし声を張り上げアヤトに伝える。

 膨れあがった精霊力がラタニの動きに合わせて収まったからか。

 それともフロッツの助言が功を奏したのか分からないが、渦巻く精霊力の中に漆黒の輝きが形となって視認できた。


「目測になりますが直径三センメルの球体です!」

「それだけわかりゃ充分だ」


 所詮は目測、位置も感覚に過ぎないが成果は充分と、体勢を整えるべく再びラタニの注意を引きつけながらもアヤトはミューズに向けて手を挙げる。

 その合図で無事役割を果たせたと実感したミューズは安堵から息を吐く。

 まだまだ気を抜けない状況は続くがそれでも。

 

「良くやったな」

「みなさんのお陰です……ありがとうございました」


 みんなの期待に応えられた自分が少しだけ誇らしく思えた。




まずはミューズが無事役割を果たしました。

責任感が強いだけに自分が失敗したらと気負うミューズに対し、フロッツはいい助言をしましたね。また余裕のない状況下で自身の特異性を知られたことで気づかなかった周囲の反応を思い出す良い機会にもなりました。

結局のところ、ミューズも自身の特異性を周囲にどう思われるかが怖く、感情を読む能力を拒絶していました。ですが周囲が受け入れてくれた能力と向き合い、自分自身も受け入れたことで気持ちが軽くなり、成果を出せたのでしょう。

周囲の助言を素直に聞き入れて、実戦できるのもミューズの強さですね。



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