救われた先を求めて
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サクラの役割はアレクかレイドに術士団らの足止めを頼むこと。軍の精鋭部隊も王族の命令ならそう簡単に無下に出来ない。
ただ同じ王族のエレノアがいる中でわざわざ二人に頼む理由についてアヤトは二人の方が適任だと口にするのみ。時間が差し迫っていることもあり一先ず二人に協力を要請し、無理ならエレノアが担う形で話は纏まっている。
そしてもう一つ、サクラの役割は三人の誰かを合流ポイント付近まで送り届けること。王都内ならまだ融通も利くが、王族を王都外に連れ出すには明確な理由や護衛が必要。故にサクラが王都に用意している屋敷に招待する、という口実で誘い出しそのまま向かう流れも、皇女という立場でありながら使用人らに融通の利くサクラならではの役割だった。
しかしラタニを救う為にそれぞれが役割を果たすために動く中、王城に向かうサクラは馬車内でマヤに連絡を取っていた。
というのも別行動を始める寸前、アヤトから連絡を取るよう指示を受けたからで。神気のアクセサリーについてマヤは譲渡こそ許したものの、アヤトからの連絡は対価が必要という条件は許されていない。要はサクラ側から連絡を取らなければならないと、実に面倒な条件だったがそれはさておき。
「……そういうことであったか」
マヤ伝手にアヤトとの連絡を取り終えたサクラは背もたれに深く体を預ける。
なぜアヤトがエレノアではなくアレクやレイドにこの役割を任せたかったのか。
出来る限り事情を伏せた上で、術士団を納得させるにはエレノアよりも弁の立つ二人が適任だとサクラは予想していたが真意を聞いて納得。あの場で詳しい理由を避けたのもアヤトなりの気遣いと、本当の意味でラタニを救う為には必要な拘りでもあった。
「たしかにこの役割は妾が適任でもあるか」
ならばとより気合いを入れたサクラは別行動中のメンバーの状況を小まめに確認しつつ王城へ。
二人との面会を希望し、応接室で待つことしばし。
「待たせたね、サクラくん」
「…………」
同時に姿を現す二人だがどこか陰りが見えながらも柔和な笑みを浮かべるレイドに対し、アレクは俯き気味に会釈するのみ。
「こちらこそ急な訪問にお応えいただき、感謝します」
なにも知らなければ二人の様子に疑問視していたが、事情を知っているからこそサクラは気にも止めず形式上の挨拶を交わす。
「それでボクと兄さんにどんな用かな? もちろんただティータイムを楽しみに来た、という理由でも歓迎するよ」
「実はお二人に学院での生活について、相談したいことがあってのう」
「相談? 学院で何があったのかい」
「先に否定しておくが不満ではなく、みな良くしてくれておる。しかし少々気になることがある故、卒業された先輩方の意見を伺おうと思い来たわけじゃ」
「……そういうことか。なら使用人は下がらせた方がいいね」
そして着席後、サクラの申し出に小さく頷いたレイドは使用人に目配せを。
学院についての話とは言え一国の皇女がわざわざ訪問するまでの相談事、故にプライベートを尊重して使用人も室内を後にした。
「これでいいかな?」
「どうやらレイド殿はある程度察しているようじゃ」
「本当にある程度、でしかないけどね」
からの、よりフランクな対応を見せるレイドにサクラは苦笑。
まあ詳しい事情を知らなくともレイドはアヤトの擬神化を目の当たりにしている。元より頭のキレるタイプだけに、ラタニの現状からある程度訪問理由も予想していたはず。
故にサクラの申し出に合わせて人払いをしてくれたらしい。
「……なんの話をしているんだ」
ただ本当になにも知らないアレクは二人のやり取りについて行けず訝しむのみ。
「ラタニ殿の話をしておる」
「ラタニさんの……?」
「まずはアヤトについて話すかのう」
故にアヤトに託されここに来たサクラは望み通り知ってもらうため、全てを話すことに。 二人はアヤトが非合法の人体実験の被害者なのは知っているも、ラタニに救われる前に神と出会い契約を結んだことは知らない。
更に帝国や教国の裏で起きた事件に絡んでいたことも、ノア=スフィネ討伐に関わっていたこともだ。
この時点で驚愕のあまり言葉を失うアレクを他所にレイドは腑に落ちた表情を見せる。恐らく擬神化が神の力によるものと理解したのか。
とにかく簡潔にアヤトとマヤの説明を終えれば、続いてロロベリアとミューズの特異性について触れつつノア=スフィネの精霊石の欠片を使った実験、黒い精霊力について説明していく。
その上で国王が精霊の咆哮でラタニを殲滅するべく動いている可能性、その前にラタニを救う為に現在アヤトたちが動き始めたこと。
神気のアクセサリーによる連絡手段、白夜やロロベリアの精霊力による救出法、それぞれの役割を伝え、二人には術士団らの引き止めを頼むつもりだった。
つまりラタニの出生についてサクラは伏せるつもりでいた。アヤトたちは本人の了承があったことで明かせたが、ラタニの出生は本人も知られたくないはず。説明しなくとも二人を納得させる自信があるのなら、せめてうち明けるか伏せるかはラタニが判断するべきと考えていた。
しかしアヤトの拘り、ラタニとアレクの関係を知ったからこそサクラは全てをうち明けると決めた。
「先生にそんな過去が……」
「………………」
さすがのレイドも動揺が隠しきれず、アレクに至っては完全に沈黙してしまう。
それだけラタニの出生は衝撃的なもの。特に想い人が霊獣に限りなく近い存在と知ればショックの余り思考停止もするだろう。
だが知った上でアレクには決断して欲しい。
「アヤトから聞いたが、ラタニ殿には夢があったそうじゃ」
なぜラタニが急に約束を反故にしたのか。
なぜアレクと一線を引き続けたのか。
「惚れた男と公園のベンチで一緒にお茶を飲みながら、何気ない話をしたい」
普通の子として生まれていればそう難しくない夢。
身分の壁があろうとラタニなら叶えられるはずだったささやかな時間。
「しかし自身の出生を知ったことで、もう叶わない夢だとぼやいていたそうじゃ」
にも関わらずなぜ諦めたのか。
そしてなぜアヤトがサクラにだけラタニの夢、アレクとの関係を教えたのか。
本人曰く他者の恋路を広める趣味はないとのこと。故に二人の関係を察していたレイドなら構わないらしいが、他にも目的があった。
本当の意味でラタニを救うなら、囚われ続けている出生も含めて解放する必要がある。
つまりラタニの夢を叶える覚悟がアレクにあるのか。
ラタニの出生を知っても尚、居場所となれるのか。
あるのなら言葉だけでなく行動で示せ。
要はラタニを救う為に少しは協力しろとのメッセージが込められていた。
「アレク殿下よ。なぜラタニ殿が叶わぬ夢だと嘆いたのか……分からぬか」
もし受け入れられないのならそれまで。
王族となれば世継ぎの問題もある。居場所となるには相応の覚悟が必要なので拒むのも仕方がない。
「分かるのであれば、お主はどうしたい」
またこの期に及んでラタニの押し留めていた想いに気づかなければそれまで。
アレクに変わりレイドかエレノアが役割を担えばいいと期待半分のように言っていたが、アヤトも結果を予想していたのだろう。
現にラタニの夢を知った当初こそ戸惑いを見せたものの。
「私は――」
サクラの問いかけに答える際、アレクの眼に迷いは微塵も感じられなかった。
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・
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「見直したよ……兄さん」
数分後、サクラと共に退室したアレクを見送ったレイドはため息一つ。
アレクは王族としての矜持を捨ててラタニを選んだが、その決断を軽蔑するつもりはない。
むしろあの時アレクが決断しなければ自分が変わって役目を果たすつもりでいたが、所詮は役不足。
残念ではあるがこれでアレクは本当の幸せを掴むことが出来る。
もちろんラタニを救えればの話だが、今は弟として素直に祝福するつもりで。
「でもボクだけ何もしないわけにもいかないね」
そして特に求められなかったレイドも、アヤトが望む役割を自ら模索して動き始めた。
予想されてたかもですがアヤトはラタニの居場所に拘りアレクに協力を求めました。
アヤトが自分の過去やマヤとの契約などを知られ、周囲に拒絶されるのが怖くて逃げていたように、ラタニも出生を知られてアレクに拒絶されるのが一番怖かったと思います。
ですが全てを知っても周囲が変わらず受け入れてくれたように、アレクも受け入れてくれると期待していたのでしょう。故にサクラを通じてメッセージを送り、アレクは応えてくれました。
ですが居場所を用意できても、なによりもまずはラタニを黒い精霊力から解放しなければ意味はありません。
つまり次回から再びメインストーリーに戻ります。
ちなみにレイドさまがラタニとアレクの関係を知った上で、陰でアヤトに協定を求めていた理由、更にこの後どんな役割を務めたかについては後ほど明かされます。
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