回想 変改の欠片 四年越しに
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「――なるほどな。だからお前は俺を拾ったわけか」
「まあ、そうなるねん」
出生を知ったアヤトの確認にラタニは正直に返答。
アヤトは非合法な実験に巻き込まれた被害者。加えてストリートチルドレンの行方不明について調べている中で、その実験を主導していた貴族が自分の両親と何らかの繋がりがあったことも確認している。
つまりマヤとの取り引きとは別に、被験者という同じ境遇や間接的だろうと両親の被害者が故にラタニは同情や贖罪からアヤトを引き取った。
また同じ異質な存在だからこそ心を許せている。
普通の生まれとは異なるラタニと、非合法な実験で異常な力を手に入れただけでなく神と契約したアヤト。
周囲とは違う存在同士という共通点はラタニにとってある種の安心感を与えてくれた。もしかすると出生からナーダの家族になれない辛さを埋めたくて、強引にでもアヤトとの繋がりを維持したいのかもしれない。
要は寂しいのだ。
実の両親には裏切られ、誰とも家族になれない孤独を埋めたくて。
家族ごっこをアヤトに求めていると自覚しているが、お陰で自分はもう独りではないと感じたからこそ、最後の最後でアレクと決別できた。
「俺には未練たらたらにした見えんがな」
「勝手にラタニさんの心を読むなし」
「読む以前に、王子さまとの馴れ初めを話しているお前の情けない面で丸わかりだ」
「そりゃ失敗」
などと思いに耽ているとアヤトから容赦ない指摘が。
まあ未練を完全に断ち切れていないと自覚しているだけにラタニも否定しない。簡単に断ち切れるような想いなら最初から絶望などしなかった。
しかしアヤトとの出会いが強がりだろうと決別を告げられた。
絶望から自棄になっていたラタニはナーダを始めとした周囲の気遣いのお陰で少しずつ前を向くようになった。
にも関わらずアヤトは最初から前を向いていた。
手に入れた力をものにするべく自ら過酷な訓練を課した結果、今では王国最強の精霊騎士を凌駕するまで成長した。
しかも本人は周囲に振り回されない強さが欲しいと口にしているが、ラタニに訓練を願った際に苛正しくも何かを守る力を求めるような心情を呟いていた。
その何かは恐らくマヤとの契約で失った時間が関係している。どんな時間かは予想も付かないが、アヤトも自分と同じように誰かと約束をしたのかもしれない。
この約束が被験者としての地獄の日々を生き延び、常に前を向き続ける原動力となったのだろう。
似た境遇で、別に望んでもいない力を手に入れても自分のように悲観せず、自棄にもならず、時間を失おうと、約束を守ろうと努力するその強さにラタニは憧れたのだ。
故に所詮は家族ごっこだろうと弟にも格好いい姉に思われたいとの意地から強がれた。
いつまでも弟の目標であり続けたいとラタニも更なる高みを目指せた。
そしてマヤとの契約で失った時間、被験者として失った時間を少しでも取り戻して欲しい。
自分とは違って前を向き続ける弟の強さが報われて欲しい。
最悪な約束で縛り付けておきながら、今さら何をと思われるかも知れないが。
何かを守ることは、まず己が守られることで学ぶと言うのなら。
「でも今はお姉ちゃんにもやりたいことができたからねぇ。未練たらたらでもそっちで大忙しだからご安心を」
姉として最後まで見守りたい。
そんな意思を軽口で伝えればアヤトはため息一つ。
「誰が姉だ」
「目の前に居るあたしだよん。ちなみにあたしの目の前に居るのが弟さね」
「言ってろ」
「何度でも言ってやるさね」
面倒げにあしらわれたが、これは勝手な望みなだけにラタニもカラカラと笑って。
「困ったことがあれば何でもお姉ちゃんに言うんよ」
「だから、誰が姉だ」
「好きに言ってろと言ったのはアヤトじゃまいか」
「誰も好きになんて言ってねぇだろ」
「かもねん」
全てをうち明けた後でも変わらないやり取りに心地よさを感じつつ、アヤトとの時間を楽しんだ。
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『ガァァァ――ッ』
「――ふん」
黒弾を放つラタニに対し、アヤトは躊躇うことなく跳躍。
迫る黒弾を朧月で両断しつつ距離を詰め、すれ違いざまにラタニに向けて朧月を一閃。
「痛み分けだったとはいえ、不用意すぎだろ」
そのまま着地したアヤトは振り返りもせず肩を竦めるよう、朧月の一閃によってラタニの前髪が数本ぱらぱらと落ちていく。
前回はラタニの浮遊する位置が高く精霊術の発動を利用して距離を詰めたが、届く位置にいればこの程度の挑発は造作もない。
加えて今は冷静でいられるのも大きい。
「それとも約束通り殺して欲しかったのか。なら残念だったな」
『――――』
「もう俺にその気はねぇよ」
殺すためではなく救うために振るう、この違いが一振りに現れていると朧月の峰で軽く肩を叩く。
そして救う為には何よりもまず誘い出すことが先決。
故に注意を惹きつける意味も込めて挑発染みた一閃を振るった。
『ウ……アアアア――――ッ』
「むろん反故するつもりはねぇから安心しろ」
咆哮と共に敵意を向けるラタニにほくそ笑みアヤトは疾走。
狙い通り猛追しながら黒弾や黒刃を放つラタニの攻撃を躱しながら森林地帯を抜けた。
『アアア――ッ』
「相変わらずぎゃーぎゃーうるせぇ」
そのまま海岸沿いに疾走する間も猛攻は続くが、ラタニが飛翔していようと速度はアヤトに分がある。
つまり合流ポイントまで誘い出すのは難しくないが油断は禁物。
「……四年前、聞いてもねぇのにお前は話してくれた」
にも関わらず背後からの猛攻を避けながらアヤトは語りかける。
「照れ屋が故に本心を濁し、しかし単純が故に感情丸出しでな」
もちろん自我を失う以前に黒弾や黒刃、更には精霊術を放たれてはその声は届かない。
「ま、不器用ながらも歩み寄ろうとしてくれたと良い方に捉えてやるよ」
それでも構わないとアヤトは続ける。
あの時は歩み寄ってくれたラタニの気持ちに応えてやれなかった。
強いて言うなら当時はまだ自身の感情をよく理解していなかっただけかもしれない。
「言っておくが、これが最後だからじゃねぇ」
しかしようやく理解したからこそ。
「こんな状況だからこそ言えるんだよ」
マヤには聞かれているが、あの時はラタニも同じ条件で語ってくれたのなら。
最初から自己満足だと口にしたように。
「でなければ小っ恥ずかしいじゃねぇか……なあ、ラタニ」
今度は自分が歩み寄る番だと、四年越しに自身の気持ちを語り始めた。
前回の回想も踏まえ、更に詳しくラタニの心情に触れました。
改めてラタニがアヤトをどう思っているのか、憧れている理由や、今まで見守り続けていた理由など知って頂けたかと。
まあ少々歪かも知れませんが、ラタニにとってアヤトは唯一心を許せる存在で、家族としても愛していたからこそ最後まで弟の未来を見守るつもりでした。
そんなラタニの気持ちを察しても、当時は何だかんだ姉として慕ってはいても、まだ曖昧な感情が多かったアヤトは適当にあしらうことしかできませんでした。
ですが四年の間に、ようやく自身の感情を理解したことで、お返しと言わんばかりにその気持ちを伝えることにしました。
ただラタニが自我を失っている状況だからこそ伝えらる辺りが捻くれ者で、こんな状況に何してるの? という辺りもアヤトくんですね。
それはさておき、小っ恥ずかしいアヤトのラタニに対する本心については、本格的に始まった合流ポイントまでのおいかけっこと共に次回で。
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