回想 変化の欠片 二人の関係
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ワイズとの御前試合に勝利したラタニは翌日、国王から術士団の入団を勧められた。
ただこの流れはラタニにとって想定内。御前試合で見たワイズの精霊術から、何となく彼は敗北を理由に宮廷精霊術士団長の座から身を引くと読み取っていたのだ。
加えて王国最強を撃ち破った自分を学院に通わせる意味はない。つまり精霊術士の座を自分に着かせるべく、早々に軍務に関わらせるとは予想できる。
また先の思惑も感じ取っていただけに、予想通りの推薦を受けたラタニは先手を打つべく自らの出生を明かした。
なんせ国王のレグリスは持つ者や持たぬ者、または貴族平民に拘らず個々の能力を重視する政策を取っている。
更にナーダが養子として受け入れようとしているのも知っているだろう。養子といえど侯爵家の一員となれば、地位に固執する有力貴族も渋々だろうと受け入れるはず。
つまりアレクかレイドと婚約させてラタニを王族に引き入れるのも可能。平民の血を引いていようと自分の才覚、延いては王国最強の肩書きはそれだけの価値がある。
しかし平民の血以前に普通の人間ではない生まれ。そもそも普通の子を産める体かも疑問なバケモノの血を王族に取り入れるのはリスクが高すぎる。
この出生を持つからこそナーダの申し出を受け入れなかった。
自分が本物のバケモノだと知ったからこそ共に描いた夢を、一緒に居られる夢を捨てたのだ。
なのに全てを知られれば失ってしまう希望など持ちかけないで欲しいと。
故の先手だ。いつ暴走するか分からないバケモノだと知られれば、術士団の話も無しになるかもしれない。
最悪排除されるかもしれないが、そうなったらそうなっただ。
元よりナーダの望みを別の形で叶えたいと復活の道を選んだだけ。
下手に希望を抱くよりは早々に現実を突きつけられた方がマシだと、半ば自棄な気持ちでレグリスとマーレグに出生をうち明けた。
「それでも、あたしを飼う覚悟はありますか?」
「「…………」」
予想通り二人は深刻な表情で自分を見据えていた。
まるでバケモノを見るような目で、まあその通りなのでラタニも特になにも感じなかったのだが――
「先ほど話した通り、予はお主の術士団入りを勧めるぞ」
「……あん?」
レグリスの結論は変わらず逆にラタニが驚かされてしまった。
「本当にいいんですか」
「不安がないと言われれば否定はせぬ。しかし予はワイズを信じると決めたのよ」
「なんでここでワイズさまなんよ」
「あやつがお主を術士団に引き入れるよう推薦した。王国の未来にお主という存在はきっと必要になると」
「…………」
「お主を信用するには時間は足りぬが、ワイズが信用できる男なのは長い時間を掛けて知っておる。要はあやつが必要というのなら必要だということよ」
だがレグリスの本心を聞いて納得。
バケモノの自分は信用できないが、ワイズは信用できる。
実にシンプルな判断基準で、むしろろくに知らない自分を信用できないとハッキリ告げたレグリスの物言いにラタニは好感が持てた。
「マーレグも構わぬな」
「陛下が決めたのであれば。それに彼女の実力はリスクを背負う価値はあると私も判断していますので」
「若いながらもワイズを圧倒したなら当然か。その力を制御するだけの研鑽は後進の育成にも繋がる、そう言った面でもリスクを背負うだけの価値はある。このような打算込みの理由になるが、お主は受け入れるか」
そしてバケモノを飼うリスクを負ってでも国の未来、若い可能性の育成に目を向ける志を知り、ラタニもささやかな誠意として出来る限り迷惑をかけないよう飼われると決めた。
「なら暴走する前に自決しなきゃなー。体はバケモノでも心まではバケモノになりたくないんで」
軽い口調でもこれ以上誰かの命を奪いたくない。
その意思が伝わったのかレグリスやマーレグも笑い話で終えることなく。
「これからお主の本質を知るのが楽しみだ」
「あたしも国王さまのことを知るのがちょいと楽しみだ。てなわけで国王さま、早速だけど術士団に入団する条件を話し合いましょうよ」
「よかろう。お主の希望は」
「ナーダさまに迷惑かけないよう独り立ちするに充分なお給料は当然として、術士団にお勤めしつつ卒業まで学院に通わせてもらえませんか」
「……兼任ということか」
「半端にやめちゃうのも性に合わないってのもあるけど、バケモノだって青春したいんですよ」
そのまま交渉に移る際、学院生の兼任を希望したのはやはり未練が残っていたのかもしれない。
共に描いた夢は叶わなくても、マイレーヌ学院の先輩後輩として再会する約束だけは果たせる。
もちろんその先の未来は望んでいない。
現に再会の約束を果たした時、ラタニは未練を断ち切るために決別を告げたのだ。
ただその決別を告げられたのは。
半年前の出会いがなければ無理だったかもしれない――
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『――兄様、パーティー会場の準備は整ったとユースさまから連絡がありました』
森林地帯に入ってすぐ、適当な樹木に背を預け目を閉じていたアヤトの脳内にマヤの声が響く。
「なにがパーティー会場だ……たく」
待ち望んでいた報告、しかし呑気な表現に目を開けたアヤトはため息一つ。
『サクラさまからも連絡がありましたし、とりあえず間に合いましたね』
「全くだ」
クスクスと笑うマヤに相づちを返しつつ、土埃を払いながら立ち上がり体の調子を確かめる。ディーンのお陰で疲労を最小限に抑えられた上に、僅かでも休めたとはいえ本調子にはまだ時間は必要。
レグリスもダラードに到着してすぐに精霊の咆哮を撃つとは思えない。
恐らく包囲網を敷く術士団と予め時間を決めて、まだ森林地帯にラタニがいるとの合図を送られてから撃つだろう。
術士団に動きがないのなら予定時刻は先のはず。
しかし所詮は予想、レグリスが到着する時刻も推定したものなら尚更だ。
故にこちらの準備が整ったのなら即実行に移すのみとアヤトは森林地帯の奥へと歩を進めた。
精霊力を感じられなくとも伝わる禍々しい気配を辿れば迷うことなくラタニの居場所に辿り着ける。
そして中心地に近い、開けた場所にラタニは居た。
アヤトが姿を現せても反応せず、抱えた膝に顔を埋めて座り込んだままで。
ツクヨが予想したように、自然界の精霊力が濃い場所で黒い精霊力に抗っているのかもしれない。
ただ何もないところでぽつんと独り座り込むその姿が、ラタニの心を表しているようにも見えた。
人知れず抱える恐怖、寂しさ、不満、悲しみを知られないように顔を隠し、周囲に踏み込ませないよう体を縮込ませて。
同じだからと、唯一本心をさらけ出せる相手に出会えたと。
自分にだけは様々な思いを語ってくれたが、それでも肝心な部分を隠しているのは察していた。
もちろん不満はない。なんせ自分はラタニ以上に様々な思いを隠している。
なにより自分たちの関係だからと言って、全てをさらけ出す必要はない。
しかし、それでもと――
「ようラタニ」
苦笑を浮かべて一歩近づけば、ラタニの顔がゆっくりと向けられた。
僅かに残っているであろうラタニの意思が反応したわけでもない。
その証拠に向けられる漆黒の双眸からは全く感情が読み取れない。
「慣れなていないが故に、上手く伝わる自信はない。つーか聞こえているかも怪しいか」
だが擬神化と共に朧月に手を添えるなり黒焔がラタニの全身を覆った。
「ま、聞こえてない方が助かるんだが……少々俺の自己満足に付き合ってくれ」
『ア……アア…………』
昨日の対峙と同じく脅威と感じたのか黒焔が拡大していく。
そして漆黒と白銀の双眸と漆黒の双眸が交わり。
『アアアアァァァァァァ――――ッ』
「おいかけっこでもしながらな――っ」
襲い来るラタニに対し、軽口を叩きながらアヤトは朧月を抜いた。
回想でのレグリスのハッキリとした物言いもまた、疑心になっているラタニには心地よかったと思います。
そしてお互いの本心を知っていく内に、ラタニもレグリスに信頼を向けるようになり、レグリスもラタニに信頼を向けるようになりました。だからこそラタニ大切な存在に酷な役目を任し、悲しませるくらいならとレグリス自身が終わらせる覚悟に繋がったのかもですね。
また回想後、再びラタニとアヤトは対峙しました。
ただアヤトとの出会いが切っ掛けでラタニに変化が起きたように、ラタニとの出会いが切っ掛けでアヤトにも変化が起きているのは言うまでもありませんね。
その辺りについてはもちろん次回で。
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