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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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最初の役割

アクセスありがとうございます!



 ラタニを救う為、そして国王が放つであろう精霊の咆哮を回避するべくアヤトが提案した策は実に単純なものだった。


「まず俺が単独で森林地帯に向かいラタニを誘い出す」


 みなが注目する中アヤトが地図に印を付けたのは森林地帯から西の方角、周辺に港もなく、街道からも離れた海岸沿いの一帯。

 先ほどサクラが囲った精霊の咆哮の射程範囲からも大きく外れている。つまりラタニが撃たれないことを最優先とした上で、場所を変えて予定通り決戦に挑むもの。


「この場所なら王都から馬車を使えば二時間も掛からんし、運が良ければカナリアたちも間に合う。海に面していれば人払いもそう難しくねぇ」

「つまり事前に人が居ないかを確認するつもりじゃな」

「それと俺たちがラタニと遣り合っている間の人避けもか。相当派手な遣り合いになるから目立つ、興味本位で来られても面倒だ」


 サクラの確認に頷き、続いて王都側に湾曲の線を引いていく。最初に印を付けた位置から二キメルほど距離を取ったのは、激しい戦闘に人避けを担う者が巻き込まれないよう余裕を持ったのだろう。


「でもよ、いくら海岸沿いだからって結構な範囲になるぞ。ここに居る面子じゃさすがにカバーしきれないだろ」

「それにアヤト一人で向かうって……ただでさえ体調が万全じゃないのにお姉ちゃんを合流ポイントまで誘い出すのも負担が掛かりすぎじゃない」

「アーメリ特別講師が森林地帯から出てしまえば、包囲網を敷いている術士団が追ってくる可能性もありますね」


 しかしこの提案はユース、ロロベリア、レガートがみなの意見を代弁するよう問題があるがアヤトも承知の上で解決策を提示。


「人避けについてはクローネに頼めばいい」

「は? それだとお袋殿にも知られちまうぞ」

「元よりここに居る面子だけでやるつもりはねぇよ」


 予想外の方法にユースが追求するもアヤトはしれっと返す。


「むろん協力者は最小限だ。でなければラタニが無駄に気を遣う」

「……確かに、広めすぎれば本当の意味でラタニさんは救われないか」

「クローネはラタニからの信頼も厚い、人手も含めて最高の人選だ。ま、俺やマヤ以外の面倒事も知られちまうが、お前らも構わんだろう」

「もちろんです」

「むしろ良い切っ掛けになったかも」


 アヤトの真意に特異性を知られるミューズはもちろん、いつかはクローネやサーヴェルにもうち明けることを考えていたロロベリアも了承。


「ただお義母さまだけでなくお義父さまにも話したいけど、そっちも良いでしょ?」

「好きにしろ。二人には直接話すつもりでいるが、説明が面倒ならお前から話せ」

「お袋殿と交渉するのはオレの役目ってわけね」

「俺たちとのやり取りも含めてだ。マヤ、俺から神気のアクセサリーを持つ者には対価が必要でも、逆なら必要ないんだろ」

「……つまりユースさまにどなたかのアクセサリーを持たせると」

「ユース以外にもだ」


 更に神気のアクセサリーを一時的に譲渡することで上手く連携を取れるようマヤと交渉。


「お誕生日会やプレゼントのお返しとして白いのにサービスしたのなら、他の連中にも多少のサービスくらいはしてやってもいいんじゃないですか? 神さま」


「……神さま?」

「エレノア、その話は後ほど」


「相変わらず嫌味な兄様ですね……では、今回ばかりは目を瞑りましょう」


 まだ全てを共有していないエレノアが眉根を潜めるのはさておいて、誕生日会に参加したメンバーにのみ一時的な譲渡にマヤも応じたことでアヤトはほくそ笑む。


「なら少なくとも俺の体調については解決だ。お陰でいい足が手に入ったからな」



 ◇



「――ユースから連絡が来たそうだ」

「は……は……で、どうだって!?」


 からの、アヤトを背負い疾走するディーンは息も切れ切れに問いかけるように、良い足とはディーンのことだった。

 なんせ集まっていた面々でディーンは唯一の風の精霊術士。精霊力を解放した状態で森林地帯に向けて直線上に走り、疲れれば飛翔術に切り替えれば短時間でもかなりの距離を稼げる。加えてディーンが稼いだ距離の分だけアヤトが走る距離は短くなり、負ぶっている間は回復に努められる。

 まあ地味な役割になるもディーンに不服はなく、むしろラタニを救う為の主力となるアヤトの回復に関わるなら地味でも重要な役割だと快く了承。


「商会役員総出で協力してくれるそうだ。安心したならさっさと走れ馬車馬」

「誰が馬車馬だ誰が!」

「叫ぶとそれだけ体力使うぞ」

「お前が叫ばせたんだろ! 『舞え!』」


 ……まあ頭を下げた恭しい態度から一点、いつも通りの悪いお口でこき使うアヤトに苛立ちながらも飛翔術に切り替え従順に役割をこなしていく。

 そんなディーンの努力も実り、三〇分程で三分の一は距離を稼ぐことに成功。


「二割いけば儲けものだったんだが、やるじゃねぇか」

「は! たり……まえだ! 俺を……舐めんな!」


 これにはアヤトも素直に称賛するがディーンからすれば期待してなさすぎると言いたい。

 アヤトと出会ってもうすぐ一年。本格的に訓練を受けるようになってからは地獄のような日々だった。

 他の序列保持者に比べて微々たる成長かもしれないが、それでもディーンなりに試行錯誤を繰り返した。悔しさをバネに成長してきたと自負しているのだ。

 体力面に然り、精霊術の効率的な仕様に然り、少しでも憧れの存在に追いつこうと必死に努力した成果の現れだと。


「いいかカルヴァ……シア! 俺にとってラタニさんは憧れの精霊術士なんだよ!」


 ただ勘違いされては困るとディーンは走りながら一方的に思いの内を叫ぶ。

 同じ平民でありながら若くして最強の精霊術士に登り詰めたラタニはディーンにとって憧れの存在。

 その思いは出生を知っても変わらない。むしろ両親に利用された過去を持ち、いつ暴走するかも分からない不安を抱えながらも周囲に悟られないよう振る舞い、次世代の目標となる頂点でい続けてくれたのだ。

 例え本物のバケモノだろうと、人としての強さに憧れが増した程だ。

 故にラタニにはこれからも憧れの存在でいて欲しい。自分の目標である頂点でい続けて欲しいと、少しでも助けになるなら地味な役割だろうとディーンは全力で協力している。


「だから絶対に……ラタニさんを助けろよ!」

「言われるまでもねぇよ」


 ディーンの思いに背後から心強い返答が。

 なら安心して見送れるとディーンは小さく笑って。


「約束……したからな! カルヴァシア――前に出ろ!」


 立ち止まるなり両肩に手を置き器用に前転したアヤトの両足に向けてディーンは両手を伸ばす。

 

「頼んだぞ……後輩!」

「任せておけ。先輩」


『吹き飛べぇぇぇ――!』


 残り僅かな精霊力を絞り出し、顕現した突風に乗せてアヤトを送り出す。

 最後の最後まで距離を稼ぐ役割を務めたディーンは突風の勢いのまま後方へ倒れ込み。


「あ~……疲れ…………た」


 満足げに意識を失った。



 ・

 ・

 ・



 一時間後――



「――おーい……生きてる、よね?」


「…………いきてるに……きまってるだろ」


 ペチペチと頬を叩く感触に意識を取り戻したディーンは重い瞼を何とか開けて声を絞り出す。

 霞む視界に映るのは不安そうに見詰めるランの顔で。


「良かった。それにしてもこれ、本当に便利ね。お陰で簡単にあんたを見つけられたわ」

「みつけてくれなけりゃ……さすがにこまるって」


 安堵しつつランが見せてくれたのはエニシから借りた神気のカフスボタン。

 限界まで役割を務めたディーンを人気のない野原にそのまま放置するわけにもいかず、アヤトと別れた場所をマヤが報告、後を追っていたランが救出する手筈だった。

 要はディーンがアヤトの運搬役なら、ランの役割は限界まで体力と精霊力を消費して動けなくなったディーンの回収役だったりする。

 ある意味ディーン以上に地味な役割でも、ランからすれば頑張った幼なじみの救出は他に譲りたくない役割で。


「んで……カルヴァシアは……どうなってんの」

「もうすぐ付くみたいよ。ちなみにあんたたちが出発して一時間半くらい、余裕で間に合ったわね」

「……やっぱカルヴァシアもバケモノだ…………」

「なにを今さら。とにかく役目を終えた馬車馬はゆっくり休んでなさい。ほら、あたしの飲みかけだけど水あげるから」

「……お前もやっぱひでぇ……」


 まあ相変わらず素直になれず用意していた水筒を手渡したランは乱雑にディーンを背負う。


「零してあたしにかけたらその辺にぶん投げて帰るから」

「……マジでひでぇ……おれ……がんばったのに」

「はいはい、頑張った頑張った」

「あつかいがざつすぎ……じゃないですかね」


 それでも王都に戻る中、背後から寝息が聞こえてくるなりランは立ち止まりカフスボタンを手にした。


「ディーンが限界まで頑張ったんだから、何がなんでもラタニさんを助けなさい。もちみんな一緒に元気で帰ってくるように、でないとあたしがぶっ飛ばすってアヤトに伝えて」


 クスクスとの笑い声と共にマヤも了承。

 続いてディーンを起こさないよう地面に降ろし、昔と変わらない無邪気な幼なじみの寝顔を眺めつつ。


「後はみんなを信じて、一緒に帰りを待ってようね」


 労いと頭を慈しみを込めてランはディーンの頭を優しく撫でた。


「お疲れさま……ディーン」



 

ラタニを救う為の場所の用意について詳しく触れました。

安全圏までラタニを誘い出す役割も含めてアヤトはかなりの負担を担いますが、その負担を少しでも軽減するためにディーンが頑張りましたね。例え地味な役割でも彼らしい気持ちを前面に出して最後はアヤトを力強く見送りました。

そんなディーンを回収する、というこれまた地味な役割を任されたラン。二人が最初に役割を終えましたがもちろん二人に不満はありません。どちらの役割も必ずラタニを救う力になりますからね。

そして作中でレガートが触れた問題は残っていますがもう少し引っ張るとして、次回はアヤトとラタニが再び対面します。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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