心強い援軍
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時間は遡り、王都近くの港では。
「また王国に来るとはな」
「俺なんか一月も経ってないぜ。ま、ダリーと旅行できるなら大歓迎だけど」
「……私はまたお前と一緒というのが不愉快だが」
教国から丸一日の船旅を終えて港に降り立つダリヤとフロッツの姿が。
アヤトの両親の件でつい最近王国に訪れた二人がなぜ再び訪れたかと言えば――
「そう言うなって。ほら、俺と一緒に来たお陰でダリーも楽できてるんだし」
「確かに一理ある」
「だろ? それに――」
「では荷物を馬車乗り場まで運んでくれればお前も用無しだ。昼の便で帰国して構わないぞ」
「さすがにその扱いは酷くないか!?」
自身の荷物と帯剣している煌刃のみのダリヤに対しフロッツは自身の荷物を背負い、両手には大きなバッグを手にしている。
バッグには神や精霊力に関する文献や神話の書物、中には教皇の許可を得て持ち出した貴重な文献まで収められている。
これは数日前、ミューズから送って欲しいと頼まれた物で、理由は詳しく書かれていなかったがどうもアヤトに関係しているらしい。
故に親バカ……もとい、娘の頼みにリヴァイは大いに張り切り、教国を救った陰の英雄白銀からの依頼として教皇にも頼み込んで集めた物。
ただ貴重な文献もあるため、紛失しないよう信頼できる二人に直接渡すよう依頼したわけで。
「にしても旦那もすっかり親バカだよな。わざわざ理由付けしてまで俺たちに頼んでミューズちゃんとアヤトくんの仲をそれとなく探れって……仕事で忙しくなければ間違いなく自分で行く勢いだったぞ」
「多少行き過ぎに見えるが良い傾向だ」
……まあ実際はフロッツが呆れるように、教国でもミューズやアヤトに近しい二人だからこそ娘と想い人の状況が知れるのではとの狙いもあったりする。
「それに私としてはリヴァイさまの機転に感謝している。お陰で早々にリベンジの機会を得たのだからな」
「さすがにサーヴェル殿との再戦は難しいかもだけど、エニシ殿やアヤトくんとは遊べるか」
それはさておきリヴァイの目論見とは別にダリヤとしては渡りに船。前回の王国行きの際、なし崩しで行われたサーヴェル、エニシとの模擬戦から一層研鑽を積んで習得した技を披露する良い機会と燃えていたりする。
「んじゃ、お届け物ついでにリベンジしに行きますか。この時間ならミューズちゃんもラナクスに戻ってる頃かな」
「ラタニ殿の勲章授与に出席する為にニコレスカ邸に宿泊していたらしいな。もう少し早く出立できればサーヴェル殿とも手合わせ出来たのだが……」
「……さすがに無理だろ」
とにかく最近送られてきた手紙で今朝方ラナクスに戻る予定と書かれていたので二人はラナクス方面の寄り合い馬車乗り場に向かった。
「……なんか妙だな」
「お前の顔が可笑しいのは昔からだ」
「可笑しいじゃなくて妙だよ! じゃなくてなんか周辺の雰囲気がピリついてないか」
「言われてみれば……」
しかし馬車乗り場周辺の様子に二人は立ち止まる。
良く見れば軍人らしき人物が数名、周囲を監視しているようで。
「何かあったのか? ちょっと確認してくるから荷物番頼むわ」
故に両手の荷物をダリヤに任せてフロッツは聞き込みに向かう。対象が女性なのは今さらとして、見知らぬ相手でも簡単にうち解ける人当たりの良さはフロッツの美徳。
お陰で早々に情報を得たようだが、戻って来た表情が優れずダリヤは嫌な予感が。
「どうした?」
「それがよ、昨日の授与式中に精霊種が現れたらしいんだわ」
「なんだと!?」
「精霊種はラタニ殿が討伐済み、被害者も出てないから落ち着けって」
予感以上の惨事に思わず声を張り上げるダリヤを宥めつつ、丸一日船上に居たからこそ伝わっていない出来事をフロッツは説明。
なぜ精霊種が復活したか、精霊石の変化など不明な点は多いが建物がいくつか損壊した程度の被害で済んでいる。つまり授与式に参加していたミューズたちも無事と知りダリアは安堵を。
「ただ精霊種が復活したことで霊獣地帯にまた異変が起きるかもって感じで調査中。特にダラード方面の移動は危険らしいから、馬車の数も減ってるらしいわ」
「だから警備を増員しているわけか。しかしミューズはニコレスカ家の馬車に乗せてもらうだろうし関係ない……」
「とも言い切れないよな。こんな事態だ、安全が確認できるまでは王都から出ないようにするかもしれない」
「そういうことだ」
ただ事態が事態なだけに様子見として一日、二日は王都に滞在する可能性もある。まあアヤトが居るなら危険はないが、国王と繋がりがあるだけに周辺調査を依頼されているかもしれない。
なにより港から王都までは遠くない。
「では王都に向かうか」
「だな」
つまりこのままラナクスに向かわず一度ニコレスカ邸に立ち寄るべきと、二人は予定変更と王都行きの馬車に乗り込んだ。
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「――以上が今の状況です」
「「…………」」
結果としてラタニの状況、アヤトやマヤの秘密も含めて知らされ二人は言葉を失っていた。
ちなみにニコレスカ邸を訪ねた二人に対する説明をロロベリアやミューズに任せてアヤトは出発、他の面々も任された役割を担うべく行動に移している。
国王の動きによってラタニを救うのは時間勝負。故に時間を無駄にしないようダリヤとフロッツには申し訳ないが予定通りサクラが用意した馬車にロロベリア、ミューズ、ツクヨ、エニシと共に同乗してもらい、移動中に現状を踏まえた説明をすることに。
そして二人を強引に連れだし情報共有をしたのは戦力不足を補う為。
「そこでお二人にお願いです。どうかお姉さまを救う為に協力してもらえませんか」
「お二人の力がどうしても必要なんです……お願いします」
「むろん無理にとは言いません。先ほどお話しした内容を秘密にさえして頂ければ、一度引き返すようお嬢さまも仰っていましたが……」
「出来れば手を貸してくれねーか」
もちろん無理強いするつもりはないが、二人の協力があれば成功率は高くなる。
なんせ二人は教国最強の精霊騎士と精霊術士。
秘密の共有者としても信頼できるのは当然、カナリアたちに変わる戦力としては他にないと頭を下げる四人に対し、最初に口を開いたのはフロッツだった。
「らしいけど、ダリーはどうする?」
「聞くな」
軽薄な笑みを向けられたダリアも表情を緩めてため息一つ。
この返答はフロッツに対するものであると同時に頭を下げる四人にも向けたもの。
あまりにも現実離れした内容の数々にまだ理解は追いつかないが、それでも重要な部分さえ理解できれば十分。
アヤトは人知れず寿命を縮めてまで教皇を救い、教国を良き方向に導いてくれた。
そしてギーラスへの恩義とミューズの命を天秤に掛けて迷走していた自分の弱さを、聖剣と共に屠ってくれた。
「改めてアヤト殿に対する恩義を知ることが出来た。いまこの時に返さずしていつ返す」
ならば今度は自分の番、どれだけ危険な役割だろうと期待に応えるとダリヤは誓うよう煌刃に触れた。
「お前はどうなんだ」
「ダリーが行くなら俺も行くに決まってるだろ」
続けて問われたフロッツと言えば、いつも通りの軽口で了承。
ただ心の内はダリヤと同じ。
公国で本人に直接伝えたようにアヤトはダリヤを救ってくれた恩人。その恩人が大切な人を守るべく自分の力を必要としているのなら喜んで協力する。
またフロッツなりの理由もある。
「それにあのアヤトくんが素直になったんだ。手を貸すのが大人ってもんだ」
ロロベリアに説得されたらしいが、それでも自ら頭を下げて仲間に協力を求めた姿勢。
いくら窮地に立たされたとはいえ、ようやく周囲の力を頼ることができたのなら説教をした側として応えるのみ。
まあ変わりに自分の隠していた実力を知られてしまうのは避けられない。
自分の役割は恐らく後方支援。アヤト、エニシ、ダリヤ、ツクヨと実力者揃いでも即席チーム、誰が何を出来るかを共有しなければ上手く連携は取れない。
「ようやくお前の本気を見られるわけか」
「俺はいつでも本気だって……なんて言ってる場合でもないか」
さすがに今回ばかりは仕方ないと何故か嬉しげなダリヤに肩を竦めつつ、フロッツは四人に向けて笑った。
「とまあ俺とダリーの答えは同じ」
「私たちの力を存分に使ってくれ」
「「ありがとうございます」」
ロロベリアとミューズが真っ先に感謝を述べるも、それはラタニを救った後でいい。
「んで、俺たちは何をすればいい?」
「そもそもなぜアヤト殿とは別行動なんだ」
「では僭越ながら私からアヤトさまのお考えについてお話しします」
故に気持ちを切り替え明確な役割と疑問を問うダリヤとフロッツに、それぞれの役割についてエニシが代表して詳しい説明を始めた。
まずは前話ラストでやってきた客人の正体でした。
カナリアたちがいない状況で、ダリヤとフロッツはまさに心強い援軍となりますね。まあアヤトくんの誠意と言うより、リヴァイさまの親バカが運んでくれた助っ人ですがそれはさておき。
教国の二強が加わり戦力も充分になったところで、次回からは別行動中のアヤトや他の面々の役割にも触れていきます。
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