誠意が呼び込む好転
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エレノアやレガートが掴んだ情報から、国王がダラードに向かったのはラタニが潜んでいる森林地帯を精霊の咆哮で消滅させるとアヤトは判断。
「やはりアヤトさんもそう思われますか」
「あの国王ならそれくらいのお節介を焼くだろうよ」
レガートの確認に複雑げにアヤトは頷く。
状況判断でしかないがラタニに近しい小隊員を遠ざけたり、急なダラード訪問から可能性はかなり高い。
ただ国王もラタニの出生を知るだけに、これ以上アヤトに関わらせまいと何も告げず実行を決意した。またダラード支部を統括するナーダの心情を思い、自ら赴き命を下す誠意から批判できない。
なんせ国王はラタニを救える可能性を知らない。他者を傷つけたくないラタニの望みだけでなく、国民の命を守る立場として早急に動くのは当然の判断。
それでも厄介な事態になったのは変わりなく、こちら側も早急に動く必要があるとアヤトは話しについて行けず困惑顔のエレノアに質問を。
「国王が出発したのはいつだ」
「く、詳しい時間までは分からないが……」
「私の元に集まった情報では日が昇る頃に術士団や騎士団が出立したそうです」
状況が分からなくても雰囲気から横やりを入れるべきではないと答えてくれるも、正確な時間は把握していないエレノアに変わりにレガートが助け船を。
軍の面々が精霊の咆哮を放つために周辺を包囲するにしても、ラタニの監視役にしても同じ時間に出発したはず。
また早急に事を進めるつもりなら最低限の休憩で向かうとなれば国王がダラードに到着するまでの時間、到着から精霊の咆哮を準備して放つまでを含めれば残り三時間程しかない。
「お主でも間に合わぬか」
「さすがにな」
サクラの問いに対し、ざっと計算した上でアヤトは首を振る。
先日のようにロロベリアに回復役を任せて擬神化で向かう方法もあるが、あの時とは違いアヤトの体調は万全ではなく、重さを軽減する精霊器もない状況では微妙なところ。
「王都からダラードなら連絡用の精霊器があるじゃない。エレノアさま、それを使って国王さまと連絡は取れませんか?」
「……あれは軍の管轄だ。お父さまならともかく、私には権限がない」
「ならお前が忍び込んで――」
「そもそも使い方が分からん。つーか俺が呼びかけたところで不審がられて相手にしねぇよ」
「……だよなぁ」
ロロベリアやユースが別案を出すも解決策に繋がらない。
せっかく希望が見えたはずなのに、このままでは精霊の咆哮によってラタニは死ぬ。
もしノア=スフィネのように防いでも、今のラタニは不安定な状態。刺激を与えれば今度こそ暴走するまま周囲にいるであろう術士団や騎士団に襲いかかる。
まさに八方ふさがりな状況下、しかし今さら諦めるアヤトではない。
「地図と書く物を用意だ」
「地図?」
「いいからさっさと用意しろ」
「ちょっと待ってろ」
唐突な注文にキョトンとなるロロベリアを他所にユースは一端退席、どこからか持ってきた地図とペンをアヤトに渡した。
そのまま地図をテーブルに広げるアヤトに合わせてソファ背後に立っていたラン、ディーン、イルビナ、シエン、ツクヨ、エニシがのぞき込む中、まずアヤトがペンを当てたのは王都から東南にある森林地帯で。
「ラタニがいるのはここだ。サクラ、精霊の咆哮の最大射程距離はどれくらいになる」
「帝国と同等ならこの辺りであろう」
アヤトに言われるまま渡されたペンでサクラがダラードを中心に大きな丸を描く。
もちろん森林地帯は円の内側に収まるが、地図を見据えてアヤトは不敵に笑った。
「これなら間に合うかもしれねぇ」
「お主……今からラタニ殿の元へ向かうつもりか」
「やるしかねぇよ。故に今から俺の言う通りに――」
サクラの問いに即答したアヤトは自身の考えを説明しようとするも、何故か口を閉じて周囲を見回す。
何事かと全員が注目する中、一歩下がるなりアヤトは深く頭を下げた。
「ラタニを救う為にはみなの力が必要だ。頼む……協力してくれ」
『…………』
続けて口にした言葉に室内が静まり返るのは無理もない。
こう言っては何だがあのアヤトが頭を下げて協力を求めたのだ。
今までも陰ながら動き、必要であれば協力要請はしてきたが基本一人で対応してきた。あってもツクヨに貸し借りを持ち出したり、または相手側の望みを叶える為の行動が故に必要なかっただけかもしれないが、今回は一人で対応できない。更に自身の考えた作戦は言葉通りここに居る全員の力が必要なのだろう
なによりこの姿勢がラタニを救いたい気持ちの表れ。改めてアヤトにとってラタニの存在がどれほど大きいかが伝わる。
しかしそれは今まで口にしていないだけで今さらな感情で、もっと言えば今さらなのだ。
「言われるまでもないわ」
「先ほどこの老骨を使ってくださいと言ったばかりですよ」
「つーかダチに遠慮はいらねーよ」
故にサクラ、エニシ、ツクヨは苦笑気味に。
「もちろん俺たちも協力するぜ」
「その為に居るのですから」
「まあ……あたしたちがなんの役に立つのか分からないけど」
「それはワタシの台詞」
「自分たちは持たぬ者ですからね」
「そもそも私は状況すら把握してないが……当然だ」
続けてディーン、レガート、ラン、イルビナ、シエン、エレノアも力強く頷き。
「師匠、なんでも言って」
「今さらだしな」
「お姉さまを救いましょう」
「私たちみんなでね」
最後にリース、ユース、ミューズ、ロロベリアも笑顔で。
例え事情を知らなくともラタニを救いたい気持ちはみな同じ。今さら断るはずがないのだ。
それでもアヤトから初めて面と向かって協力を求められたことで全員の覚悟が一層引き締まったのは確か。
「ただ殊勝なお前ってのも気味悪いから、いつも通りふんぞり返って指示だせよ」
「だよなー。なんか雨が降りそうだわ」
「むしろ縁起悪そうだからやめてよね」
まあ悪くはないが調子が狂うとユースやディーン、ランが率先して茶々を入れるが自業自得で。
「たく……今から俺の言うことをしっかりと聞け」
ならばと頭を上げたアヤトは普段通りの態度で説明を始めたのは言うまでもない。
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「なるほど……確かにその方法ならいけるかもしれぬ」
からの、説明を聞き終えたサクラも試す価値ありとの評価。
大なり小なりそれぞれが任された役割を熟せば、万が一精霊の咆哮を放たれてもラタニは当然、術士団にも被害はない。
ただ問題が二つ。
一つは疲労を最小限に抑えられてもアヤトの体調は万全ではないままラタニに挑むことになる。
もう一つはカナリアたちが間に合うか否か。
つまり予定通りの戦力が揃わないまま作戦を実行しなければならないが――
「やれるやれねぇじゃねぇ、やるんだよ。それともお前らは無理か」
「聞くまでもないでしょ」
「はい」
「アタシを舐めてもらっちゃ困るぜ」
「このエニシ、後に引く気はございませぬ」
アヤトの挑発にロロベリア、ミューズ、ツクヨ、エニシと作戦の要になる四人は臆すはずもなく。
「決まりだな。カナリアに先の作戦を報告しておけ」
「わかった」
ロロベリアにマヤを通じて連絡を指示、後は実行するのみとそれぞれ動き始めるが――
コンコン
「……今度はどんな厄介ごとだよ」
不意にノックが響き、嫌な予感から愚痴を零しながらもユースが対応。
ドアを開ければやはりゼルジが客人を案内してきたようで。
しかしユースの愚痴とは裏腹に、それは事態を好転させる暗示か。
「どうやら、問題の一つは解決しそうだ」
思わぬ客人に眼を見開く面々を他所にアヤトはほくそ笑んだ。
厄介な状況下でも諦めずラタニを救おうとしている中、初めてアヤトが表立って周囲に協力を求めました。
一人では不可能な状況下、というのもありますし、ラタニを大切にしている思いもあるでしょうけど、今まで一人で抱えていた問題をどんな形だろうとうち明けられて、一緒に過ごしていた仲間との時間や経験を得て彼も良い方向に変わっている証拠でもありますね。
そんな誠意が呼び込んだかは分かりませんが、厳しい状況を好転させる客人とは誰のか。
アヤトが協力を求めた作戦も含めて、次回からいよいよ今章のメイン、ラタニ救出作戦が本格的に始まるので最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
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