すれ違う気遣い
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ラタニを救う為、行動に移そうとした最中にレガートとエレノアが訪問。
情報を共有した上でラタニ捜索をしていたレガートはともかく、ニコレスカ家とは言え王族のエレノアが突然訪問するのは異例。
しかもレガート曰く厄介な事態が起きているらしいとなれば室内は不穏な空気に包まれていた。
「先に伝えておきますがエレノアさんになにも話していません」
そんな空気を察した上でレガートは話題転換。
なにも知らないエレノアに不用意な話をしないようにとの注意もあるが、相手が共通の友人だろうと秘密を漏らさない姿勢を示す為でもあった。
「利益優先のお前らしいな。ま、俺は知られても構わんぞ」
「わたしの眼についてはエレノアも知っていますから」
「私もエレノアさまになら構いませんけど……ならどうしてエレノアさまがここに?」
既に秘密を明かしているミューズはともかく、アヤトやロロベリアも仲間内になら明かしても構わないと返答。まあレガートもそう答えると期待したからこそエレノアを同行させたのだが、問題は何も知らないエレノアがなぜここに居るかだ。
「ジュードさんやルイさんとは別行動でアーメリ特別講師の居場所を探っている中、ある程度の当たりを付けたので報告に訪れようとしたところで偶然エレノアさんとお会いしたんですよ」
「予定ではラナクスに戻っているはずのお前が居たのには驚いたが……昨夜ニコレスカ邸に立ち寄った際、カルヴァシアが意識不明の重体と知り見舞いの為に残っているとは聞いて納得はしたが……」
「逆にエレノアさんがここへ訪れようとしているのなら、少なくともアヤトさんの容態について陛下から何か聞いていると思いまして、ちょっとした探りを入れたんですよ」
「昨日の内にお父さまに呼ばれてお兄さま方と一緒に先生の状況については聞かされていた。だからカルヴァシアの見舞いも兼ねて許可を得て来た……ただ私の話を聞くなりレガートが急に一緒に行こうと言いだしたんだ。今は詳しい話は出来ないが、みなも私には話してくれるだろうと」
故にエレノアはラタニが精霊種の精霊石から溢れた黒い霧によってラタニが変貌したこと、交戦したアヤトが重傷を負ったとしか知らない。つまりラタニの出生までは聞かされていない。
「先ほどは厄介な事態と告げましたが、あくまで私の予想です。それでも情報を照らし合わせると見過ごせない事態……なのでアヤトさんが目を覚ましたと聞いて安心しました」
しかし探りを入れたレガートがエレノアから何かを聞いて、アヤトの意見を求めるまでの事態を察した。そして状況が呑み込めずともエレノアは多くを聞かず従ったわけで。
レガートの目配せにエレノアも頷き、改めて話してくれた。
「今朝方、お父さまがダラードに向かったらしい。昨日再び精霊種が現れたこともあって王国の要となるダラード支部の視察が必要との理由だ。先日の騒動で尽力してくれた者への労いにも繋がると……」
「……それだけか?」
「色々とあったから早いに越したこともないしね」
「ですが陛下自ら出向くのですよ」
「王都が落ち着いてるにしても……昨日の今日だし」
その内容に拍子抜けするディーンやランに対し、ミューズやロロベリアは不自然さを抱く。
ダラード支部に国王自ら出向くことで先日の騒動で疲弊しているであろうダラード支部の指揮を挙げる。また今後を見据えた行動も間違ってはいない。
だが寝耳に水のようなエレノアの様子から、勲章授与を終えた後の予定とは考えにくい。いくら必要性があろうと国王自ら出向くにしては性急過ぎる。
なにより今はラタニの問題も抱えている。そう易々と王都から離れるだろうか。
「今朝方精霊術士団や精霊騎士団が王都を発ったと私の耳にも届いていました。最初はアーメリ特別講師捜索の増員と考えましたが……陛下の動き、アーメリ特別講師が居るであろう場所を踏まえれば嫌な予感が拭えません」
国王の動きを不自然に感じていたレガートも前置きをした上で、確証を得るべくアヤトに質問する。
「アヤトさん、陛下はアーメリ特別講師の出生を知っているのですか」
「……ああ」
レガートに質問されるより先に察していたのか、アヤトも眉根を潜めて肯定。
ロロベリアを始め、理解できていない者は国王がそのような覚悟を抱くと考えてもいないが故に未だ気づいていない、まさに厄介な事態が起きようとしている。
「たく……だからカナリアたちをラナクスに向かわせたな」
「どういうことだよ。アタシらにも分かりやすく教えてくれ」
「国王さまはラタニさんの居場所を見つけたんすよ」
続けて苛ただしげに吐き捨てる中、未だ理解が追いつかない面々を代表してツクヨが説明を求めれば変わってユースが返答を。
「恐らく増員に思われた術士団や騎士団は護衛じゃなくて、その場所に向かわせるためでしょうね」
「何も知らぬ者が被害を受けぬよう事前に包囲するつもりじゃな」
同調するサクラもレガートの口にした厄介な事態を察していた。
国王はラタニの出生を知っているのなら、恐らくアヤトと交わした約束も知っているはず。
また不自然なダラード支部の視察や、居場所を見つけたにも関わらずラタニ小隊を真逆のラナクスへ向かわせたこと。
そしてダラードには精霊の咆哮があり、ラタニの居場所は射程距離の範囲内となれば、国王はアヤトの変わりを担うつもりだ。
「国王は精霊の咆哮でラタニを始末するつもりだ」
つまりラタニ殺しの罪を背負う覚悟でダラードに向かった可能性が高い。
◇
一方、国王レグリスの乗る馬車内では――
「陛下……本当にラタニは……」
「理解してくれとは言わん」
ダラード支部を統括する者として全てを知らされ、それでも諦めきれず懇願するナーダの言葉をレグリスは毅然とした態度で遮った。
「しかしラタニの……延いては王国の平穏を思えば他に手はない。故にその役目を予が務める」
「……そう、ですか」
もちろんレグリスにとっても苦渋の決断。しかし辛い役目をアヤトやナーダに任せるわけにもいかず、自ら手を汚す決断をしたのだ。
それが国を守る王の勤めだと。
今はまだ被害もなく、なぜかラタニは森林地帯から出てこようとしない。
だが元に戻す方法を探している間、もしラタニが暴走してしまったら。
僅かでも国に害を与える可能性があるのなら王として決断するのみ。
被害を出さない為の手段として、最悪ラタニが潜んでいる森林地帯を精霊の咆哮で一掃する。
レグリスの覚悟にナーダもこれ以上なにも言えず。
「どうしてこのような……」
それでもラタニを我が子のように愛していたナーダにとって、割り切れる決断ではなかった。
ざっくりとなりましたが厄介な事態についてでした。何も知らなくても、レガートに何も聞かず従ってくれたエレノアさまの信頼はさすがですね……はさておいて。
アヤトたちとは別にラタニの問題を解決しようとレグリスさまは既に動き始めています。
国のため、という理由もありますがレグリスはアヤトやナーダに辛い役割をさせないために、またカナリアたち近しい者達の知らない所で自らの手を汚す覚悟を固めました。
なのでレグリスさまの決断は決して間違っていないんですが、結果としてアヤトたちとすれ違いが起きるとは皮肉なものです。