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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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二つの疑問

アクセスありがとうございます!



 時間操作の対価をうち明けたことで室内の空気は重苦しいものに。


「過ぎたことに囚われる暇があるのなら、いま救える未来に全力を注ぐ方が有意義よ」

「分かってるじゃねぇか」


 しかし率先してアヤトを煽るサクラの示しによってその空気は良い意味で引き締まっていく。

 アヤトやサクラの言うようにいま集中するのはラタニの未来。ここで押し問答をしたところで消費された時間が戻らないのなら、救える時間を優先するべき。

 それが結果としてアヤトの為になるからこそ囚われていけないとエニシも、ツクヨも、ミューズも前を向く。

 もちろんロロベリアやランたちも同じ。気持ちを切り替えるよう小さく頷いた。


「なら早速お話し合いだ。と言っても頼りになるのはマヤのヒントくらいか」

「じゃな。現状予想できる役割はお主とロロベリア……ミューズ殿やツクヨ殿の役割をお主はどう見ておる?」


 場が整った所で改めてアヤトとサクラが中心で本題に入る。

 マヤのヒントではラタニを救う鍵はアヤト、ロロベリア、ミューズ。場合によってはツクヨも協力できることはあるらしい。

 サクラだけでなく他の面々もアヤトは純粋な戦力、ロロベリアはラタニを変貌させた黒い霧の浄化が役割と予想していた。


「白いのはともかく、俺の役割はまだ予想がつかねぇよ」

「……お主はラタニ殿を食い止める戦力ではないのか?」


 ……していたのだが、この予想をアヤト自身が否定。


「どうだろうな。実際に遣り合ってみたが、今のラタニなら爺さんでも対処は可能だろうよ」

「……私がですか?」

「黒弾や精霊術の組み合わせは多少厄介ではあるが、精霊力を得物に纏わせれば黒弾も斬れるし単調で読みやすい。回避に専念すれば難しくねぇよ」

「アヤトさまの多少は相当に思えますが……そう仰るのであれば可能なのでしょう」


 指名を受けたエニシは苦笑いをするもアヤトの戦況を見る目は確か。エニシクラスの実力と経験が備わっていれば注意を惹きつける戦力にはなるはずで。


「それよりも宙に浮き続けている方が厄介だ。俺も攻めることはできるが、手加減するほど余裕はねぇ」


 対するアヤトは反撃も可能。ただし相手が空中に居るだけに、反撃はできても殺す覚悟が必要。現に前回は反撃時の隙を衝かれて致命傷を負ってしまった。


「要は食い止める戦力でいいのなら俺以外でも構わんが……」

「ロロベリアさまの役割が浄化とすれば、まずラタニさまを地上に降ろし、攻撃ができない状況を作り上げる必要があると」

「その役割は俺にも無理だな」


 更にロロベリアの役割を踏まえればアヤトの役割も単純なものではない。むしろ浄化する方法があるのか怪しい程に条件は最悪で。


「まずは情報収集だ。ツキ、ミューズ、あのトカゲとラタニが遣り合っていた状況を教えてくれ。他にも気になったものがあれば頼む」


 だが、この最悪な条件を覆す役割がミューズやツクヨにあると睨んでいるのか、ラタニの変貌を直に目撃した二人から情報を得ることでアヤトは解決策を探るらしく。


「まかせろ」

「わかりました」


 確かにノア=スフィネの精霊石から溢れた黒い霧によってラタニが変貌したとは伝えていても、前後の状況を詳しく話していないと二人も了承。


「ノア=スフィネについてだけど、あれは黒い精霊力の塊ってのがアタシと聖女ちゃんの見解だ」

「また黒い霧を凝縮したものが黒い精霊力だと考えます。なので黒い霧はわたし以外に視えることが出来なくとも、ノア=スフィネはみなさんにも視えたかと」


 ノア=スフィネの正体から黒い霧も黒い精霊力ということ。

 ラタニがノア=スフィネを討伐した方法はもちろん、討伐前ラタニの心臓付近にノア=スフィネのような黒い精霊力をミューズは視認、しかし討伐後には視えなくなったこと。

 逆にツクヨは変貌した直後のラタニから翠色の精霊力が混じっていたことを。

 些細な情報も気のせいで済ませず、視てきたもの全てを共有していく。


「アヤトさまと争っていた時は……遠目だったので良く視えませんでした」

「アタシもだ。ただお前、最後の最後で躊躇ったよな? あれは覚悟が揺らいだだけか」

「……否定はしねぇよ。あの時、ラタニの眼が一瞬正気を取り戻したように見えたからな」


 またツクヨの質問にアヤトも正直に答えるよう、感情を失った虚無の瞳に揺らぎを見たことで殺す覚悟も揺らいでしまったのだ。

 とにかくツクヨ、ミューズ、アヤトの視点でラタニの変貌に関する一連の出来事は共有できた。後はこの情報を元にそれぞれが意見を出し合い、少しずつ解決策を導き出すしかないと思われていたが――


「今の話を聞くに、妾たちの仮定は正しかったかもしれぬな」

「ですね」


 サクラとシエンは既に解決策を導き出したのか、してやったりとほくそ笑む。


「なにか分かったんですか?」

「というか、シエンはちゃんと役割を果たしてたんだな」

「てっきりサクラが保持してる精霊石を見に行く口実だと思ってた」

「精霊石に興味があったのは否定しないですが失礼ですね……」


 真っ先に反応するロロベリアを他所に、レガートたちと同じように疑心を向けていたディーンやランの辛辣な言い分にシエンはいじけてしまうがそれはさておき。

 ラタニを救う為に少しでも自分の知識が役に立てないかと屋敷に赴いたシエンとサクラは、マヤの話を元に疑問視されていた二つの出来事にいくつかの仮定を立てていた。

 故に細かな情報を知ることで確証を得ることができた。


 その内の一つ、なぜ黒い霧はツクヨやミューズではなくラタニに向かったという疑問。

 摘出された精霊石は秘めた精霊石を燃料として使用すれば消耗するだけで回復しない。

 しかし霊獣は常に解放状態を維持できる。生命と深く繋がっている精霊石は人間と同じく自然界の精霊力を取り込み回復すると結論づけたラタニの両親は精霊石の移植を決意した。

 ただ精霊士や精霊術士が精霊力を解放するだけで徐々にでも消耗するのに対し、霊獣の精霊力は解放状態でも維持される。

 なら生命と深く繋がっている精霊石は従来よりも自然界に漂う精霊力の吸収速度が早い。


「マヤはラタニ殿の精霊力が予測不可能な保有量と言っておったのも、消費を上回る吸収の結果であろう」

「だから精霊種と戦っていた時、ラタニさんの体内にある黒い精霊力をミューズが視たです」


 つまり黒い霧がラタニに向かったのは距離ではなく、単にツクヨやミューズよりも周囲に漂う精霊力を吸収してしまう性質から。

 そしてノア=スフィネが黒い精霊力そのものなら、争いの中でラタニの体内に潜む精霊石が吸収し続けた黒い精霊力をミューズは視認した。しかし討伐の際、精霊石の精霊力を一気に放出したことで視えなくなったとなれば辻褄は合う。


「ツクヨさんが視た従来の色は、精霊石以外に潜むラタニさんの精霊力です。一瞬でも正気を取り戻したのならラタニさんも完全に黒い精霊力に取り込まれてないからです」


 更にツクヨが変貌しても尚、翠色の精霊力を視たのならラタニは完全に自我を失っていない。

 

「要はラタニ殿もいま戦っておるのじゃろう」


 故にマヤもあと二日は問題ないと口にした。周囲に被害を与えないよう黒い精霊力に抗い続けている。

 逆に言えば黒い精霊力がラタニ殿を完全に蝕むまで残り二日。

 それまでに元凶であるラタニの体内に潜む精霊石を浄化すればいい。

 ただその浄化方法が見付からないからこそ悩んでいるわけで、これでは何も変わらない。


 しかし浄化対象がラタニではなく()()()()()()()()()、もう一つの疑問と共にマヤのヒントを読み解くことが出来た。


 それはなぜ今回に限り、精霊石から黒い霧が溢れ出したのかという疑問で。


「……白夜か」


 本人も気づいたように、神気の刀――()()()()()()()()()()()()



 

ノア=スフィネとの再戦でツクヨやミューズが視認した違和感や疑問点について、サクラやシエンの仮定を元に少しずつ明かされていますが……出来る限り簡潔に分かりやすく説明したつもりですが……どうでしょうか。

とにかく今回の一件で最も疑問視されていた黒い霧がラタニに向かった理由は作中の通りとして、もう一つなぜ前回は溢れず、近寄っても影響を受けなかったノア=スフィネの精霊石が今回に限り別の現象を起こした理由について鍵を握るのは白夜となります。

同時に浄化対象がラタニではなく精霊石に限定したことでマヤのヒント、三人の役割が読み解けた理由も踏まえて次回で明かされます。

……こちらも出来るだけ簡潔に分かりやすくを心がけます……はい。




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