報い方
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時間は少し遡り――
「……回りくどいというか、無駄にお前らしいと言うか」
『無駄は余計だ』
脱衣所で待機するユースはドア越しにアヤトに向けて肩を竦める。
ラタニとの約束を知って以降、気になっていた疑問をぶつけてみれば意外にもすんなりと教えてくれた。
しかしやっと解消された疑問も余りに回りくどく、ユースが呆れるのも無理はないわけで。
『つーか用が済んだならさっさと出てろ。それとも男の裸を見る趣味でもあるのか』
「あるか!」
もちろんアヤトが勘違いしているような趣向はないと突っこむも、ユースが留まっているのは先の疑問だけではないと気を取り直す。
ユースが疑問視しているのはマヤのヒント。ラタニを救うにはアヤト、ロロベリア、ミューズが鍵を握り、場合によってはツクヨも役立つらしい。
「お前がマヤちゃんとの契約で手に入れた時間操作って、使うのに条件でもあるのか」
ただアヤトの時間操作を知るだけに、ロロベリアの役割が浄化ならもっと単純なはず。
それでもミューズやツクヨにも役割があるのなら単純な方法でもないのだろう。二人には時間操作をする為に必要な役割があるのか、そもそもロロベリアの役割が浄化ではないのか。
なんせユースは擬神化すら見たことがない。また時間操作という、それこそ神に等しい能力ならば簡単に扱えるものではないだろう。
故に改めてアヤトに確認するつもりだった。
『実にややこしく面倒な条件だ』
「まあ、そうだろうな。で、面倒な条件って?」
『ややこしいとも言っただろう』
「あのな……」
……のだが、アヤトは面倒げに一蹴。
余りに複雑な条件の為に説明するのが単に面倒なのか。それにしても少しは話してくれても良いと思うわけで。
『なんにせよ、ラタニ相手に使うつもりはねぇよ。元よりあいつとの約束でも、そいつは使わない条件だったからな』
「なんでまた」
『反則技を使わなければ自分を殺せないとは情けない、だとよ』
「そういうことね」
煽られて躍起になっているのはさておいて、ラタニと時間操作抜きで約束していたのなら元よりアヤトは使用するつもりはない。
なら時間操作の使用は無し前提でマヤがヒントを与えたのなら、ミューズやツクヨの役割は別にある。
『納得したならいい加減出て行け』
「ほいよ。滑って転ぶなよー」
今はそれさえ分かれば充分とユースはアヤトの身支度が終えるのを廊下で待っていた。
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だがアヤトとは違って感情が表に出やすいだけに、ロロベリアは時間操作について詳しい情報を知っている。
もしかすると先ほどマヤとの交渉でも、妙に焦燥感を抱いていたのはその条件を知るからこそか。
だとすれば単に使用条件が複雑だとか、ラタニと約束したからなどではなく、もっとやばい条件だと汲み取るのは容易い。
「別に嘘でもねぇんだがな」
故に話が違うと批判するユースに対しアヤトは苦笑を漏らす。
「ややこしい上に面倒なんだよ。つーか元より使うつもりがなければ知る必要もないだろう」
「だとしても姫ちゃんの態度からこっちは気になって仕方ない。ラタニさんと約束したにしても、万が一使用する可能性があるのなら事前に教えてくれてもいいだろ」
「…………」
「今はラタニさんを最優先だ。その為には出来る限り情報共有するべき、違うか?」
「確かに、一理あるか」
それでも食い下がるユースにようやく折れたのか、それともこの押し問答が面倒になったのかアヤトは室内の壁にもたれ掛かり周囲を一瞥。
「……ごめんなさい」
「謝る必要はねぇよ。先も言ったようにユースの言い分も一理あるからな」
自分の反応で時間操作の秘密を明かすことになったとロロベリアが頭を下げるも、アヤトはため息交じりに一蹴。
「……それで、時間を操れるとは本当なのか」
「まあな」
「なら使用条件とはなんじゃ」
「使用するだけなら簡単だ。しかし対価がややこしいんだよ」
「対価だと?」
代表して問いかけるサクラの質問に端的に答えていたアヤトは一拍の間を置いて。
「俺の時間だ」
その端的な答えに沈痛な面持ちで俯くロロベリア以外はすぐに理解できないのか無反応。
だが続いて語られる内容にみなの表情が青ざめていく。
なんせ時間操作を使用すればするだけアヤトの未来の時間が消費されるのだ。
しかも世界に干渉する時間分のみ、ではなく消費量はアヤトの価値によって決まる。その消費量はマヤですら判断できない。
「ま、マヤに目を付けられた分、それなりに価値はあるそうだ。後は擬神化の状態ならその対価をある程度補えるとよ。実にややこしいだろう?」
「……確かに嘘じゃなかったわ」
一通り語り終えたアヤトの嫌味にユースは反論できず頭を搔く。
要は使用条件が複雑ではなく対価が複雑なだけ。本人や契約主ですら消費量が判別できない対価は説明も難しい。
また脱衣所で問いかけた際、面倒だと強調した理由も納得できた。
強力な能力以上に恐ろしい対価を要求されても使用するアヤトの神経を理解できず、畏怖に近い視線を向ける面々がいる中、明らかに別の感情を向けている者に対して口にしたのだろう。
「「「「…………」」」」
怒りの矛先が分からないままただ拳を固く握るツクヨ。
静かに目を閉じるサクラの背後で左脇に手を添えて苦渋を滲ませるエニシ。
ロロベリアと同じく沈痛な面持ちで俯くミューズ。
月守の復元に、致命傷の治療に、教皇の命を救う対価として、アヤトは時間を消費したと察しているからこそ複雑な思いを滲ませている。
「そして実に面倒な条件だ」
だからこそアヤトは四人に向けてクギを刺す。
なんせ四人が察した出来事は全てアヤトの独断によるもの。恩を売るつもりもなければ、誰かの為でもない。
言うならば自分のため。自分が見過ごせないと使用しただけに過ぎない。
それでも知ってしまえば罪悪感を抱く、恩を抱く。
例え自分勝手な行為と主張しても抱いてしまうのが人の性。
アヤトも理解しているから伏せていた。特に今は優先して欲しい問題があるので尚更だ。
「ユースが言ったように今はラタニが最優先だ」
故に複雑な感情に嘖まれる面々に向けて、ユースの煽りを利用しつつ切り替えろと言い放つ。
「俺の勝手な行為でこれ以上立ち止まっている暇はねぇんだよ」
もちろん簡単に切り替えられるものではなくとも。
アヤトの性質は当然、ラタニに対する思いを知る面々だからこそ。
「……じゃな。今はお主よりもラタニ殿が第一であったわ」
代表してサクラが敢えて煽るように切り替える。
今さら追求したところでアヤトが消費した時間は戻らない。
ならラタニを救う為に全力を尽くすことが、何よりもアヤトの厚意に対する報いになると。
時間操作という力、その対価を知れば周囲の反応、特にサクラ、エニシ、ツクヨ、ミューズの反応が予想できるだけにアヤトは秘密にしていましたからね。
まあ本人が好き勝手の結果と一蹴したところで受け入れるのは難しいですが、アヤトの性格を知るからこそ複雑な感情に嘖まれるよりも報いる為、即座に切り替えるられる辺りがサクラさまでした。
なので次回から(やっと)マヤのヒントを元にラタニ救出に関する問題に触れていきます。
ちなみにですが脱衣所でユースが時間操作以外の何を疑問視していたのか、についてはオマケで触れる予定です。
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