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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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回想 悲しみの欠片 叫び

アクセスありがとうございます!



 アレクとの出会いからラタニは本格的に精霊術の訓練に打ち込んだ。

 今まではマイレーヌ学院に入った後は術士団に入団するか、敢えて研究職に就くか、程度の適当な未来図しか描けなかったラタニにとって王国最強の精霊術士という明確な目標は毎日を充実させた。

 今までは暇つぶしに得た知識を元に自分なりに面白いと思う精霊術を編み出す程度の訓練を、目標に向けた本格的なものに組み替え、基礎を徹底的に磨き、マイレーヌ学院に入学する頃には言霊、変換術、遠隔操作などの高等技術を完璧に習得。

 また保有量も他を圧倒していることから既に現王国最強ワイズ=フィン=オルセイヌの後継者と噂される程まで評価される結果となった。


 対するラタニは周囲の評価など興味がなく、入学早々新入生代表の挨拶を辞退したり、身分関係なく平等に学ぶという学院の理念を利用してやりたい放題。

 ただこの奇行も自身の見目や能力を冷静に評価していたからこそ。本来の性質もあるが、大物貴族に目を付けられ引き抜きなどの誘いがないようにするのが狙いだった。 

 なんせラタニの目標は王国最強の座。下手な柵みに時間を消費させる暇はない。加えて早期にこの座を奪うには足りないモノが多い。

 その為に学院で更なる能力の向上と対人戦の経験を、卒業後は術士団に入団して霊獣討伐などの経験や実績を積むと、堅実なステップアップを計画しつつ、最短で二五才までに宮廷精霊術士団入りを目指していた。

 まあ目論見外れて何の因果か侯爵家のナーダ=フィン=ディナンテに目を付けられたが、ナーダの人柄から邪険にせず、むしろ強力なパイプが出来たなら順調な滑り出しと言えるだろう。


 しかし入学して僅か二月ほどでラタニの計画は破綻した。

 最初の序列入れ替え戦を前に父グルシア=アーメリと母ライラ=アーメリから実家に帰るよう呼び出しを受けたのだ。

 理由は序列入れ替え戦の激励というもの。

 学院初の入学して間もない一学生が序列一位の座に就くかもしれない、という前代未聞の功績を両親は期待しているのかは分からなくも、実のところこの呼び出しをラタニは純粋に喜んでいた。

 と言うのも物心ついた頃から両親は家に帰ってくることが滅多にないほど多忙。別に無関心というわけでもない、顔を合わせばラタニの様子を気に掛けてくれたし、精霊術士としての才覚が分かった際も喜んでくれた、研究所に行っても邪険に扱われなかった。

 故にただ研究が忙しいだけ、そう自分に言い聞かせていた一方で、幼少期から奇行が目立つ奔放な振る舞いをしていたのは両親に構って欲しいラタニの寂しさの表れだったのかもしれない。

 だからこそ両親側から激励というアプローチを掛けてくれたことが嬉しく、久しぶりの家族三人での食事が研究施設になったのも忙しいからだと気にも止めなかった。


 それが両親側の都合、秘密裏にラタニを実験体する為だと知るまでは。


 料理に盛られていた薬で眠らされたラタニが目を覚ましたのは見覚えのない実験室。

 精霊力を封じる枷で拘束され、朦朧とした意識の中でラタニは両親から耳を疑うような真実を明かされた。


 自分は両親の実験によって意図的に産まれた精霊力持ちだと。


 更に精霊石の移植を前に興奮していたのか、実験の詳しい内容、つまりどのようにして自分が産まれたのかを饒舌に語られた。


 動物実験から胎児の段階で人為的に、一定量の精霊力を注がれれば精霊力を持つ生命が産まれることを。


 ただ一定量の精霊力に耐える為に精霊石を失った()()()()()()()()()()()()()()()()、それが最も難しく()()()()()()()()()()


 ようやく成功して産まれたラタニが精霊術士に開花したことは運が良く、普通に産まれた子供に比べて精霊術士としての才能があったことも運が良かったとも。


 まるで自分を我が子としてでなく、実験体にしか見ていない両親に悲痛の反論を投げかけても無駄だった。


 今まであたしを気に掛けていたのも実験体だったからかと訴えれば――


『他に理由があるか? なんせ成功するまで苦労したんだ、途中で死なれては困るだろう』


 グルシアは当然のように首を傾げるのみ。


 ならばこの実験は他の職員も知っていたのかと訴えれば――


『知らないわよ。もちろん構想段階で説明したけど、精霊に対する背徳行為だと否定されたもの。だから地下に研究室を設けたの……苦労したわね』


 ライラは不快げにそう吐き捨てる。


 挙げ句、なぜこんな実験をしたのかと問いただせば――


『全ては王国の、延いては人類のためだ。人為的に持つ者が産まれるようになれば、精霊士や精霊術士が減少している問題の歯止めになるだろう』

『しかもこの移植が成功すれば、精霊力の保有量に悩まされる心配もない』

『この実験はまさに人類の希望だ!』

『そしてあなたは希望の道しるべになるのよ』


 自分たちの研究を誰もが待っている、全てが正義そのものだと疑わない眼差しで言い切る両親にラタニは問いただしたことを後悔するだけで。


『心配しなくても理論上は成功するはずだ』

『だからラタニ、今はゆっくり休んでいなさい』


 両親が優しく見守る中で眠る初めての体験が最悪な記憶として刻まれたのを最後に、ラタニは再び意識を失い。


 次に目を覚ました時は、内から沸き上がる精霊力を制御できず。



『ああ……あ…………ああああああああ――――っ』



 移植の成功に満面の笑みを向けていた両親が、苦痛に襲われるまま暴発した精霊力の輝きに飲まれる姿だった。



 ・

 ・

 ・



 その後、医療施設の一室で目を覚ましたラタニは医師から聞かされた。

 自分は研究施設の爆発事故で数日間も意識不明で、治療術で一命は取り留めたがしばらく安静が必要なこと。

 また施設はもちろん、両親や職員も遺体が残らない程の事故だったことを。

 故に生存できたのは奇跡だと、両親を失い辛いだろうが今はゆっくりと心身を休ませるようにと。


『……ぐす……ううぅぅぅぅ――っ』


 事後の話を聞いたラタニは我慢できず泣いた。

 医師らは必死に励ましてくれたが、その励ましはラタニにとって全く無意味で。

 辛いのは両親を失ったことではない。

 大切にされていると思い込んでいた両親が、ただ自分を実験体にした見ていなかった悲しみが。

 なんの罪もなく、純粋に良くしてくれた職員らを殺してしまった罪悪感が。

 

 ラタニの心を押しつぶしただけで。


 なにより出生を知ったことで、もう自分はアレクとの約束を果たす資格はないと。


 今さらながら()()()()()()()()()()()()()()()


『うわぁぁぁぁ――――――!』


 叫ぶようにラタニは泣き続けた。




ラタニの出生が明かされたので、今回の回想は簡潔ですがラタニ視点で出来事を追ってみました。

簡潔でも両親の所業がどれほどのものか、語られたことでどん底に突き落とされたラタニの辛さが伝わったでしょうか。

また今後もラタニ視点の回想でどん底から這い上がり、現在のラタニさんに復活するまでの心情も語られる予定ですが、次回は時系列が戻りマヤさんのヒントからアヤトやロロたちがラタニを救うために足掻きます。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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