表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
731/779

理想と現実

アクセスありがとうございます!



 目を覚ますなりラタニを探しに行こうとするアヤトにロロベリアは精霊術で大量の水を浴びせた。

 突拍子のない行動に周囲は唖然となるもロロベリアは更に煽る。


「それとも氷水がよかった? だって今のあなたは見てられないもの」

「テメェ……っ」

「お姉ちゃんとの約束、マヤちゃんから聞いた」


 殺気を向けられても引かずロロベリアがうち明ければ背後にいるミューズ、ニコレスカ姉弟、ツクヨに視線を向けてアヤトは舌打ち一つ。


「…………だったらなんだ。白いのには――」

「関係ある。これ以上お姉ちゃんに傷ついて欲しくないのは私も、みんなも一緒なの」


 観念した上で拒絶するもロロベリアは間髪入れずたたみ掛けた。


「私はお姉ちゃんが大好きだから生きていて欲しい。だから約束を果たそうとするアヤトを見過ごせない」


 ラタニの過去を知り、アヤトの覚悟を知り、しかし約束を果たすことだけは譲れないと。


「そもそも私の精霊術を交わせない状態でお姉ちゃんに勝てるの? ハッキリ言うけど自惚れるのもいい加減にしなさい」


 更にいつものアヤトなら精霊術を簡単に受けるようなミスなどしない。体調以前に冷静さを失っている状態では返り討ちにあるだけだと突きつける。


「もし強硬手段に出るなら、私は全力で止める。それはお姉ちゃんが望む未来じゃないから」

「ならラタニはどうする」


 その上で暗に時間操作を使うならボコボコにしてでも止めるとの宣言に対し、アヤトは煩わしげに反論。


「今のあいつは自我を失っている。既に誰かに手を掛けているかもしれねぇ……時間がねぇんだよ」

「時間がないからいつものアヤトでいなきゃダメじゃない!」


 しかしだからこそとロロベリアは訴えた。


「まずは頭を使え、足掻いてみろ、いつもあなたが言ってる言葉よ」


 今までアヤトは自分たちに頭を使う大切さ、足掻く必要性を説いてきた。

 にも関わらず今は焦りからその全てを忘れていると。


「だから頭を使うの、一生懸命足掻くの。ただしあたな一人じゃなくてみんなで考えるの」


 一人で解決策が見付からないのなら、みんなで模索すればいいと。


「確かにあなたは頭が良い、色んなことをたくさん知ってる。でも知らないことだって、気づけていないことだってたくさんある。だから足りないものをみんなで補って、みんなでお姉ちゃんを救うのよ。本当はアヤトも約束なんか守りたくないんでしょう」


 アヤトは精霊力を感じ取れない。

 ラタニが変貌した状況も完全に把握していない。

 そういった足りない部分を補えば見付かる可能性はある。

 無理だと諦めるよりはずっといいと。


「理想論でしかねぇよ」


 この訴えにアヤトは現実を突きつけるも、最後の問いは否定しなかった。

 つまりアヤトにとっても不本意なのだ。約束してもラタニを手に掛けたくはない。

 ただ他に方法がないから、仕方ないと割り切っているに過ぎない。


「……私だってこれが理想だって、綺麗事だって分かってる。時には何かを引き替えにしなきゃいけないことも分かってる」


 もちろんロロベリアもラタニを救い、アヤトの時間を消費させない結末は理想論だと理解している。

 なにも失わずに手に入れられるほど世界が優しくないのは承知の上だ。

 それでも仕方ないと割り切りたくない、諦められないと駄々を捏ねているのだ。


「だから口先だけじゃないって今から示す。この理想を現実にするための、私の覚悟を」


 故に今ここで理想を訴える自分が責任を持って覆す。

 優しくない世界でも自分たちはまだ恵まれた立場に居るのだ。

 予想が付くだけに誰も当てにしていないが、解決の糸口を掴む手段はある。


「マヤちゃん、私と取り引きしましょう」


 神頼みなどと曖昧な方法ではなく、神と直接交渉できる立場にあるのなら迷うことはない。

 マヤの協力を得るには対価を必要とする。ただ対価はマヤ次第、どんな要求をされるか不明なだけに怖くて避けてきた。

 しかし今は怖がっている場合ではない。それに交渉次第では最小限の被害で済むなら書ける価値はある。


「私の要求はお姉ちゃんの居場所と救う方法。ヒントでも良いから教えて欲しい」


 呼びかけにマヤは姿を現すどころか返事もないが、ロロベリアは構わず対価を提示した。


「対価は()()()()()()()()()()()()


「……あん?」

『…………っ』


 思わぬ対価にアヤトは目を細め、他の面々は息を呑むもロロベリアは止まらない。


「これから先の時間は渡せない。だから二番目に大切な時間になるけど、ヒントくらいの価値はあるんじゃない?」


 未来は命を失うと同意、それは自己犠牲でしかない。

 ただアヤトがクロとして生きた時間を失ったように、シロとして生きた時間はロロベリアにとっても大切な時間だ。

 クロとの思い出だけでなく、教会で暮らしていた大切な家族との時間。

 例え辛い結末を迎えようと共に暮らしていた時間は尊く、忘れたくない思い出だ。


「足りないなら()()()()()()()()()()()()()。結構希少みたいだからそれなりに価値もあると思うし」


 それでも姿を見せないマヤに痺れを切らしたのか、ロロベリアは更に対価を上乗せ。

 精霊術士にとって必要な精霊力、大英雄の道に不可欠な力も渡すならどうだと。


「ただし私の精霊力がお姉ちゃんを救うために必要なら、救った後にして欲しいんだけど……どうかな」


 まあラタニの変貌からして自分の精霊力は必要かも知れないので条件付きになるが、この対価ならまだ最小限の範囲内と最後は自信なさげに確認するも、どこからともなくクスクスとの笑い声が響き――


「――中々に面白い提案ですね」


「でしょう?」


 ロロベリアの覚悟は交渉の場に神を引きずり出した。




状況が未だ不明で時間も限られている中、ロロの訴えは理想でしかありません。

ですがロロも辛い過去、修羅場を経験していますからね。ただ理想を追い求めるだけでなく、ちゃんと現実も見えているタイプです。

そしてロロたちの現実にはマヤというカードがあります。なら交渉するだけ無駄と諦めずにやってみる。

アヤトですら諦めた状況を必死に覆そうとする足掻きも踏まえて、ロロの魅力でもある諦めない強さが発揮された結果、マヤさんは姿を見せました。

この対価をロロがどう考え最小限と捉えたのかも含めて、交渉の結果をお楽しみに。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ