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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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食い止める

アクセスありがとうございます!



 ラン、ディーン、イルビナにアヤトの看病を任せて心身を休めるにロロベリアたちは努めることに。

 と言っても合流するまで休んでいたロロベリアの疲労はさほどでもない。故にいつもなら訓練に勤しむところだが、ラタニの一件を鑑みれば精霊力の消費は避けるべき。なので眠くなるまでは読書と、合間にアヤトの様子を見に行くに留めていた。

 また日付が変わる頃に帰宅したサーヴェルとクローネは国王からある程度事情を聞いているらしく、使用人にも情報共有の許可をもらっていたお陰でアヤトを監視込みの看病を任せられるようになった。


「まだ被害報告はない。安心しろ」

「ラタニちゃんのことも、アヤトちゃんことも心配だけど、わたしたちに任せなさい」


 更に追加情報としてラタニの居場所こそ判明していないが、少なくとも国内で暴れている様子が無いこと、捜索にニコレスカ商会も協力していることを教えてくれて。

 結果二人ともすぐに出かけてしまったがラン、ディーン、イルビナが寝ずの番をせずに済むことに。まあそれでも何かがしたいと交代で仮眠を取りつつ、使用人と二人態勢で看病に回ってくれた。

 とにかく就寝していたニコレスカ姉弟やミューズ、ツクヨに朝食を摂りつつロロベリアは昨夜の出来事を報告。

 アヤトはミューズとレムアに任せ、今後の対策案を練るために訪問するサクラとエニシが来るまでランたちは休み、ロロベリアとニコレスカ姉弟は応接室で待っていたが――


「アヤトさまが目を覚まされました!」


 しばらくしてレムアから朗報が舞い込むも、慌てて駆け込んできた様子から純粋に喜べず。


「ですがみなさまが案じていたようにどこかへ行こうと……ミューズさまが引き止めていますが……」

「あのバカ……っ」

「行きましょう!」


 予想通りの展開に悪態を吐くユースを他所にロロベリアは即座に応接室を後にする。


「そのお身体では無理です!」

「うるせぇ……俺の得物はどこだ」


 そして客間に飛び込めばレムアから聞いたようにベッドから起き上がろうとするアヤトを無理矢理押さえつけるミューズの押し問答が繰り広げられていた。

 予想していたからこそ朧月や月守は別室に隠していたこともあって時間は稼げたが、他にも理由はある。

 そもそも本来のアヤトならミューズが引き止める間もなく姿を消せる。にも関わらず起き上がるどころか、精霊力を解放していないミューズに掴まれた腕を振りほどくことも出来ていない。

 治療術では失われた血液まで戻せない。命が危ぶまれるほどの出血に半日以上も意識不明、いくらアヤトでも回復までに数日は必要な状態だ。


 しかしまだ安心は出来ない。

 アヤトには白夜という切り札がある。最悪朧月や月守を放棄してもラタニと戦う方法はあるのだ。

 そして体調も時間操作で回復できる。変わりに時間(寿命)を削ろうとラタニとの約束を果たすためなら躊躇わずに使うはず。

 むしろなりふり構わず強硬手段に出る可能性は高い。

 なんせ今のアヤトは明らかに様子がおかしいのだ。


「……さっさと得物の場所を教えろ」

「お、お断りします……っ」


「「…………」」


 ギロリと睨み付けるアヤトの姿は普段の冷静さが微塵もなく感情的で、必死と言うより殺気立ち、同じく客間に飛び込んだニコレスカ姉弟は尻込みさせるほど。

 ミューズも恐怖からを抱き、それでもアヤトを行かせまいとの一心で気丈に振る舞い続けていた。

 ただこのらしくないアヤトの姿こそ、彼にとってラタニという存在が大きい証拠だ。

 二人が交わした約束を知ったからこそ痛い程伝わる。


 アヤトはただ、ラタニの誰かを傷つけたくないとの望みを叶えたいのだ。

 両親の所業による事故だろうとラタニは他者の命を奪った事実を、己の罪だと背負ってしまう。

 故に懸念していた暴走だろうと、不可解な変貌によるものだろうと、これ以上ラタニに罪を背負わせないために。

 ラタニの命を奪うことで、変わりに罪を背負う覚悟をアヤトはずっと秘めていた。


 もちろんアヤトのことだ、今まで何もせずその日を待っていない。精霊学を始めとした様々な知識を得たのも、決して知識欲だけではなかったはずで。

 ただ解決策が見付からない中で予期せぬ暴走を前に仕方ないと。

 その葛藤からラタニの変貌を聞いた際に体が強張り、ロロベリアの精霊力が浄化できないほど消耗しているのを知っていても尚確認してきた。

 そして今も救いたいのに救えない己の不甲斐なさに嫌気が差しながら、無理矢理納得してでもラタニの命を奪おうとしている。


 要はラタニが黒い精霊力で暴走しているように、ある意味アヤトはラタニを思う気持ちから暴走しているのだ。


「…………っ」


 普段は見せない感情的なその姿を前にみなが脅える中、感情を見せてくれたからこそロロベリアもまた不甲斐ない気持ちから拳をギュッと握りしめる。

 ラタニの運命をアヤト一人に背負わせていたことが。

 彼の葛藤も知らず二人の関係を微笑ましいと、羨ましいと感じていたことが。

 何も知らずに甘え続けていた自分が不甲斐ないと。

 相談してくれなかったと言えばそれまで。しかしラタニの重大な秘密をアヤトが簡単に話すはずもない。ラタニが周囲に知られたくなければ尚更一人で抱え込んでしまう。


 だが今は悔やむよりもやるべきことがある。

 このままでは暴走のままアヤトは最悪な決断をする。自身の時間を消費してでも回復して、一人でラタニを探しに行く。

 そして再び戦えば、今度こそ最悪な約束を果たしてしまう。

 ラタニは死に、アヤトが罪を背負う未来など絶対に阻止しなければならない。

 故にまずはアヤトの暴走を食い止める。

 ただその方法としてロロベリアが選んだのは実に単純なもので。


「ミューズさん、交代ね」


「……ロロベリアさん」

「白いの……なにしに来やがった」


 涙目を向けるミューズに微笑みかけ精霊力を解放、凄むアヤトは無視しで右手を掲げて――


『パチン』


 指鳴らしで精霊術を発動、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『…………』


 勢いこそ抑えられているがベッド周辺をずぶ濡れにするほどの水量で、突拍子のない行動にミューズらは唖然となる。


「……なんの真似だ」

「熱くなってたから冷やしてあげたの」


 対し殺気剥き出しなアヤトに怯むことなくロロベリアはしれっと返答。

 暴走しているのなら頭を冷やしてやればいい。

 実に単純な方法だが、ここからが本番だと気持ちを奮い立たせて。


「カナリアさまも良くやってるでしょ?」


 まずは普段のお返しと言わんばかりにロロベリアはほくそ笑んだ。




ようやく目を覚ましたアヤトですが、周囲が心配していた以上に冷静さを欠いていました。

作中でもロロが感じていたように、それだけラタニという存在はアヤトにとって大きいのでしょう。

だからこそ葛藤して、仕方ないと割り切ってでも約束を果たそうとしていますが、そんな未来をロロが良しとするはずもありません。

そして周囲が唖然となるような突拍子のないことをしでかすのもロロですね。ここぞの場面になると彼女は本当に強さを発揮します。

とにかくラタニを救うには、なによりもアヤトを思い留ませる必要があります。

果たしてロロはアヤトの暴走を食い止めることが出来るのか……はもちろん次回で。


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