強硬の結果は
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マヤやサクラ、エニシが退室した後、事情を知らない七人にロロベリアは説明したのはマヤの正体やアヤトの過去、ラタニの変貌について、自身の精霊力やミューズの特異性などだった。
さすがに帝国や教国の裏で起きた事件は伏せたが七人にとってはあまりにも信じがたく、しかしマヤの不気味さを目の当たりにしただけに受け入れるしかなく。
「そろそろ解散するか」
元々ラタニの勲章授与式に参加するべく序列保持者や学院生会は王都にやって来た身。
ロロベリアやニコレスカ姉弟、ミューズは事情が事情だけに王都に残るつもりだが他は明日ラナクスに戻る予定。昼間の騒動もあるので余り長居させるわけにはいかないと一通り話し終えた後、ツクヨの一言でお開きになりジュード、ルイ、レガート、シエンはニコレスカ家が用意した馬車でそれぞれの宿泊施設に送られることになった。
「「「「…………」」」」
いきなり多くの情報を共有されたためか、馬車内は静かなも。
自分たちの知らぬ所で行われていた非合法な実験やラタニの出生、更には神の存在。ロロベリアやミューズの特異性が霞む程に衝撃的なので当然だった。
「……みなさんはどう思われましたか」
「どうもなにも、驚きしかないよ」
ただ沈黙を居心地を悪く感じたのか、情報整理も兼ねて感想を求めるレガートにまずは苦笑しつつルイが返答。
「ただ色々と合点もいったかな? ラタニさんやアヤトくんの強さの秘密……もちろん二人とも望まない力だろうと腐らず高めた結果だから、むしろ心の強さに改めて敬意を表するよ。それと僕はまだマヤくんと接点はないけどね、彼女の歳不相応の落ち着きにも納得さ」
「マヤさんについては私もあまり接点はありませんでしたが、神さまですからね。シエンさんはどう思いますか? 精霊学を学ぶ者として、やはり神の存在は受け入れがたいでしょうか」
「特に受け入れがたいとは思わないですね。まあマヤが本当に神かどうかは審議する必要はあるかもですが、彼女の不可思議な現象を見せられて全てを否定するのも違うです」
続いて話題を振られたシエンは首を振りつつ、不意に目をキラキラとさせる。
「それよりもロロベリアの精霊力に興味があるです。精霊石を白く浄化させる力や、精霊種の精霊石を透明化させるとか実際に見たかったです。他にも研究施設跡に放置された精霊石と、ラタニさんを変貌させた黒い霧や残された精霊石はどうなってるのか興味が尽きない話題ばかりでした」
「研究熱心なのは良いですが、愚かな道にだけは進まないでくださいよ」
「ラタニさんやアヤトが受けた非合法な実験のことを言ってるならバカにするなです」
どうも衝撃からではなく、探究心が疼いて沈黙していたようで念のためにクギを刺すも途端にシエンは眉根を潜めた。
「たしかに研究者を志す中で犠牲は付きものですが、だからってエゴを押しつけて他人の人生を狂わせるのは違うです。難しいかもですが、少なくとも自分は自分の実験に関わる者みんな笑顔になる道を進むです」
「それは失礼しました」
やはり一応程度の懸念のようで、綺麗事だろうとシエンの持論にレガートは素直に謝罪を。
「ジュードさんはどうですか?」
そのまま最も複雑な心境であろうジュードに敢えて微笑を携え声を掛ける。
なんせジュードは王族に対する敬意が強い。彼にとっては神の存在よりも王国の闇こそショックだろう。
研究者の暴走だろうと国に責任がないわけではない。それが王族の責務なのだ。
しかも今まで快く思っていないラタニやアヤトが被害者となればより複雑なはずで。
「……お前が何を想像しているかは理解しているが、既に起きてしまったことだ。私がとやかく言うつもりはない」
「ほう? それは随分と軽薄なお答えですね」
「茶化すな。そもそもアーメリ特別講師も、カルヴァシアも王族に対する敬意がなっていない。二人の生い立ちに同情はする、今まで王国のために尽力してくれた数々の功績については認めよう。しかし、だからといって好き勝手が過ぎる」
「…………」
「故に私はこれからも二人が態度を改めるよう注意を続ける。それは今後も変えるつもりはない」
「……あなたも素直ではありませんね」
王族への妄信かと思われたが、ジュードなりの不器用な気遣いだとくみ取りレガートは肩を竦める。
事情を知ったからこそ二人に対する態度を変えない。それが二人の望む形で、ちゃんと性格を把握してなければ出来ない判断だ。
要はジュードも二人の今後を案じている。
「そういうお前はどうなんだ。まさかカルヴァシアの過去を利用しようなど、愚かな考えを抱いていないだろうな」
「心外ですね。私がそこまで愚か者だと思われているのですか」
ならば話は早いと今まで考えていた提案を持ちかけようとするも、ジュードからお返しと言わんばかりの皮肉を投げかけられたレガートは即座に反論。
アヤトの過去は王族にとっての失態、言ってしまえば脅しのネタになる。他にも利用できる情報ばかりだったが、所詮は一時的な利益に過ぎない。目先の利益に目が眩むなど愚か者の思考だ。
それよりも秘密の共有者として、今後も協力する姿勢を示せば時間は掛かろうと大きな利益になる。ラタニやアヤトの性格上、ここで恩を売ればその利益は多大なものになるだろう。
もちろんレガートにとって学院生会や序列保持者は大切な仲間でもある。
つまり仲間の為になるのなら、打算的な考えでもやることは変わらない。
ただ今回の事態はあまりにも未知すぎる。
ラタニを救うには情報不足、あるとしても戦力として協力できるレベルではない。それは他の序列保持者も同じ。
それでも僅かながら協力できそうな問題はある。
「現に今まで私なりの助力を考えていました。よければみなさんも協力してもらえませんか?」
「僕たちにも出来ることがあるのかな」
「なんです」
「……聞こう」
故に改めて提案を持ちかければ三人とも耳を傾けてくれて。
「時間は限られてりますが、何もしないよりはマシでしょう?」
「……それなら僕たちも少しは力になれるかもしれないね」
「徒労に終わるかもしれないが、やってみるか」
ルイやジュードからは了承をもらえるも、シエンは僅かな間を置いて首を振る。
「自分には無理なので、今日はこのままサクラのところに行こうと思うです。状況的にズーク先輩も忙しくて帰ってこないですからちょうど良いです」
「……サクラ殿下?」
確かに貴族ならではの方法なのでシエンには難しい注文、故に別の方法を思いついたらしいがなぜサクラなのか。
「ラタニさんを元に戻す方法や原因などを突き止める為に、精霊学を嗜む者としてなにか協力できるかもです。まあ自分の知識が役立つとは思えないですが、自分だけ何もしないわけにもいかないです」
自虐的にその理由を語るシエンだが、自分の得意分野を活かそうとした結果で。
例え些細な役割でも、仲間のために役立ちたいとの思いを否定するはずもない。
「それにサクラは浄化された精霊石を持ってるらしいです。一石二鳥ですね」
「……まあ、サクラ殿下の気分転換にはなるでしょう」
「突然訪問しても受け入れてくれるだろうけど……ね」
「邪魔だけはするなよ」
「言われるまでもないです」
……知識欲が疼いているだけにも見えるが一先ずシエンを信じることにした。
とにかく四人が仲間の為に動き始める一方で、ニコレスカ邸に残った三人は――
「アヤトの監視はあたしたちに任せて、あんたたちは休んでなさい」
「いくら使用人が何も聞かず協力してくれるにしても、カルヴァシアのお守りを主任せってのは気が引けるだろうしな」
「他にも手伝えることあるなら言って。遠慮なく頼る」
同じくラナクスに戻る予定を変更してまで協力を申し出たのは言うまでもなく。
複雑な心境だろうと関係なく率先して協力する七人の思いが届いたのか。
翌朝、アヤトの意識が回復した。
ラタニを優先したことでランたちに秘密を打ち明けることになりましたが、結果はロロの信じた以上の結果になりましたね。
まだ状況を完全に掴めなくても、それぞれが出来ることを模索して、些細なことでも協力する姿勢は不安の中でも心強く感じたでしょう。
そんな思いが伝わったのか、約半日ぶりにアヤトが目を覚ましました。
アヤトの目覚めによってストーリーがどう動くのか、まずは次回をお楽しみに!
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