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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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背負わされた罪

本編再開、お待たせしました!

アクセスありがとうございます! 



 マヤから語られたラタニ出生の秘密。

 意図的に精霊力を持つ者を産み出す実験の被験者となった過去、しかもその実験が両親によるものという衝撃的で。

 しかしラタニが自身を霊獣と例える理由は更に衝撃的なもので。


「どうしてご両親はそんなことを……」

「ご両親の真意は不明ですが、ラタニさまという成功例によって更なる欲が出たのでは、とラタニさまが予想されていましたね」


 娘の体内に精霊石を移植させる、惨たらしい所業を理解できないロロベリアにマヤは三年前にアヤトへ語っていたラタニの持論だけでなく、実際にラタニが両親から聞いた持論も教えてくれる。


「みなさまもご存じの通り、精霊力を持つ者を産み出す、という実験が成功しただけでなく精霊術士として開化されたラタニさまは周囲とは比べものにならない才覚を見せつけました」


 その才覚が実験に関係しているかは不明でも、自分たちの実験の成功に気を良くした両親は更なる高みを目指した。

 そこで目を付けたのが霊獣の生態であり、精霊石だ。

 精霊士や精霊術士は精霊力を解放するだけでも精霊力を消耗する。

 対する霊獣は常に解放状態を維持し続け、しかし精霊石を摘出すればゆっくりと従来の生体に戻っていく。

 この現象は死によるものだけでなく、精霊石を失ったことで体内に残されていた精霊力を失うことによるものだと両親は推測したらしい。


「ただ摘出されて浄化された精霊石に秘められる精霊力は有限。ですが生命と深く繋がっている精霊石は人間と同じく自然界の精霊力を取り込み回復する、故に霊獣は常に解放状態を維持できると結論づけ、入れ替え戦前に移植の準備が整いラタニさまを呼び出したそうです」

「……本当にラタニさんをただの実験台にしか見てねーな。つーか、そのクソ持論をラタニさんが知ってるなら、両親が直接話したわけか」

「薬で眠らせ、目を覚ました自分に対し出生も踏まえて饒舌に語っていたとラタニさまが仰っていましたよ。この実験や移植が成功すれば、問題となっている精霊力を持つ者の減少を解消されるだけでなく、保有量が少なく産まれた精霊術士でも強化できる、まさに未来のための実験だとも」

「それはそれは、随分と高尚な実験なことで……胸くそ悪い」


 聞けば聞くほど不快を募らせるツクヨの気持ちは当然。

 両親は国の、延いては人類の未来を想い実験していたようだが、その為に両親から実験対象として見られていたと知った娘の気持ちを少しでも汲み取ろうとしないのか。


「まさに人間らしい思想でしょう? そして移植こそ成功しましたが、予想外の結果が起きました。移植された精霊石にご両親が何らかの手を加えていたのか、それとも特種な産まれが作用したのかは不明ですが、ラタニさまは無限の精霊力を手に入れてしまったようです」

「無限……?」

「正確にはご自身でも予測不可能な保有量になった、でしょうか。なんせ解放するだけで制御不能な精霊力が溢れてしまい、自らも傷つけてしまう程の暴走を起こしてしまったのですから」

「アタシや聖女ちゃんが見たような現象か」

「そのような感じですね」


 故に研究室の爆発事故はラタニが精霊力を解放したことでの暴走が原因。結果としてラタニは重傷を負い、両親を含めた多くの研究員の命を奪ったとなれば救われない話だ。

 もちろん両親について同情する余地は無い。しかし暴走とはいえ研究員の命まで奪ったラタニは間違いなく罪悪感を抱いたはず。


「その後、半年近くラタニさまは入院されました。また、こちらはご存じかどうかは分かりませんが、ラタニさまは事故の後遺症で精霊力を解放できなくなったと嘘を吐き、ナーダさまのご配慮でしばらく王都から離れて静養されたのです」


 背負う必要のない罪悪感を抱き、それでもラタニは腐らなかった。

 ナーダの勧めで王都から離れていたのは初耳だが、暴走の恐れから後遺症を偽り、移植された精霊石によって溢れる精霊力を制御するべく人知れず訓練を続けていた。

 地道な訓練の成果も実り、半年後には暴走せず精霊力を解放するだけでなく、精霊術まで扱えるようになったらしい。


「ですが完全ではありません。解放と同時に体内に潜む精霊石から溢れる精霊力があまりに膨大過ぎて引き出せば引き出す程に体の負荷が大きく、精神力も削られいつ暴走してもおかしくない状態でしたから」

「……だからアヤトに保険をかけたわけか」


 年齢と共に心身が衰えても解放くらいは問題ない。

 ただラタニの場合は精霊力の解放すら困難。戦闘中に制御をミスれば暴解放のような状態になってしまう。

 このリスクを身を持って知るラタニは万が一に備えてアヤトに望んだ。自分が暴走しても唯一対抗できる、極端な話殺してでも止めてくれるからと。

 ようやくアヤトと交わした約束に秘められた真意にユース以外も納得できたが、だからこそ新たな疑問が増えてしまった。

 一つは最初からロロベリアが疑問視していたように、なぜアヤトに酷な約束を持ちかけたのか。

 そしてもう一つ、なぜリスクを承知で再起したかだ。

 両親の暴挙、必要のない罪を背負ったラタニは精神的にも追い詰められていたはず。完全に心が折れて精霊術士とは別の未来を選択しそうなもの。

 事故の後遺症によって再起が叶わくなったと偽り続けることも出来たのだ。

 にも関わらず精霊術士に復帰して間もなく当時の王国最強を撃ち破り、今では自他共に認める最強の座を背負っている。

 後進の為、王国の為、確かにラタニらしい理由だが、絶望を知ったからこそラタニを支えていた想いが気になるわけで。


「兄様とラタニさまの約束については以上です。それでは、事情を知ったみなさまがどのような悪足掻きをするのか、楽しみにしていますね」

「やっぱり約束について以外は話してくれるつもりはないんだ」

「言い出したのはロロベリアさまですよ。悪足掻きをしない内にわたくしに頼られるのは如何なものかと」


 ロロベリアの意見にクスクスと笑い、呼び止める間もなく姿を消したマヤに続き、途中から静観を貫いていたサクラがため息一つ。


「今はラタニ殿の秘密を教えてもらえただけでも良しとしよう。アヤトも目覚めておらぬ、今は何事もないと祈るしかないしのう」

「……神さまにっすか?」

「冗談にしても笑えぬな。とにかく余りに衝撃故、妾も少し情報を整理したい」


 ユースの皮肉に肩を竦めつつサクラはこんな時だからこそ落ち着くよう指示した上で、周囲を見回し苦笑を漏らす。


「それに妾たち以上に衝撃を受けている者が居る」

「確かに」


 その言い分にユースも納得。

 ラタニの秘密が衝撃的な余りすっかり忘れていたが、ここにはランたちが居る。

 マヤの不気味さに言葉を失い最後まで茫然としている七人を巻き込んでしまったのなら、このまま放置するわけにもいかない。またミューズにも情報共有をする必要もあった。


「妾らは一度戻るとしよう。明日、また訪問させてもらうがアヤトが目を覚ましたらすぐに知らせてくれ。くれぐれもあやつから目を離すでないぞ」

「分かってますって」


 加えてサクラがクギを刺すのも当然。約束に拘っているのなら目を覚まし次第、アヤトは無理をしてでもラタニを捜しに行くだろう。その時は力尽くでも止めなければ、待っているのは悲惨な結末だ。

 故に交代しながらアヤトの監視をする必要があるもその前に。


「その……今まで放置してすみませんでした」

「……申し訳ないと思うのであれば、誠意を見せて欲しい物です」

「はい……もちろんです」



 サクラとエニシが退室するなり謝罪すれば、我に返ったように冷ややかな笑みを向けるグリードに萎縮しつつロロベリアは詳しい事情を話すことに。


「んじゃ、オレはミューズ先輩のとこ行ってくるわ。ツクヨさん、姫ちゃんのフォロー頼みます」

「任せて」

「姉貴はほとんど理解できてないでしょうに……」


 そしてミューズに情報共有する為にユースも席を立った。




第十四章でノア=スフィネと対峙していたラタニの精霊力が膨れあがった理由、また両親に対して不快を抱いていた理由や外伝でナーダさまの配慮で王都を離れ静養していた間に何をしていたか、等々の真意でした。

ただ研究員のみなさんは何も知らず、純粋にラタニに良くしていたので結果として罪悪感を背負うことになりました。

ですがマヤさんが語ったのはあくまでアヤトとの約束、なぜ絶望の淵からラタニが再起しようとしたのか、またなぜアヤトにこのような約束を持ちかけたのか……は、ここまで読んでくださったみなさまはある程度予想されてるかもですね。その辺りの真意は後ほどと言うことで。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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― 新着の感想 ―
 つまりバケモノになっちゃった自分じゃあ王子とともに居るべきではないと思っちゃったのかな?
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