出生と真相
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マヤから語られたラタニとアヤトの約束。
それはラタニの現状と酷似しているからこそアヤトが駆けつけたのも分かる。
ただノア=スフィネの精霊石による影響によってラタニは変貌を遂げた。自我を失ったことで他者を傷つける可能性もあるだろう。
にも関わらずラタニはアヤトへ事前に頼んでいた。つまり本人は現状を予兆していたことになるわけで。
「……マヤよ。その約束はいつ交わされたものじゃ」
故にサクラからもっともな質問が。
もし先日のノア=スフィネ戦以降に何らかの違和感を抱き、アヤトに相談していたのならラタニの懸念も理解できる。
「いまから三年前、兄様が武者修行に旅立つ前夜で交わされました」
「ずいぶん前だな……」
しかしロロベリアから視線を反らさずマヤは更に前の出来事だと口にする。これにはサクラと同じ可能性を抱いていたユースは眉根を潜めてしまう。
「もしかしてラタニさんの他とは違う精霊力が関係してんのか」
「そもそも、なぜラタニさまはアヤトさまにとって酷な約束をもちかけたのでしょう」
またツクヨやエニシも行き着いていた可能性だが、それとは別の疑問が。
精霊力の視認でツクヨはラタニの秘める精霊力の異常性に気づいているだけに、今回の変貌とは違う暴走する未来を予期していたと。
対するエニシはやるせない感情から。師弟であり姉弟のような二人の関係性を知るからこそ、アヤトにとって辛い約束。それでもラタニに救われた過去から、辛い選択だろうと望まれれば過去の借りを返すという理由でアヤトは実行してしまうのだ。
「まずエニシさまの疑問に答えるのならば、他に可能とする人間がいないからでしょう。ラタニさまが普段からバケモノと称されるほどお強いのはみなさまもご存じですね。そのような御方が見境無く暴れるような事態になれば、対抗できる人間など兄様以外に考えられますか?」
二人の疑問をマヤは変わらず視線を向けず、ロロベリアに語りかけるよう正論で返す。
確かにラタニは一国を滅ぼすとされる精霊種をたった一人で討伐する別次元の実力者。それこそ王国軍が総出でも対抗できる可能性は低い。
だがそんなラタニと同等の実力をアヤトは秘めている。もちろん擬神化や神をも殺せる白夜という切り札があってのことだが、暴走したラタニを唯一殺せる存在と言えるだろう。
故にラタニが望むのは仕方ない。
「でも――」
「そしてツクヨさまの疑問は概ね正しいかと」
仕方ないかもしれないが、アヤトを大切に思うラタニが酷な役割を背負わせるか、という部分がどうしても腑に落ちないロロベリアが反論するより先にマヤはもう一つの疑問について返答する。
「持たぬ者を精霊術士として、持たぬ者を精霊士に、精霊士を精霊術士にすると、精霊の力に魅入られた人間の業という被害者なのです」
マヤが語るのはまさに人間の業。
王国では人工的に精霊術士を生み出す非合法な実験が行われていた。
教国では更に精霊士を精霊術士にする非合法な実験が行われていた。
二国だけでなく帝国や公国でも暴かれていないだけで過去に、もしかするといま現在どこかで行われているかもしれない。
多くの命を犠牲にしてでも欲するほど精霊力という力は人を狂わせる魅力がある。
「なら……お姉ちゃんも……」
「ラタニさまは兄様やネルディナさまとは少し違います」
話の流れからラタニも非合法な実験を受けていたことになるもロロベリアの予想に対して首を振ったマヤの視線はサクラ、エニシ、ユース、リース、ツクヨへ。
『…………っ』
更に現れ方や言動の不気味さに口を挟むことも出来ず沈黙していたラン、ディーン、イルビナ、ジュード、ルイ、レガート、シエンへと向けると畏怖から後退りしてしまう。
「そしてあなたたちのような人間とも少し違いますね」
そんな反応も楽しむように、室内を見回してからマヤは続ける。
「わたくしも兄様とラタニさまのやり取りを聞いたのみなので、詳しい事情までは分かりません。ただラタニさま曰く、自分は人間の形をした霊獣だと仰っていました」
物騒な例えに静まり返る中、マヤは一拍分の間を置いて。
「わたくしが聞いた話では、持たぬ者を精霊士や精霊術士にするのではなく、持つ者として産み出す実験の成功例がラタニさま。そしてこの実験を実行した人間こそ、ラタニさまのご両親なのです」
だが一拍間を置いて語られたのは衝撃的なラタニの出生。
「様々な実験から胎児の段階で人為的に、一定量の精霊力を注がれれば精霊力を持つ生命が産まれるとご両親は導き出したそうです。結果、精霊士として産まれたラタニさまは赤子の時点で相当な保有量を誇っていたとか」
アヤトやネルディナのように実験体にされたのではなく、実験の成果として産まれた。しかもこの実験を試みたのは実の両親で。
「ラタニさまの規格外な制御の才は持って産まれた精霊力の保有量が桁外れなことから、精霊力という力に自然と適応した結果だとご自身が予想されていましたね。サクラさまやツクヨさまはこの持論をどう思われますか?」
「どうであろうか……」
「あたしは胸くそ悪いとしか思わねーよ」
マヤの質問に苦渋に満ちた表情で答えに窮するサクラを他所に、ツクヨは険しい表情で吐き捨てるのも当然。
精霊士として産まれた従来の赤子よりも膨大な保有量を秘めていればより体に馴染む。それが制御力に関係しているのか、実際に調べてみないと分からない。
ただそれ以前に詳しい実験内容が不明なだけに懐疑的になってしまう。
要はラタニの両親は本来あるべき形で子を宿したのか。
様々な実験過程でサクラでも想像の付かない、非人道的な手段も導き出しているのではないか。赤子の体でも膨大な精霊力に耐えられるように、胎児の段階でなにか施しているかもしれない。
もしそうならば恐るべき頭脳の持ち主。ただツクヨが吐き捨てたように、学者以前に人としても尊敬できない愚か者だ。
「そうですか。ただご両親の目的は人為的に持つ者を産み出すこと、ラタニさまが精霊術士に開花したのはまた別のお話になりますね」
「お主ならば知っていそうじゃが……なるほどのう」
「だからラタニさんの精霊力はデタラメな渦を巻いてたわけか」
とにかく出生を知ったことでラタニの懸念に納得するしかない。
従来の形ではなく、実験の成果として産まれたラタニは他者と比べものにならない膨大な精霊力を手に入れた。本人も不明な実験内容や、体内を巡る精霊力が不安定なことも踏まえれば、いつ悪影響を及ぼすかも分からない。
故に万が一の保険として、暴走した自分にも唯一対抗できるアヤトに願った。
ただロロベリアが腑に落ちないと感じた部分。いくら唯一対抗できる力を持つとは言え、あのラタニが酷な役割を背負わせるだろうか。
「あらツクヨさま、話はまだ終わっていませんよ」
「あん?」
などとサクラやツクヨだけでなく、ユースも疑問視していたがマヤはクスクスと笑いつつ首を傾げる。
「今のところラタニさまは精霊力の保有量が多いだけの人間でしかありません。まあ特種な産まれではありますが、ご自身を霊獣と例える存在ではないかと」
確かにマヤの指摘は正しい。
従来とは違う産まれ、他者を凌駕する保有量を誇るも人間として産まれた以上、霊獣のような存在に例える必要は無いはず。
なら霊獣とはどういった存在か。
まだ全て解明されていないが精霊力を持つ獣のことを差す。
精霊力を持つ人間と違う部分を挙げるなら、霊獣の体内には精霊士や精霊術士にはない結晶体が――
「まさか……っ」
「みなさまもご存じでしょうが、ラタニさまはマイレーヌ学院に入学して間もなく不運な事故に遭いました」
真っ先にその可能性に行き着いたサクラが目を見開くと同時にマヤが語るのは、誰もが知るラタニの過去。
両親が所属していた研究室の爆発事故に巻き込まれたラタニは序列戦はおろか、半年もの間休学していた。
両親や研究者の遺体すら残らない悲惨な事故として語られている。
「事故の原因はご両親がラタニさまの体内に精霊石を移植したことで起きた精霊力の暴走だそうです」
しかしこの過去には、両親の更なる所業が隠されていた。
ラタニとアヤトの会話を聞いていたマヤの語りなので詳しい内容ではありませんが、ラタニの出生がどれほど辛いものかお分かり頂けたかと。
ですが出生だけではありません。
これまで語られていた爆発事故の真相。
ラタニは両親の手によって更なる悲運を背負わされていました。
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