優先するものは何か
アクセスありがとうございます!
一休みしたミューズや王城に向かったツクヨが合流する中、夜も更けた頃ラン、ディーン、イルビナの帰宅にあわせてジュード、ルイ、レガート、シエンがマヤのお見舞いとして訪問。
遅くなったのはサクラが時間稼ぎとして夕食に誘ったようだが限界もある。唯一の救いは同じくマヤのお見舞いに来る予定だったカイルやルビラたち卒業生がノア=スフィネ復活や研究施設の事後処理で来られなくなったことと、送り届けるついでに事情を知るサクラとエニシが同席してくれたこと。
「……どういうことなの?」
「マヤさんの体調不良はアヤトさんが勲章授与式に出席しない言い訳、というのは予想できましたがそのマヤさんが留守。アヤトさんやロロベリアさんがこの時間から就寝されているのは予想外ですね」
だからといって改善されるはずもなく、状況を知ったランたちは困惑。
なんせ帰宅してみれば今朝から姿を消していた意識不明のアヤトを看病するミューズ、未だ眠っているロロベリアからリースが離れず付きっきりの状況。
なによりマヤが屋敷に居ないのが痛い。仲間内ならマヤの仮病を明かしても問題はない。ただアヤトが居るのにマヤが未だ戻らずな状況をどう説明すれば良いのか。
もちろんミューズやツクヨ、サクラと神気のアクセサリーを持つ者で何度も呼び出しているが一向に返事がない。また姿を消したマヤが近くに居るのかすら分からないのだ。
お陰でサクラとの連絡が取れず、どう説明するか打ち合わせも出来ずこの状況。
せいぜいミューズも含め、ユースや途中合流のツクヨも何故このような状況なのか分からないと白を切るしかないわけで。
「まさか精霊種のせいでマヤちゃん怪我したとか?」
「落ち着けよラン」
「だね。もし入院しているのなら僕たちにも教えてくれるはずだよ」
「そもそもカルヴァシアはどこに行ってたのだ?」
「わからない」
「まさか精霊種の出現で負傷した……だがマヤ嬢の留守が説明付かないか」
「さて、どうしたもんか」
「マヤちゃん不在がきついっすね……」
「もっと妾が引き留められればよかったのじゃが……」
故に困惑する面々にツクヨ、ユース、サクラは悩ましい。
というより事情を知るからこそラタニの行方、アヤトの容態が気になるのもある。
しかし知らない面々は不可解な状況だからこそアヤトやマヤの身を案じているのが伝わるだけに申し訳ない。
いっそのこと全てを打ち明けるべきか。
ただ打ち明けるにはアヤトやマヤの秘密、ロロベリアの精霊力についても説明しなければ納得できないだろう。
本人不在で打ち明けるべきか。
そもそもマヤの正体を素直に受け入れるか。
難しい問題なだけに躊躇っている間にも臆測が飛び交い収集が付かなくなっていたが――
「えっと……おはようございます?」
「ロロ起きた」
「ロロ?」
ようやく目を覚ましたロロベリアと付き添っていたリースが応接室に姿を見せたことで真っ先にランが反応。
「先に帰ったって聞いたけど、疲れてたの? というかアヤトが居るのにマヤちゃんが居ないんだけどなにか知ってる?」
「お、落ち着いて……ランさん」
そのまま詰め寄られて苦笑いしつつ宥めるロロベリアの顔色は良く、精霊力も回復しているようで一先ず安心。
まあ残された精霊石の浄化でほとんど精霊力を消耗させたはずなのに、たった数時間で完全回復しているのは異常なのだがそれよりも。
「そうっすよ。姫ちゃんは寝てただけ、ミューズ先輩もそう言ってたでしょ」
「……それもそっか」
とりあえずロロベリアをフォローするべくユースが仲介。
落ち着いたところでロロベリアにもこの状況について相談するつもりでいたのだが。
「ユースさん、気にしないで。それよりも、ここにいるみんなにも知ってもらおうと思うんです」
相談するまでもなくロロベリアは打ち明けるつもりでいた。
「……構わぬのか?」
「ミューズさんにも許可はもらった。それに構う構わないよりも、なにも知らないままだと手遅れになるかもしれない」
事情が事情なので仕方ないとはいえ、重大な秘密だからこそサクラが再確認するもロロベリアは譲るつもりはないらしい。
事前にアヤトの看病をしているミューズにも了承を得ているのなら、本当に全てを打ち明けるつもりで。
「お姉ちゃんのことも、アヤトの様子がおかしかったのも、マヤちゃんなら知ってる。アヤトには怒られるかもだけど、このままなにもせず間に合わなくなるよりはずっといい」
決め手となったのはやはりラタニを思う気持ち。
「もう秘密とか拘ってる状況じゃないのなら、とにかくいま私たちは分からないことを知る。知った上で解決策を模索する、その為にはどうしてもマヤちゃんの協力が必要なの」
アヤトと交戦して以降ラタニは行方不明となっている。
謎の変貌を遂げたのはノア=スフィネの精霊石から溢れた黒い霧ではあるも、どのような影響を与えたのか、元に戻せるのかは見当も付かない。
ただ元に戻るのが時間勝負なら躊躇っている暇も、無理に隠し通す必要もない。
ラタニを思うなら今は立ち止まるよりも動くべき。
そのためには全てを知るであろうマヤの協力は必要不可欠だと。
もちろん重大な秘密だからこそ慎重を期する必要性はロロベリアも承知の上だ。
「それに私は知られても構わないから。まあ、広まって欲しくはないけど……その辺りはね、心配してないし」
それでもミューズ含め決意できたのは打ち明ける相手を信頼してのこと。もしここに卒業生らが居てもロロベリアは踏みきっただろう。
アヤト抜きで決めてしまったが、先も言ったようにいま優先すべきはラタニを救うこと。その為ならば嫌われ役も担う覚悟がロロベリアから伝わっただけに、引き止めるのも無粋とサクラはため息一つ。
「確かにそうじゃが……マヤは協力してくれるのか」
「どうだろう。マヤちゃんだから微妙かな」
残る問題はマヤが素直に協力してくれるか。
呼びかけにすら応えない状況もロロベリアは承知の上と、今までのやり取りが理解できず訝しむランたちを見回してから天井を見上げた。
「ねえマヤちゃん、ここに居るなら出てきてくれない」
神気のブローチを使わず直接呼びかけるも返事はなく、ランたちから不可解な視線を向けられるのは当然で。
「それともアヤトが心配でここに居ないかな? だったら今からみんなでそっちに行くけど」
「――――本当に、ロロベリアさまは興味深いですわ」
『――――っ』
しかし再び呼びかければロロベリアが見据える天井付近にマヤが顕現。
突然姿を現しただけでなく、宙に浮いたままクスクスと笑う様子にランたちは信じられないと目を見開く。
「もしわたくしが呼びかけに応えなければどうなさるおつもりでいたのでしょう」
「その時はその時に考える。というか、今まで私たちの呼びかけに応えてくれなかったのってただの意地悪?」
「さて、どうでしょうか」
対するロロベリアは周囲の反応も気にせず、ゆっくりと目の前に降り立つマヤに微笑みかけるも交わされてしまう。
「それよりもロロベリアさま、わたくしの協力を得るには対価が必要なのはお忘れではないでしょうか」
「もちろん忘れてない。でも、お姉ちゃんとアヤトの約束について教えてくれるくらいはいいと思うけど。別にマヤちゃんの不思議な力を借りるわけでもないしね」
更に手痛い返しをされるがロロベリアは動じずしれっと反論。
いま求めているのはラタニの変貌について、ではなく二人の間で交わされたやり取りについて。
その場に同席していなくてもマヤはアヤトを常に観察している。こう言っては何だが盗み聞きした内容を教えて欲しいだけで、今回の一件について核心に迫る情報までは求めていない。
「それに事情を知った私たちがどんな悪足掻きをするか、少しは興味深いと思ったから私の呼びかけに応えてくれたんじゃないかな?」
なにより今まで無視していたにも関わらず、この場で呼びかければ姿を見せた。
それはランたちがいる中でロロベリアが興味深い行動を起こしたのもあるだろうが、もう一つ理由もあるはず。
ただこの理由はロロベリアの勝手な願望でしかないと今は触れず、マヤから視線を反らさず返答を待つのみ。
「……ですね。このまま放置、というのも面白くありませんしその程度ならばお話ししてもいいでしょう。お話しすることで兄様を不快にさせるかもですが、それはそれで楽しめますから」
ロロベリアの願望か、それとも神さまの気まぐれか、目を細めながらもどこか楽しそうにマヤは乗ってくれた。
「じゃあこのお話しについては対価なし、約束ね」
「構いません。さて、どこからお話ししましょうか」
とにかく最初の難関はクリアしたと内心安堵するロロベリアを他所に、マヤは焦らしに焦らした上で――
「まずお二人の約束とは、ラタニさまが本物のバケモノとなった際、誰かを傷つける前に殺して欲しいと兄様にお願いしたものです」
ランたちがニコレスカ邸に戻って来たことで収集の付かない状況を打破したのはロロでした。
色んな事情が重なっているので慎重になるのも必要ですが、いま何を優先するべきかを判断して実行する。単純かもですが、結構難しいことでもありますね。
この単純でも難しい決断を出来るのがロロです。もちろん相手を信頼しているからこその決断ですが、とにかくマヤさんはロロの呼びかけに答えてくれました。
マヤさんの真意や、ロロの願望についていまは触れないとして。
次回でラタニが一方的にアレクとの約束を破棄した理由、ラタニとアヤトの約束が交わされる理由となった、ラタニ出生の秘密がついに明かされます。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!