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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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回想 幸せの欠片 約束

アクセスありがとうございます!



 風潮にそぐわないラタニの精霊術に予想外にもアレクには好評。

 今まで自分の思想が周囲に認めてもらえず、むしろ才能の無駄遣いと揶揄されていたラタニにとっては新鮮な反応で、他にもいたずら感覚で編み出した精霊術を披露してはアレクを驚かせては笑っていた。


「さてと……そろそろ終いにしようか」

「……残念です」


 しかしそんな時間も長くは続かず、切り上げるラタニにアレクはしょんぼり顔。

 既に三〇分近く精霊術を使い続けている上に復路の飛翔術を考えれば保有量の問題がある。そもそもこれだけ精霊術を使い続けるのは上位精霊術士並みの保有量が必要、むしろラタニの年代で可能な保有量ではない。

 ただそう言った事情も気づかないほどアレクは夢中になっていたのだろう。王族でもまだ幼いからか本当に無邪気だと呆れる反面、王族にもアレクのような思想の持ち主も居るのだと感心する。

 それだけにラタニももう少しだけ一緒に楽しみたい気持ちはあるが、保有量以外にも理由があった。


「仕方ないでしょうに。あーくんもそろそろ戻らないとお連れの保護者が心配するんじゃないか」

「……え?」

「にしても、お連れの保護者の目を盗んで逃げ出すとか王子さまも中々にやんちゃ坊主だ」

「…………気づかれていたのですか」

「やっぱ逃げ出してたか」

「はい……」


 故に答え合わせをすればアレクは目を丸くした後、ばつが悪そうにポツポツと白状する。

 予想通り社会勉強も兼ねた視察の許可を貰ったアレクだったが、飲み物が欲しいと頼みお付きが離れた隙を狙って馬車から抜け出したらしい。また身を隠す為にローブをこっそり用意していたように最初から抜け出すつもりでいたわけで。


「そんなことしたら家臣が心配すると分かってるのに、どうしてやんちゃな企みをしてたかねぇ」

「少々息が詰まっていたといいますか……」

「長男だからこそ周囲の期待が鬱陶しくて、ちょっと悪い子になりたかったとか?」

「そこまでは思っていませんが……その通りです。後はそうですね……贅沢な話かも知れませんが、一度で良いからわたしも街中を自由に歩いてみたかったんです」

「ま、王族ならいろんな柵みもあるか。でも残念ながら変なお姉さんに捕まって自由にお散歩は叶わなかったと」

「いえ! らーちゃんとの時間はそれ以上に楽しかったです!」


 しかしラタニの軽口には首をぶんぶん振りつつ否定。


「珍しい精霊術をたくさん見せて頂きましたし、一緒に遊べたのはとても楽しくてあんなに笑ったのは初めてでした!」

「おおう……そりゃなによりだ」


 更に目をキラキラさせて力説され、その勢いにラタニは後ずさる程で。


「なので本当に感謝していますし、もっともっと一緒に遊んでほしいと…………思っていますが……あの、らーちゃんはわたしが王族と知っていながらなぜ、気づかぬふりをされていたのですか?」


 ただ徐々にトーンダウンしていくと共にアレクは今さながらの疑問をぶつけてきた。

 最初から気づいていた上で自分をあーくんと呼び、対等に接していた。本来なら王族と分かれば態度を返るし、抜け出したことも勘づいていたなら逃亡の手助けなどしない。

 ラタニがアレクの反応を新鮮に感じたように、アレクにとってラタニの態度は新鮮であると同時に疑問にもなるのだが――


「知られたくなさそうだったから知らぬ振りしてただけだよ。それになんとなーくでも、あーくんの気持ちを察したからちょっとくらい羽目を外してもいいだろってね」

「…………」

「でもさすがに家臣が可哀想だし、大事になる前にさっさと帰った方がいいでしょうに――てなわけでっと」


 しれっと返されポカンとなるアレクを再びお姫さま抱っこしたラタニは詩を紡ぎ、飛翔術で上空へ。


「もしかしたら既に大事になってるかもだけど、そん時はらーちゃんも一緒にごめんなさいしてあげるよ」


 最初は適当な場所に放置して知らぬ振りをするつもりだったが、思いの外長引いたのはアレクの反応が面白くて調子に乗った自分の責任。

 ならば逃亡を手助けしたと白状するべき、重罰になったらその時だと笑うラタニを他所にアレクは神妙な顔つきで首を振る。


「元はわたしのわがままな行為、らーちゃんはなにも悪くありません。なので街中に入ればわたしを降ろしてそのまま立ち去ってください」

「お姉ちゃんに甘えても構わんよ?」

「わたしが構います」

「そっか……なら甘えようかね」


 幼くともやはり王族か。無邪気さが消えた凜々しい顔つきにラタニが折れることに。


「らーちゃんと会えて本当に良かったです」

「そりゃなによりだ」


 そして二人が出会った商業区が見えた頃、笑顔を浮かべながら気持ちを述べるアレクにラタニは苦笑を漏らす。

 相手は王族、自分は精霊術が上手いだけの平民だ。例え共にマイレーヌ学院へ入っても今日のように気軽に言葉を交わすことも難しい。

 故にアレクは寂しく感じながらも無理して笑顔を向けてくる。ちゃんと相手の負担にならないよう気遣う一面が少しだけ頼もしく思う反面、いじらしいく見えて。

 なによりこれで終いなのが残念と感じている自分がいた。


「……仕方ないねぇ。なら今日みたいに遊べるよう、あたしが頑張ってあげよう」


 だからこの提案はアレクのためではなく、自分のためだったのだろう。

 ラタニは精霊術が上手いだけの平民。

 

「確かいまの宮廷魔術師団長さまと国王さまは結構な仲良しさんで、時たま暇つぶしにお相手してるんでしょ」


 だったらその精霊術でのし上がり、アレクの近くに行けばいいだけ。


「つまりあたしがその地位になれば、あーくんの暇つぶしのお相手になれる。後は護衛として城下のお散歩にも付き合えるか。まあ自由とはいかないけど、ただの平民よりはお近付きになれるでしょ」


 この提案に目を丸くして見上げるアレクの視線が何故か気恥ずかしく、その感情をごまかすようにラタニはケラケラと笑って。


「だからそんな顔するな」


 自分の精霊術を褒めてくれたように、無理したものではない無邪気な笑顔を見せて欲しいとの望みに対し、アレクと言えば。


「……では、わたしは国王にならなければいけませんね」

「別に国王さまを目指す必要はないでしょうに」


 微笑と共によく分からない宣言を返す。

 例えとして国王と宮廷精霊術士団長の関係を告げたが、二人の間を阻む壁は身分差。ラタニが出世して王族に近い存在になればクリアできるはず。


「かもしれません。ですがらーちゃん一人に頑張らせるのも違いますから、わたしは遣えるに相応しい存在になります」

「そんな大層な……」

「お気になさらず。わたしが勝手に決めたことです」

「ならお互いに頑張りましょうか」


 にも関わらず譲らないアレクに再びラタニが折れ、周囲を確認してから屋根上に降下する。

 子どもだろうと精霊士なら充分降りられる高さ。


「ではここで……次はマイレーヌ学院でお会いしましょう」

「りょーかいだ」


 つまりしばしの別れとなるが約束のお陰か未練も無く背を向けた。


「そういや忘れてたわ」


 しかしアレクが精霊力を解放するに合わせてラタニは振り返り。


「あたしはラタニ=アーメリ。将来は宮廷魔術師団長から王国最強をぶんどる予定だけど、今はただのラタニ=アーメリね」


 今さらながらの自己紹介にアレクは虚を衝かれるも、無邪気な笑顔を向けてくれて。


「わたしはアレク=フィン=ファンデル。未来のファンデル王国国王になる予定の、今はただの第一王子です」

「第一王子はただのじゃないでしょうに」

「……ですね」



 改めて自己紹介をしたものの、今はただのらーちゃんとあーくんのまま別れる。

 そして次会う時はマイレーヌ学院で先輩後輩として。


「ほんじゃ、またねん。あーくん」

「はい……らーちゃん」


 しかし更に先の未来では王国最強と国王として再会しようとの想いを込めて別れを告げた。




前章で触れた二人の約束についてでした。

結局お互いに名と身分は明かしましたが、最後までらーちゃんとあーくんとしてお別れしましたね。

そしてマイレーヌ学院では先輩後輩、更に未来では王国最強と国王として再会する約束をしました。

またなぜラタニからこのような提案をしたのか、なぜアレクが国王になると宣言したのか。

両者の心情については伏せましたが、次回アレクサイドの心情に触れて回想シリーズは一先ず終了となります。



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


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