回想 幸せの欠片 交友
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年越し祭の翌日、暇つぶしの散歩をしていたラタニは何かから必死に逃げている子どもに遭遇。
フードを深く被っているので最初は顔も分からず、ただ関わった方が散歩よりも良い暇つぶしになりそうとの軽い理由で子どもの逃亡に協力した。
しかし逃亡時、飛翔術を使ったことでフードがめくれて相手が第一王子のアレク=フィン=ファンデルと判明。
(ま、おおかた城下の視察途中で抜け出したってところか)
……したのだが、相手が王族と知ってもラタニは取り乱すことなく冷静に分析をしていたりする。
年越し祭の翌日だからこそ王都内は人も少ない。普段より安全を確保できる分、社会勉強も兼ねた外出も許されるだろう。
もし道中で悪漢に襲われ一人逃げたとしても、詰め所に行くのを渋るのは矛盾があると、先ほどの提案も確信を得るために敢えてしたもので。
まあ予想通りの理由だとしても王子のやんちゃを手伝う行為は大問題。いくら後にアレクが擁護しても罪に問われる可能性はあるがそこはラタニ。
(もしヤバイ目に遭いそうなら、この子を適当な場所で放置しとけばいいか。それでもダメならそん時だ)
実に投げ遣りな考えで後の面倒事を無視。今は本来言葉を交わすのも難しい王族と関わる面白さを優先していた。
対するアレクは自分の正体がばれている上に、面白半分で関わられたと知らず困惑中。
それでも下手に発言すれば自分が王族だとバレるかもしれないと控えているようで、全身が強張っているのが抱える両腕から伝わっている中――
「あの……おねえさん――」
「らーちゃんね。どしたん?」
「……らーちゃんはおいくつですか」
考え抜いた結果の質問にラタニはキョトンとなるも、続いてケラケラと笑った。
「女の子に年齢を聞くとは失礼な子だねぇ。いったいどんな教育受けてんだい?」
「す、すみません……! ただ、見事な精霊術なので……」
からかい半分な注意をすればアレクは慌てて謝罪を。
「わたしと余り年も変わらないのにすごいなと……」
「かもねん」
「……もしかするとあなたはラタニ=アーメリ……でしょうか」
ただ自分がアレクと気づいたように、アレクも正体を言い当ててしまうが当然のこと。
自惚れではなくラタニの名はそれなりに有名、王族の耳に届いていても不思議ではない。そして風の精霊術士で、飛翔術を扱える同年代の少女となれば予想も容易い。
「さてどうかねぇ。つーかあたしのことを知りたいなら、まずは自分のことを教えるのも礼儀じゃないかい? てなわけであーくんの本名を教えてくれるならあたしもちゃんと名乗るよー」
「……それは」
だからといって認めるわけもなく、いじわるな条件をつければアレクは眉根を潜めてしまう。
「まあ名前とかどーでもよかよか。あたしはらーちゃん、あんたはあーくんで良いでしょうに」
「ですね……」
「でもまあ? あたしの精霊術を褒めてくれるのは嬉しいもんだ」
教えてもらえないと残念なのか、それともからかい半分の注意を真に受けて反省しているのか、落ち込むアレクにラタニもやりすぎたと反省。
「そんなあーくんにもっとすごい精霊術を披露しちゃおうかねっと」
故にお詫びがてらのサービスを思い付き、周囲に人影がないのを確認して平民区の外れに着陸。
「そーいや串焼き持ったままだった。お召し物は汚れてないかい」
「え? あ……へ、平気です」
今さらながら串焼きを持ったままお姫さま抱っこをしていたのを思い出すラタニを他所に、地面に下ろされたアレクはローブの確認もせず顔を赤くして俯いてしまう。
アレクはアレクで今さらながらお姫さま抱っこをされていたのが恥ずかしくなったのか。
「ほいでは――『包め・包め・自由な風を――』」
王族と言えどまだ幼いだけに初心な反応にラタニは笑って、串焼きを食べ終えてから詩を紡ぎ始める。
「……? 今の精霊術はいったい……」
精霊士なので目の前の精霊力こそ感じ取れるが、詩を紡ぎ終えても周囲になにも変化が起きないことにアレクは訝しむ。
「それは実体験してのお楽しみ。てなわけで……」
「え? え? らーちゃん!?」
対するラタニは発動した精霊術を維持したままアレクを再びお姫さま抱っこ。
「楽しんでこーい!」
「うわぁ!」
からの照れる間も与えずアレクを上空へ放り投げた。
その高さは有に二〇メルは越えるほどで、いくら精霊士でも怪我は免れぬ強行にアレクはなにも出来ないまま目を閉じ落下していく。
ぽよん
「――――っ!?」
はずが、待っていたのは痛みではなく弾力のある感触がアレクを押し返すよう再び上空へ。
「らーちゃん……わわ! これはいったい……!」
「その辺り一帯に空気の膜を張ったんよ――と」
不思議な現象にされるがままなアレクの疑問に答えつつ、ラタニも顕現した空気の膜に飛び乗った。
「要は風船みたいなもんだ」
「…………」
「見えないけど三〇メル四方に張られてるから心配しなくてもいいよー」
「…………」
一緒にポンポンと弾みながら説明されるもアレクは唖然としたままで。
まあ無理もない。伸縮する空気の膜を三〇メル四方に張る、という制御の難しい精霊術を可能とする以前に、このように無駄な精霊術を扱う者など居ないのだ。
精霊術とは精霊の寵愛を受けたことで精霊と同じく自然を操る力。本来は霊獣のような脅威に対抗するためにある。
にも関わらずラタニは精霊術を遊具のように扱う。神聖な力が故にその神経が信じがたいのだろう。
事実、教育施設でもいたずら半分の精霊術を扱えば白い目で見られるか、もっと有意義のある精霊術を使えと注意された。
だがラタニは精霊に対する信仰もなければ、精霊術を神聖なものと微塵も思っていない。もちろん人を傷つけるような精霊術を使う気はないが、せっかく扱えるものなら面白い方がいいとの感覚で。
この精霊術も固い地面で寝そべるより、柔らかい物に寝そべった方が気持ちいい、との考えから編み出したもの。
いま扱っているのもアレクが驚くかな、程度の気持ちに過ぎない。別に自分の考えを押しつけるつもりもなければ、共感して欲しいわけでもない。
「どうだいあーくん。楽しんでるかー」
相手は王族、所詮は今だけの間柄なら呆れらても関係ないと一人はしゃいでいたが――
「あは……あははは――っ」
返答の変わりにラタニ以上にはしゃぎ笑うアレクがそこに居て。
「らーちゃんすごい! こんな精霊術は初めてです!」
「……そうかい」
予想外の反応にむしろラタニが呆れてしまうも。
「楽しんでくれてるようでなによりだ」
今まで自分の精霊術に対して嫉妬や鬱陶しい期待を向けられていたのに、純粋に褒めてくれるアレクに悪い気はしなかった。
相手がアレクと分かっているラタニに対し、まだアレクは相手がラタニと確信が持てていません。
そんな中、周囲と感覚のずれているからこそ疎まれていたラタニの精霊術がアレクとの交友を深める切っ掛けになりました。
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