回想 幸せの欠片 始まり
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研究職に務める両親の間に産まれたラタニは精霊術士に開花してから既に頭角を現していた。
精霊術士として開花した平民の子は国の援助で精霊術についての基礎や制御を教育施設で一定期間通い学ぶのが義務、その施設に通って間もなく一通りの技能を習得。保有量や制御に関しても講師顔負けなほど。
加えて両親の影響で幼少期から精霊学を独自で学んでいたこともあり、周囲はラタニの将来に期待していた。
しかしその反面、奔放で気分屋な性格も問題視されていたりするが本人は周囲の期待や目など気にせず、一六になればマイレーヌ学院に入り、そのまま術士団に就職するか、それとも両親のように研究職に就く方が面白いか、程度に将来を考えつつ何となくな毎日を過ごしていた。
そんなラタニに転機が訪れたのは十才の年越し祭を迎えた翌朝。
祭りごと関係なく研究に忙しい両親や、変わり者で非凡な才が故に友人も居ないので年越し祭にも参加せず、一人家で過ごしていたラタニは暇つぶしの散歩に出ていた。
年越し祭後にもなれば王都も静かで、屋台で購入した串焼きを頬張りながら普段とは違う雰囲気を楽しんでいた。
「は……は……!」
「あむん?」
のだが、突然路地裏から飛び出してきた人影に串焼きを頬張りつつラタニは首を傾げる。 フードを深く被っているので顔までは確認できないが体格からして自分と同い年か少し下程度。ただ何かから必死に逃げているような雰囲気で。
「はむはむ……ふむ」
なにより感じる精霊力や脚力から恐らく精霊力を解放している。決められた場以外では有事を除き精霊力の解放は許されていない。
にも関わらず解放しているのならその子にとって有事なのだろう。
これは事件の匂いがするとラタニも精霊力を解放、即座にその子を追いかけたのだが――
「ねぇねぇ、そんなに急いでどうしたん?」
「あ……え?」
心配というより面白そうとの理由で関わろうとする辺りがラタニで、追いつかれた子どもも緊張感のない問いかけに子どももキョトンとなる。
「誰かにイジメられてるん?」
「あ……あの! 悪い人に追われてて……!」
それでも構わず確認すれば予想通りの返答。
「やっぱねー。んじゃ、おねーさんがおいかけっこを手伝ってあげよう」
「え……?」
「そんなわけでまずは『吹け・吹け――』」
ならばとラタニは子どもの手を取り詩を紡ぎながら跳躍、吹き上げる風に乗って子どもと共に屋根の上に。
「続いて『纏え・纏え・我が足に――』」
更に子どもをお姫さま抱っこするなり両足に風を纏わせ屋根を伝いに移動していく。
「この辺りでいいかなん。てなわけで『駆け・駆け・風を切るように――』」
最後は飛翔術で空高く舞い上がった。
「こんくらい高く飛べば相手も精霊力を解放してない限り見えんでしょ。さて、どこに向かうかねぇ」
「…………」
そのまま滑空するラタニにお姫さま抱っこをされていた子どもは茫然自失。
というのも思いも寄らない行動もだが、ラタニの年頃では最初の精霊術ですら扱うのは困難。しかし飛翔術までも熟練の精霊術士のように淀みなく扱えば驚きもする。
「あんたはどこか行きたいとこあるかい?」
「……あ、え……と」
「それよりも詰め所に行って助けを求めた方がいいか。そん時はあんたを助けるために仕方なく精霊術を使いましたってあたしを擁護してねん」
「その……詰め所に行くのは少し……」
ただ矢継ぎ早の質問に我に返った子どもはばつが悪そうにしながら拒否。
なぜ悪者に追われているのに詰め所を拒否するのか、という疑問をラタニは抱かない。
なんせ飛翔術を使ったことでローブがはだけて相手の顔が見えたからで。
精霊力を解放したままなので瞳は紫、しかし金糸の美しい髪色や幼いながらも整った顔立ちには見覚えのある男の子。
「嫌ならこのままお散歩しますかね。ちなみにキミのお名前は?」
「え……あ――ではなくて……あの……あの……」
ちょっとしたいたずらで名前を確認すればやはり言い淀む男の子にラタニは確信。
「さっきから『あ』ばっかりだ。んじゃ、あたしはキミをあーくんとでも呼ばせてもらうけど構わないかい?」
「……構いません。あの……助けてくれてありがとうございます。それでお姉さんは……」
「あたしかい? そうだねぇ……」
敢えて自ら話題を逸らせば男の子は安堵と共に感謝を伝え逆に質問してくるが、理由が理由とは言え相手が名前を教えてくれないのに自分の名前を教えるのは負けた気分。
「ならあたしはらーちゃんとでも呼んでくれい」
「らーちゃん……ですか」
「よろしい。そんじゃあーくんや、らーちゃんのお散歩に付き合ってもらおうか」
故にお返しと言わんばかりに適当に返し、ケラケラと笑いながらラタニは王都の外れに向かいつつ。
「ちなみにあーくん。お散歩終わったらちゃんとあたしの擁護するってらーちゃんとお約束できるかい?」
「え……?」
「でないとこのまま詰め所にご案内するよー」
「……わかりました。約束します」
「よろしい」
男の子が第一王子のアレク=フィン=ファンデルと察していたからこそ、しっかり予防線を張るのも忘れなかった。
まずはラタニとアレクの出会いでした。
十才ながら既に熟練の精霊術士クラスに精霊術が扱えるよりも、相手が王子と分かりながらも動じず楽しむメンタルも当時からラタニさんはラタニさんです。
そんな二人が後のどんな約束を交わすのか、またアレクさまが逃げていた理由もこの回想シリーズで明かされていきます。
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