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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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国王の決断

アクセスありがとうございます!



 意識を失ったアヤトをロロベリアとミューズに任せてニコレスカ邸で別れたカナリアとツクヨは、サクラとの打ち合わせ通り国王に報告するため王城へ向かった。


「……まだ精霊種が討伐されたことは知られてねーみたいだな」

「戦闘区域には誰も近づかないよう指示を受けています。それに精霊種が復活したと知らない者も、好んで近づかないでしょうから」


 誰にも見られないようツクヨやミューズの感知能力を頼りに、外壁から侵入したとはいえ警備以外の人と出くわさなかったのは軍施設に避難しているから。

 ただ人の気配がなくとも王都内に緊張感が漂っているのなら、未だノア=スフィネの脅威は続いていることになる。

 討伐だけでなくラタニの変貌を目撃した者がいないのは好都合。しかしいつまでも隠し通せるものではないだけに、早々に国王の判断を仰ぐべき。


 故に二人は精霊力を解放して王城へと急ぐも、レイドやエレノアと懇意にしていようと素性が分からないツクヨが王城に入るのは難しい。ノア=スフィネの復活で警戒態勢が敷かれているので尚更だ。

 なのでまずはカナリアのみで門兵に対応。ここでラタニがノア=スフィネの討伐と国王に言伝を頼まれたよう伝える。

 もちろん門兵はなぜ本人が直接報告に来ないことを訝しむが相手はラタニ、気分屋で意味不明な行動を起こすのは有名。加えてツクヨの身元やラタニと共に暮らしている仲なのはレイドやエレノアが保証してくれる。

 ツクヨが戦闘区域に居たのも打ち合わせ通りラタニが心配で自らの意思で向かったと説明、とりあえず討伐報告を兼ねてレイドやエレノアにもツクヨのが訪れていると伝えるようお願いすれば最後は折れてくれた。

 ノア=スフィネ討伐の報告を早くしたい気持ちや、カナリアに対する信頼もあっただろう。とにかくレイドやエレノアの口添えもあり、ツクヨも無事謁見を許された。


「先生が父上に伝えたいこととはなにかな?」

「悪いがいくら王子さまでも教えられねぇよ。つーか国王さまへの言伝を王子さまが先に聞いてもいいのか?」

「それを言われると痛いなぁ」


 まあエレノアはともかくレイドに勘繰られてしまうもツクヨの方が一枚上手。


「それに国王さまにはアタシの秘密も話すかもしれねーからな。だからちょいと人払いも頼みたいんだわ」

「ツクヨくんの秘密……興味深いね」

「知りたけりゃ望み通り国王さまにはサシで会えるよう頼んでくれ。もちろん宰相さまやカナリアさんの同席は構わねーぞ」

「約束だよ」

「決まりだな。王女さまも頼むわ」

「……良いだろう」


「ツクヨさん……」


 更に自らの特異性を餌にレイドやエレノアを味方につける様子に感心反面、口調や態度にカナリアの胃が痛んだのは言うまでもない。


 そして二人の助力を得たことで国王と宰相のみと理想の面会場が設けられ、通された応接室で待つことしばし。


「お主についてはレイドやエレノアから聞いておる。故に挨拶も良い、不躾な態度も許すのでお主の話しやすいよう報告してくれ」


 宰相のマーレグと共に応接室にやって来たレグリスは着席もせずいきなり本題を促す。

 故に跪く間もなく出迎えてしまったがラタニの言伝が緊急を要するものと判断したのかも知れない。


「では遠慮なく。ただ国王さまにお会いするためにラタニさんの言伝という理由を使ったこともお許しください」

「……なに?」


 ならばと多少弁えつつ真実を打ち明ければレグリスは眉根を潜めるもそこはツクヨ。怯むことなく続けた。


「ラタニさんだけでなくアヤトにもヤバイ事態が起きました。だから国王さまの判断を仰ぎたいんです」

「……聞こう」


 アヤトの名前も持ち出せばレグリスも理解してくれたようで聞く態勢に。

 後は打ち合わせ通りツクヨが目撃したノア=スフィネとの攻防から、討伐後の精霊石から溢れた黒い霧に飲み込まれたラタニが変貌したこと、途中で合流したアヤトが負傷したまでを掻い摘まんで説明していく。

 またさすがにマヤやミューズ、ロロベリアの精霊力については伏せた方が良いので精霊力の色を視認できる特異性を打ち明け、戦闘区域に向かったのもノア=スフィネの秘める精霊力に興味を持ったとの理由にしている。

 合間にカナリアも補足してくれたお陰か、突拍子のない内容でもレグリスとマーレグは真摯に耳を傾けてくれて。


「討伐証明も兼ねてこいつを渡しておきます。信じられないかもしれませんけど、そいつには精霊力が微塵も感じられませんよ」


 更に信憑性を得る為にツクヨが取り出したのはノア=スフィネの精霊石の一部。

 王都に戻る前、サクラの助言から確認してみれば漆黒の精霊石はロロベリアが浄化したような無色透明に変わっていた。

 唯一の違いはミューズの眼でも精霊力を確認できなかったこと。恐らく精霊石に秘められていた精霊力が黒い霧となって溢れ出たことで、完全に精霊力を失ったのか。


「戦闘区域にも同じような状態の精霊石が残されています。そして隊長が心配で私も戦闘区域に向かいました。既に隊長の姿は消えていましたが……独断で持ち場を離れたことについての処罰は覚悟しております」


 また負傷したアヤトを精霊士のツクヨが治療できない部分については、カナリアが自らの意思で向かったことにして補うことに。

 こちらもミューズの存在を隠すためであり、生真面目な性格から本人も勝手に持ち場を離れた負い目があるようで。


「アヤトさんはツクヨさんと共にニコレスカ邸に運んでいます。ニコレスカ家の方には詳しい事情を話していませんが、元より懇意にされていることもあり、なにも聞かず医師を呼んでくれました」

「そうか……いや、お主の独断がなければアヤトは助からなかったであろう。ニコレスカ家に任せた機転も踏まえ、予はなにも聞かなかったことにしておく」

「……感謝します」


 ただ結果としてアヤトが一命をとりとめ、ラタニの変貌についても公にならず済んだのならとレグリスは寛大な処置を取るも、険しい表情でテーブルに置かれた精霊石の欠片を手に取った。


「……ツクヨよ、ラタニの変貌はどう見る」

「残念ながらそこまでは。強いて言えるならその精霊石から溢れた黒い精霊力がラタニさんに何らかの影響を与えた、くらいですね」

「ではラタニを元通りにする方法も分からぬと」

「……原因が不明ですから確実にある、とは言えません」


 レグリスの質問にロロベリアの顔が思い浮かぶもツクヨは首を振る。

 もしラタニの変貌が黒い精霊力によるものなら、ロロベリアの精霊力で浄化は出来る。しかし浄化したからと言ってラタニが元に戻るとは限らない。

 更に擬神化したアヤトですら手こずったラタニに触れて精霊力を流し浄化するなど至難の業。希望的観測でしかないなら伏せるべき。

 それよりも今は早急な対処が必要だ。


「最後に、変貌したラタニは誰かを殺める可能性はあるか」


 レグリスも理解しているからこそ確認してくる。

 そう、最悪なのはラタニがノア=スフィネのように破壊の限りを尽くすこと。

 いくら黒い精霊力による暴走だろうと、この事態だけは避けたいのだ。その為にもラタニの捜索をレグリスに協力して欲しいと報告したわけで。


「…………今のラタニさんは自我を失ってる。正直考えたくもねーが……充分にあり得るだろうよ」

「今すぐラタニの行方を調べるとしよう。黒い精霊力を纏っているのなら目撃者もおるはず、マーレグも分かっておるな」

「ラタニの名を伏せた上での捜索ですね。ではこうしましょう」


 やはりレグリスも同じ危機を抱いてくれたのか、クギを刺されたマーレグも察した上で提案したのはノア=スフィネの復活によって霊獣区域に異変がないかを調べる為に王都へ戻らないとの内容がラタニの言伝とする。

 つまり黒髪黒目に変貌しているのなら遠目でラタニとは気づかれない可能性はある。


「所詮は僅かな可能性でしかないが、ラタニがノア=スフィネのような怪物になったと知られて国民が混乱する。出来うる限りは伏せるとしよう」

「ありがとうございます」


 もちろん軍の最高責任者や、負傷したアヤトを休ませていることからサーヴェルにも伝えておくが、ラタニの名誉を守るレグリスの配慮にカナリアは感謝した。

 後は暴走したラタニが危害を加えないよう祈るばかり、その為にもまずは居場所を突き止めることが第一とさっそくマーレグが手配を始める。


「とにかくツクヨよ、報告感謝する。カナリアもご苦労であった」


 そしてカナリアに他の隊員には事実を伝え、共に捜索を急ぐよう指示。ツクヨにはアヤトが目を覚ますまでニコレスカ邸に居るよう頼み二人を退室させた。

 またアヤトの容態については後ほどサーヴェルに報告させるよう伝え、後は報告を待つのみとなった。


「いつまでも隠し通せるものではありません」

「分かっておる」


 ただ二人きりになるなりマーレグから受けた指摘にレグリスは目を細める。


「さすがにアヤトの手を借りるわけにもいかぬ。ラタニは精霊種の精霊力に飲み込まれ暴走したことにする」


 アヤトもラタニの出生を知る一人。だからこそ変貌したラタニと相まみえた。

 もしかするとアヤトも自分やマーレグのように、万が一を見据えてラタニから頼まれているかもしれない。

 実力を知るだけに大きな戦力になるのは間違いないが、いくらアヤトが事情を知ろうと酷な役割を務めさせるつもりはない。


「あやつが誰かを殺める可能性があるのであれば見つけ次第、その役割は予が務める。故にアヤトには伝わらぬよう注意しておけ」

「サーヴェルや小隊員にもアヤトに情報共有せず、まずは陛下の指示を仰ぐよう伝えております」

「それでよい」


 出来ることなら救いたい、しかし楽観視できるはずもない。

 原因究明の時間が無いのならアヤトに代わり、国王としてレグリスが罪を背負う。

 居場所次第では精霊の咆哮の使用も辞さないつもりだが――


「今まで王国のために尽力してくれたあやつを……()()()()()()()()()()()


 いくらラタニの望みだろうと、レグリスにとっても苦渋の決断だった。




ラタニを探すためにレグリスの協力を得られましたが、レグリスはアヤトに知られないよう暴走したラタニを討伐する決断をしました。

アヤトもですがレグリスやマーレグが知るラタニの出生が、それぞれに酷な決断をさせています。

その出生については近々として、次回からいよいよラタニの過去に触れていく予定です。



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