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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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揺らぐ一閃

アクセスありがとうございます!



『アアアア――――ッ』


「クソが――っ」


 ノア=スフィネの精霊石から発生した黒い霧によって変貌したラタニとアヤトの戦いが始まった。


『ガァァァ――ッ』


「ぎゃーぎゃーうるせぇ! トカゲの真似事でもしてんのかっ」


 ノア=スフィネのように黒弾を周囲に放つラタニの咆哮に舌打ちしつつアヤトは地上を駆けながら一つ一つ躱していく。

 無数の黒弾が一斉に放たれようと攻撃は単調、擬神化の速度を捕らえるのはまず不可能。


 しかし理性を失おうと相手はラタニだ。


『フゥ――ア』


「ち……っ」


 突如黒弾に紛れて放たれた黒い雷を察知したアヤトは方向転換で回避する。


「たく……面倒なっ」


 同時に黒弾も躱しながら月守も抜刀、狙い澄ましたように襲いかかる黒い風刃の追撃を朧月と二刀で切り裂き更に速度を上げた。


「お前があんなトカゲ野郎と同じなわけもねぇか」


 安全圏まで逃げ切ったアヤトはラタニを見据えて肩を竦めた。


「本当に面倒なバケモノになっちまったな……ラタニ」


 朧月と月守を構えながら呟くアヤトにやはりラタニからなんの反応もなかった。



 ◇



『アアア――ッ』


「実にうぜぇ」



「なぜ……こんな」



 突如始まったラタニとアヤトの戦いをミューズは悲痛な思いで見守っていた。

 遊びと称した模擬戦を二人が何度も行っているのは知っているし、実際に観戦したこともある。

 あの時も両者とも命懸けの攻防を繰り返すので冷や冷やしたが、絶えず軽口を交わしあう様子に微笑ましくもあった。

 しかし今はただただ胸が締め付けられる。

 ラタニが自我を失い暴走状態が故に、言葉に耳を傾けず一方的に責め立てているのもある。

 ただそれ以上にアヤトの態度だ。

 普段は心内を悟られないよう感情をコントロールしているのに、今は遠目からでも痛々しい覚悟が伝わる。

 その覚悟が恐ろしい結末を想像させてしまう。


「どうなってやがるんだ……」


 もちろんツクヨも同じ気持ちだ。

 いつも愛情を持ってアヤトをからかい、大切にしているラタニが自我を失い本気でアヤトを殺そうとしている。

 そして悪態をつきながらも唯一無二の信頼を向けているアヤトが悲痛な覚悟で、殺してでもラタニを止めようとしている。

 確かに今のラタニは危うい。このまま放置すればノア=スフィネに変わって王国を滅ぼしかねない存在だ。

 しかし原因不明の暴走でも、助ける方法を模索せず安易な方法を選んだアヤトに違和感がある。唯一無二の存在だからこそ足掻こうとするはずなのに、なぜこんな道を選んでしまったのか。

 戦う前の様子といい、今のアヤトは冷静さを欠いている。

 ただミューズとは違う複雑な思いがツクヨにはあった。

 精霊力を放出する黒弾や精霊術を駆使して攻撃を仕掛けるラタニに対し、アヤトは朧月や月守を振るいながら回避一辺倒。擬神化の速度や類い稀なる戦闘センスのお陰で危なげない立ち回りが続いているが、攻めあぐねている。

 今までも精霊術のような遠距離攻撃は速度を活かして不利な状況を覆してきた。

 だが空中に居るラタニに対して攻める手段がない。

 精霊力が無いので飛ばすことも出来ない、投げナイフ以外の攻撃手段がないアドバンテージが浮き彫りになっている。

 もし自分が理想とする刀が完成していれば、このアドバンテージも覆せるというもどかしさ。

 しかしその刀をアヤトが手にしていれば本当にラタニを殺めるかもしれない。


「……どっちが良かったんだろうな」


 アヤトとラタニ、どちらの身も案じるからこそツクヨは複雑な気持ちで見守っている中、一方的と思われた戦況がついに動いた。



 ◇



(このままではジリ貧か)


 黒弾をまき散らしつつ、精霊術で追い詰められながらもアヤトは冷静に状況を把握していた。

 自我を失っているからか、いつもよりいやらしいさがない単調な攻めなら回避し続けるのは難しくない。

 ただツクヨが懸念しているように空中にい続けるラタニに仕掛ける手段がない。ラタニに届くほどの白夜を抜く余裕もさすがにない。

 加えていつ尽きるか予想できない精霊力に対し、こちらの体力は確実に削られる。

 単調と言えどこれだけ激しい攻めを続けられては集中力も途切れてしまう。

 故に圧倒的不利な戦況、しかしラタニが精霊術を使い始めたことで仕掛けることも出来る。

 その為に必要なタイミングも読み切った。


「やるしかねぇだろ……っ」


 後は実行するだけなのに、いつまでも踏ん切りがつかない自分を叱咤するようアヤトは吐き捨てた。

 このままラタニを放置すれば悲惨な結末が待っているのなら。

 約束を交わしてから、最悪な結末を回避する方法を見つけられなかった自分の愚かさが今の状況を作ってしまったのなら。

 せめてラタニの望みだけでも叶えてやりたいと、アヤトは集中力を高めて反撃の機会を窺い――


『アア……アアアアア――――ッ』


「ラタニ――ッ」


 精霊術による空気の歪みを察知した瞬間アヤトは跳躍。

 ノア=スフィネ戦の共闘と同じ要領で周辺に生まれた空気の圧を足場に、迫る黒弾を回避しながら空中にいるラタニとの距離を一気に詰めた。


「……恨んでくれて構わんぞ」


 瞬時に間合いに入り、後はすれ違いざまに朧月を振るえば終わる。

 そう覚悟を固めるよう柄を握りしめたはずなのに。


『ァ――――ッ』


「な……っ」


 振るう瞬間、今まで全く反応を示さなかった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この反応がアヤトの覚悟と共に剣筋をも鈍らせた結果、朧月の一閃はラタニの右肩を切り裂くに留めてしまい絶好のチャンスを逃すことに留まらず。


『ヴゥ…………アアアアァァァァァ――――ッ』


 切り裂かれた痛みによる防衛本能か、周囲を覆うようラタニの精霊力が爆発的に膨れあがった。


「くそ……がぁ!」


 対するアヤトは強引に体を反転、迫り来る黒焔の精霊力を朧月と月守で切り裂くも精霊力の質量から完全に捌くことは出来ず。


 唯一の救いは跳躍の勢いで完全に黒焔の精霊力に飲み込まれずに済んだこと。


 しかし地面を抉る威力を秘める黒焔の精霊力に触れてしまったことで。


「アヤト!」

「アヤトさま!」


 黒焔の精霊力の収縮と共にボロボロの姿で落下していくアヤトを見つけるなり駆け出すツクヨとミューズを他所に。


 ラタニの姿は消えていた。



  

ツクヨの理想とする刀にも触れましたが、やはりメインはラタニVSアヤトですね。

不利な戦況でもノア=スフィネ戦で共闘を今度はラタニの精霊術を利用する形で覆しましたが、最後の最後で決意が鈍りました。

今までのアヤトに比べて感情的な面が今回の敗北に繋がったのですが、それは仕方がないかと思います。


とにかく前章の結果から、本格的に今章もスタート。

ラタニはどこに行ってしまったのか。

アヤトの安否なども含めて次回をお楽しみに!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

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読んでいただき、ありがとうございました!


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