悲惨な光景
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研究施設の精霊石を浄化後、カナリアの元へ向かう途中でマヤ伝手にミューズからノア=スフィネはラタニによって無事討伐されたと報告を受けた。
『――ですがトカゲさんの精霊石から発生した黒い霧に包まれたラタニさまが変貌したそうです』
しかし安堵する間もなくミューズの言伝を伝えられたロロベリアはその内容を理解できなかった。
『ミューズさまとツクヨさまは変貌したラタニさまを危険と判断し、逃げているそうですが……一つだけ言えるのならば、ラタニさまが懸念していた事態が訪れたのでしょう』
対するアヤトは静かに耳を傾けるのみ。
ただ背負ってもらっているので表情は見えないが、心なしか強張っているようで。
自分とは違い、理解したからこそ衝撃を受けているような反応をするアヤトにマヤは小首を傾げて問いかける。
『さて、兄様は本当に約束を果たすおつもりですか?』
ラタニの変貌、懸念していた事態、そして約束の意味。
困惑のまま質問するより先にアヤトはため息一つ。
『白いの、精霊力に余力はあるか』
体の強張りこそ取れたが有無も言わせない圧が声音から感じて開きかけた口が閉じてしまう。
『そんなもの聞くまでもないか。お前はカナリアに迎えに来てもらえ』
精霊石の浄化で精霊力に余力はないのは先ほど伝えているので返答するまでもなく、アヤトはロロベリアを下ろし擬神化を。
『……アヤト?』
『たく……どうするもこうするもねぇよ』
ようやく発した声で名を呼ぶも聞こえていないのか、肩を竦めるなりアヤトは姿を消した。
『カナリアさまにはわたくしから連絡をしておきます。それではロロベリアさま、大人しくしていてくださいね』
続いてマヤも姿を消して研究施設にはロロベリアのみ残された。
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「……隊長が?」
「はい……それでアヤトが向かったんですけど……」
数分後、カナリアに背負われたロロベリアは事情を説明していた。
勲章授与式に参加していたロロベリアがあのまま研究施設に残っていれば問題があると離れることにしたが、未だ状況が呑み込めず茫然としていて。
と言うのも言伝を聞いたアヤトの様子が明らかにおかしく、一見普段通りの対応をしていても明らかに余裕がなかった。
そもそもラタニの変貌や、マヤの言っていた約束とはなんなのか。
精霊力の消耗による脱力感とは関係ない胸を締め付けるような痛みが拭えない。
「今は隊長の身が心配です。ロロベリアさん、このまま隊長の元へ向かっても宜しいですか」
マヤに呼ばれたまま迎えに来たカナリアは更に衝撃を受けているのか、早く自身の目で確かめたいと独断専行を決意。
「むしろ私からもお願いします」
「ではしっかり捕まってください――」
了承を得るなりカナリアは速度を上げた。
幸か不幸かノア=スフィネの出現による混乱がまだ続いているお陰で難なく王都を出る。
「カナリアさまはなにか聞いてますか」
ラタニとノア=スフィネは海の方へ向かったとの目撃情報を頼りに疾走する中、改めてロロベリアが確認するのは約束について。
自分よりも二人とは付き合いも長く、共同生活をしている際も頻繁に足を運んでいたカナリアなら知っているかもしれない。
「なにも……そもそも私はなぜ職員の方々があのような場所に倒れていたのか、王城に居たロロベリアさんがあの場所に居たのかすら知らされてませんから」
「……すみません」
……よくよく考えればカナリアはアヤトやマヤの秘密は知れど、ロロベリアの精霊力や精霊石の浄化についてなにも聞かされていない状況。
にも関わらずロロベリアの呼び出しを受けて治療役として施設近くまで来てくれた面倒見の良さには頭が下がる思いで、今さらながら申し訳ないと謝罪する。
「謝らなくても結構です。変わりに私にも事情を話してもらえますか」
ここまで巻き込んでしまったなら秘密にする必要も無いと、ロロベリアはあの場に居た経緯を打ち明けた。
ただミューズの特異性については伏せことに。到着すればミューズも居る、どのみち話すことになるとしてもやはり本人の意思で話すべきで、伏せたままでも状況は把握できると判断。
故に自身の精霊力やノア=スフィネの精霊石を使った実験について。その結果から二次災害を懸念したサクラから施設に残された精霊石を浄化するよう指示を受け、アヤトに迎えに来てもらったことを簡潔に説明した。
「……ロロベリアさんの精霊力にそのような力があったのですね」
「はい……なので来てくれて助かりました」
やはり驚かれるも精霊力が消費している理由も含めて理解してもらい、改めてロロベリアは感謝を告げる。
「サクラさまに浄化を終えた報告は?」
「まだです……。終わってすぐマヤちゃんが報告に来たので」
「ならせめてサクラさまには報告するべきかと」
「……ですね」
そして状況を把握したからこそ冷静な指示を出すカナリアに言われるままロロベリアはブローチを手にマヤへ連絡を試みるも――
ドォ――ッ
「「…………っ」」
突如空が輝きを帯び、続けて響き渡る轟音にカナリアは足を止めた。
「今のは……?」
「とにかく急ぎましょうっ」
方角からしてラタニが向かった場所、茫然とするロロベリアを他所に胸騒ぎのままカナリアは再び疾走。
「これ……は……」
海岸に近づくにつれて抉れた地面が増えていく惨状に戸惑い、更に走れば一際深いクレーターが見えた。
直径で一〇〇メルはありそうなクレーターは恐らく先ほどの轟音によって出来たもの。ただノア=スフィネ討伐後に何故このような事態が起きるのか。
考えられるのは変貌したラタニと先に向かったアヤトが争った結果で――
「隊長は……? アヤトさんはどこにっ?」
「アヤト! お姉ちゃん!」
「――その声はカナリアさんか!」
とにかく二人の安否を確認するべく名を呼ぶ二人に反応する声が。
何とか精霊力を解放して確認すればクレーターの向こう側からツクヨが手を振っていた。
「アヤトはどこにいるんですか! お姉ちゃんは無事なの!?」
「白いのちゃんも居るのか……いや、それよりも手を貸してくれ!」
「なにがあったんですか!?」
「いいから来てくれ! アヤトがやべーんだ!」
「アヤトが……っ?」
「行きましょう!」
ツクヨの言葉に絶句するロロベリアを他所にカナリアは即座に反応。回り道をするのももどかしいとそのままクレーターを突っ切り対岸へ。
しかしそこにラタニの姿はなく――
「お願いです……アヤトさま、目を覚ましてください……っ」
ミューズが涙を零しながら全身血塗れのアヤトに治療術を施す悲惨な光景が広がっていた。
まずは前章でアヤトと別行動をしていたロロサイドの様子でした。
マヤさんの曖昧な報告からアヤトは察しましたが、ロロからすれば意味不明ですね。ただロロが感じたように察したからこそアヤトも余裕を無くしたのかもしれません。
そして面倒見の良いカナリアさんのお陰でロロもアヤトの後を追うことが出来ましたが、待っていたのはボロボロになったアヤトというまさに悲惨な光景。
そして次回は前章ラスト後、つまりツクヨやミューズが目撃したラタニVSアヤトの結末までを予定しています。
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