序章 後悔の日
新章開幕!
アクセスありがとうございます!
四年前――
旅立ちの条件として行われた模擬戦を一勝一敗という結果で終えたラタニとアヤトは夕食後に二人だけの時間を設けた。
まあ姿を消してもマヤには聞かれているが、二年続いた共同生活の中でゆっくりとお茶を飲みながら語らうこともなかった。
故にどちらかが提案したわけでもなく、自然とそんな時間を過ごすことに。
ただ旅立ちを前にラタニは話しておきたい秘密があった。
それは国王と宰相しか知らないラタニの出生や罪について。
しかし現状を見据えて仕方なく暴露した二人とは違って、アヤトには自らの意思で話すと決めた。
それこそ国王や宰相には話していない恥ずかしくなるような約束や、正直な気持ちも含めて。
「そんなわけであたしも色んな経験して今の立場になったわけさね」
最初から飄々とした態度で語り終えたラタニは喉を潤す為にお茶を一口。
後半はともかく出生に纏わる内容は悲惨で大凡信じがたいもの。現に国王や宰相は困惑と恐怖が交じり合った視線をラタニに向けていた。
にも関わらずアヤトは最後まで顔色一つ変えることなく、むしろ無関心な態度で聞いてくれた。自分に興味が無い、ではなく『だからどうした』という反応こそラタニが求めていたも。
アヤトとは似て非なるクソッたれな被験者としての立場が故に特に思うところがないのかもしれない。
それでも自分が本物のバケモノだと知っても尚、変わらないからこそアヤトに話したかったのだ。
「だから思うんよ。幸せってのはお金とか、地位とかよりも人との繋がりじゃまいかってねん。ま……あたしとしては惚れた男と何気ない時間を共有する、ってところか」
お陰で未練がましい感情や、弱さも正直に吐露しながらもラタニはケラケラと笑えた。
「公園のベンチで茶でも飲みながら『今日は良い天気だ』って、特に意味もない話して過ごすとか最高だと思わんかい?」
「静かな場所でノンビリと過ごすのは嫌いじゃないが、誰かと無意味な時間を共有するなんざ面倒でしかねぇよ」
「だろうねん。ガキのアヤチンにはまだわからんか」
「アヤチンはやめろ」
「ま、バケモノのあたしには端から無謀な望みだったってことだねん」
「お前がバケモノなんざ今さらだ」
「違いない。でもまあ? 今はそれなりに満足してるよ」
「それはよかったな」
だからこそ皮肉げな笑みを返されても心地いい。
同情も偏見もなく、バケモノと知っても躊躇わずバケモノと口にしてくれる。
目の前にいる自分をただのラタニ=アーメリとして扱ってくれる。
マヤが興味を示したように、アヤトの価値観は面白くて希少だ。
秘密を打ち明けたことで改めて実感したからこそ魔が差したのかもしれない。
義理堅いアヤトのことだ。約束は守るし、カリを作れば必ず返してくれる。
必要ないと拒んでも引き取ってから掛かった生活費などを返すと約束してくれたなら、旅に出ても必ず帰ってくるだろう。
また自分を越えると豪語している以上、越えるまでは固執してくれるだろう。
ただもし返済を終えれば、もし越えてしまえば固執する理由はなくなる。
もちろんこの二年で良い関係を築けているとは感じている。
何だかんだ憎まれ口を叩こうと、自分が弟のように愛しているように、アヤトも姉のように慕ってくれているとも感じている。
だから無理に繋がりを探す必要も、求める必要もない。
「なあ……アヤト」
分かっているのにラタニは不安に駆られるまま最悪の繋がりを求めてしまった。
「もしあたしが本物のバケモノになったら、大切なもんに手を掛ける前に殺してくれ」
今でこそ制御しているが衰えれば暴走するかもしれない。
そもそも自分ですら不明な力だ、何かの拍子で制御できなくなるかもしれない。
そうなれば両親を含め多くの命を奪ったように、再び多くの命を奪うバケモノと化すだろう。
出生を知ってから常に抱く恐怖を和らげる為に。
更にアヤトを繋ぎ止める為に。
「多分、あんた以外には不可能だからね。つっても不意打ちでやっと一勝しかできん今のあんたには無理だけど」
「かもな」
まさに自分勝手で最低最悪な望みを茶化しながら求めるラタニを他所に、アヤトは苦笑交じりにお茶を一口飲む。
「俺はお前を越える。必ずな」
そして気負いもなく前置きした上で約束してくれた。
「カリは返す。そういうことだ」
「頼んだよ」
これで少なくとも最期の瞬間までアヤトは共に居てくれると、その時こそラタニは安堵するも。
いくら不安に駆られたとは言え、大切な弟の人生を歪めるような約束を背負わせたと後悔に嘖まれることになる。
時系列的にはアヤトが旅立つ前夜の内容です。
今までも二人が交わした約束には触れましたが、いつかラタニが暴走する可能性や夢などをこの日にアヤトへ伝えていました。
そして自身の秘密や罪を知っても変わらず接してくれるアヤトがラタニにとって心地良い存在でもあったんでしょうね。なのでアヤトを繋ぎ止めるために最悪な約束を持ちかけてしまったラタニは後悔することになりますが、危惧していた事態がついに訪れました。
アヤトがどんな気持ちでラタニとの約束を果たそうとしているのか。
また秘密主義が故にこれまでほとんど語られなかったアヤトの心情や真意が今章ではちょいちょい明かされていくのでそちらもお楽しみください。
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!