ホロアの嘘
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ホロアとの共同生活を始めて四日――
「どうしてダメなのよ!」
朝食中、ミライは怒っていた。
理由は外出をしたいと頼んだのをホロアに断られたのだ。
なんせ動けるようになってからは掃除を中心に家事業務ばかりで住居から出ていない。たまには気分転換で散歩くらいさせても良いはず。
「治療費や滞在費を踏み倒されたくないからさ」
にも関わらずホロアは悪態交じりの反論を。
確かに意識を失っているところを助けてくれたホロアは一方的に条件を突きつけて強制労働をさせている側、そのような可能性から目の届く所にミライを留まらせたいだろう。
ただ今の反論が嘘なのはホロアの精霊力で判断できるだけに納得がいかない。
「アタシが逃げると言ってるの? バカにしないでよ!」
……いかないのだが売り言葉に買い言葉か。苛立ちを露わに立ち上がりミライは反論で返すもホロアはどこ吹く風で、無視して食事を済ませるなり立ち上がった。
「うるさいがきんちょだねぇ……いいから黙って洗い物、終わったら掃除をやりな。わたしは忙しいんだよ」
「ぐぬぬ……ふん!」
そのまま開業準備のため一階に降りるホロアに顔を赤くしながらも見送ったミライは残っていた料理をかき込み、言われた通り自分とホロアの食器を洗い始める。
一方的な条件でも受け入れると決めたのは自分。ホロアには恩義があり、根は優しい人間だと知っているからだ。
「誰ががきんちょよ。アタシにはミライって名前があるのに……あの人間、ほんとむかつくわね」
ただ知っていようと愚痴は止まらず、洗い物を終えて掃除を始めても苛立ちは増すばかり。
ホロアが外出させないのが病み上がりの自分を思った医師の判断、というのはないだろう。でなければ家事のような重労働をさせるはずがない。
また先ほどの悪態交じりの理由は嘘なのも察している。なら別の理由からホロアは自分を外出させない何かがあるわけで。
「もしかしてアタシに見られたくないものでもあるんじゃないかしら……というか、今日は来ないわね」
もやもやを抱きながらも掃除を済ませたミライは掃除道具を片付けつつ首を傾げる。今までは終わるタイミングを見計らったように二階に来ては難癖をつけてやり直しを言い渡すホロアが来る気配がない。
まあ今までが偶然に過ぎず、掃除に慣れて早く終えただけかもしれないとミライは報告をしに一階へ向かった。
『――あの娘は本当に無関係なんだろうね』
「……ん?」
だが階段を降り、診療所に続くドアに手を伸ばしたところで男の声が耳に入りミライは立ち止まる。
男の声にはホロアに詰め寄っているような焦燥を感じられたのだ。
『ホロアさんが騙されているんじゃいかって、みんな心配してるんだよ』
『騙されているだって? なんの話だい』
『なんの話って……ホロアさんも知ってるだろう。あなたが連れ帰ってきた娘のことだ』
(……もしかしてアタシのこと?)
対するホロアはどこ吹く風、しかし男の意見から、問題視されているのは自分だと知ったミライは静かに耳を傾ける。
話の流れからして男は町の長らしく、ホロアの身を案じてい説得に来たらしい。
というのもダラードの一件でミライは指名手配をされてしまい、この町にも捜索隊が来ていた。
その後、指名手配の少女と同じ特徴をしたミライをホロアが町に連れてきたことで住民も不安がり、長として一度確認させて欲しいというのも当然で。
『だから何度も言ってるだろう。他人のそら似だよ』
『似ているのならちゃんと素性を確認するべきだ。もう意識を取り戻しているんだろう』
『そもそもあの娘からは精霊力が感じられないよ。それとも持たぬ者が精霊術を使えるのかい?』
『……聞いた話だとエレノアさま方を襲った精霊術士は、持たぬ者と勘違いするまで精霊力を制御できるらしいじゃないか』
『そんなもの知ってるよ。でもね、じゃあお前は普段から精霊力を制御して生活しているのかい、と聞いて素直に答えるとでも思ってるのかい?』
『それは……』
故に食い下がる男もホロアは皮肉交じりの反論。
しかし精霊力を確認しなくともミライにはホロアが嘘を吐いていると分かる。
確かに普段から精霊力を感じられないよう抑えているが、意識を失っている間は別。現に自分が眠っているところを攫った男も精霊力を秘めていると分かり、用心のために封じる枷を着けたのだ。
つまり看病をしてくれたホロアは少なくともミライが精霊力を秘めていると気づいているはず。外出をさせないのも男のように指名手配の人物だと疑っている者に会わせないようしてくれているのか。
『――ホロアさんが情を抱くのも分かるが、みんなを安心するために一度話をさせてくれ』
『わたしのなにが分かるんだい』
『……あ』
『まあいいよ……たく。とにかく、あの娘は酷いめにあったようだからね、今は心身共に休ませてあげないとダメなんだよ』
困惑する間も二人のやり取りは続くも、やはりホロアは嘘を吐く。静養が必要なら家事仕事などさせるはずがない。
『だからわたしがそれとなく聞いておくよ。それでいいだろう』
『……お願いします』
それでも男は医師の判断ならと渋々ながらも引き下がり、一方的に話を纏めたホロアに気づかれないようミライは二階へ戻った。
何故ホロアが嘘を吐いてまで庇うようなことをしているのかミライには予想も付かない。
「そろそろまともに掃除をしたらどうだい? がきんちょ」
「……だから、アタシにはミライって名前があるのよ」
ただ精霊力の輝きとは関係なく、悪態を吐くホロアの印象がミライの中で大きく変わっていた。
オマケラストはあの子、ミライとホロアさんの様子でした。
自分の置かれている状況やホロアさんが庇っていると知ったミライは困惑しながらも、少しずつうち解けているようですね。
なぜホロアさんが嘘を吐いてまでミライを庇っているのか。そもそもミライの正体は……についてはもちろん後ほどとして、これにてオマケも終了となります。
つまり次回更新から新章開始。
オマケ前の後書きで告知したように次章はラタニ編の後編、彼女の秘密が全て明かされます。
また第四部のラストを飾る第十六章『いびつな絆を優しい未来に編』をお楽しみに!
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