平穏な帰郷
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霊獣地帯から五千の霊獣があふれ出し、精霊種まで現れた王国危機から翌日。
アヤトとロロベリアを追って王都に向かったミューズとフロッツは道中の村で一泊した際、ダラードの状況を知り一先ずダラードに向かうことにした。
現在ダラードには遠征訓練でマイレーヌ学院の学院生が滞在しているが、昨日の出来事を知ってみんなの安否が気になり帰国途中で立ち寄ったとすればいい。
またそこにアヤトとロロベリアが居るかは不明でも、ラタニから何か聞けないかとの希望込みで朝早くに出発した。
「奇遇だな」
「……どうも」
「…………」
――のだが、出発して間もなくアヤトとロロベリアとばったり。
街道を使わず最短ルートで向かっているのに奇遇も何もない。それはとても気まずげなロロベリアの表情で察するだけにフロッツが訝しむのは無理もない。
「アヤトさま、ロロベリアさん……会えて良かったです」
対するミューズは安堵の表情で歓迎。まあ元より二人と合流するのが目的なのですれ違わずに済んだのは良かったと言えるだろう。
「奇遇なわけないだろ!」
しかしそれはそれとフロッツはツッコミを入れたのは言うまでもなく。
「だいたいなにも知らされず別行動した俺たちが街道外れの何にもない場所で会えるってどんな確率だよ? ていうかロロちゃんの『本当にいいのかなぁ……』みたいなめっちゃ気まずそうな顔で俺たちの居場所が分かってそっちから来たのが見え見えなんだよ! そもそもアヤトくんはどうしてダラードの状況や俺たちの居場所が分かるんだ? もっと言えばラタニ殿と一緒に精霊種を討伐しただろ? キミの服はボロボロだしなにより精霊種を討伐したラタニ殿の精霊術が白銀の雷光だったらしいし、それってよく分からん白銀の変化が関係してるってそっちも見え見えなんだよ!」
「うるせぇ……なんの話だ」
続く怒濤の意見をアヤトは煩わしげに一蹴。
「つーか俺たちの荷物はどうした」
「わたしがフロッツさんにお願いして王都に向かうことになったので、荷物はレムアさんに任せています」
「つまりレムアとは別行動か」
「海路を利用するので明日には港で合流する予定です……勝手な判断をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「謝罪は必要ねぇよ。なら明日まで適当に時間を潰すか」
「うん……わかってたわかってた」
更にミューズと情報交換を始めてしまいフロッツは脱力。
まあ視線がウロウロしているロロベリアを追求すれば口を滑らせそうだが、元よりまともな返答など期待はしていないので早々に切り替えた。
「レムアさん抜きで王都に戻るわけにもいかないからな。特にアヤトくんやロロちゃんは人目を避けた方が良いみたいだし」
「そういうことだ」
嫌味交じりの肯定にアヤトはしれっと返答するのはさておいて。
レムアと別行動しての帰国を身内に知られれば面倒になるのはミューズも同じ、故にミューズやロロベリアの顔が余り知られていない場所が望ましいわけで。
なら先ほど出発した村で過ごすのが得策とフロッツが提案する前に――
「アヤトさま、もし時間に余裕があるのならわたしは行ってみたい場所があるのですが」
この手の話し合いでは聞き役に回りやすいミューズが一番に提案してきた。
◇
ミューズの提案はアヤトの生まれ故郷、ルルベルに行くことだった。
両親のお墓が公国に移される前にお墓参りをしたいと希望、この提案にロロベリアも同意したのは言うまでもない。
そして時間を潰せるならとアヤトも了承。もちろんフロッツも二人の希望を無下にするつもりはなく四人はルルベルに向かった。
「くっそ……なにが半日ほどだよ」
からのルルベルに到着したフロッツは簡単に同意したのを後悔していた。
なんせルルベルの場所は半日あれば行ける距離だと聞いたが、馬車ではなくアヤト基準の半日。
それでも夕刻前に到着したのは重さをなくす精霊器とフロッツの飛翔術を駆使した結果。アヤトもペースを合わせてくれたが一番負担を強いられてしまった。
「ありがとうございます、フロッツさん」
「助かりました」
「可愛い子の為なら例え火の中水の中ってね。お礼なんて良いって」
ただそこはフロッツ。二人の感謝に手のひら返しで表情を緩めるがそれはさておき。
「にしてもノンビリとした所だねぇ」
ルルベルの印象にフロッツは苦笑い。
教国との行き来に滞在するには最適な位置ではあるが、これと言った名所もないだけに他の言葉が思いつかなかった。
「そういやアヤトくんはちょくちょく来てたみたいだけど、昔の知り合いとかと話したりするのか」
「ねぇよ」
「即答か……。ま、キミの方から話しかけるイメージはないけど、向こうからはあったりするんじゃね?」
「それもねぇよ」
「……キミは昔からボッチなのかな?」
聞いた話だとアヤトはルルベルに八年以上暮らしている。両親の死後、数年は離れていたが黒髪黒目という特徴から町民も気づくはず。
にも関わらず声を掛ける者が一人も居ないのは今と同じように周囲を避けていたと勘繰っても仕方がない。
「どうだろうな」
「まともに話す気が無いのか面倒なのか……」
何気に興味津々と耳を傾けるロロベリアやミューズを他所にアヤトは適当な返答。これにはフロッツも呆れて肩を落とすも――
「もしかして……本当にアヤトちゃんなの?」
「あん?」
共同墓地から向かってくる女性に名を呼ばれたアヤトは訝しむも、その女性は及び腰ながらもゆっくりと歩み寄ってくる。
「覚えてない? 昔よくうちの子と遊んでくれて……宿屋を経営している……」
「お姉さんはもしかしなくてもアヤトくんをご存じですか?」
「ええ……アースラさんにはよくしてもらってたから……あの……」
アヤトの反応が薄いことで徐々に自信をなくす女性にフロッツが間に入れば戸惑いながらも決定的な返答が。
「失礼、俺はフロッツと言いましてアヤトくんの保護者みたいな者です」
「アヤトちゃんの保護者……ですか?」
「一時的なものですけど。それよりもアヤトくんは覚えてないのかな?」
「……リーリアの母親だろう」
「やっぱりアヤトちゃんだったのね!」
続くやり取りで何故か観念したようにアヤトが答えれば女性は安堵の表情を浮かべて再会を喜ぶ。
「「…………(もやもや)」」
ちなみにアヤトの口から女性の名が出たことでロロベリアとミューズが内心もやもやしていたがそれはさておき。
「以前からアヤトちゃんかなって思ってたけど……元気そうで良かったわ」
「気づいていたならどうして今まで声を掛けなかったんですか?」
「その……私の知るアヤトちゃんとあまりにも雰囲気が違うから……でもアヤトって呼ばれてたから」
「……なるほどね」
女性の言い分にフロッツも納得。
要は黒髪黒目の特徴が一致してもアヤトの様変わりした雰囲気から今まで誰も声を掛けなかっただけ。しかし同じ特徴で同じ名前ならとこの女性は思い切って声を掛けたわけで。
「主人やリーリアもアヤトちゃんのこと心配してたの。そうだ、もしルルベルに滞在するなら家に来ない? 歓迎するわよ」
「悪いが父と母に挨拶を終えたら急ぎ帰る予定だ。故に気持ちだけ受け取っておく」
「そ、そうなの……?」
「すまんな。二人にはよろしくと伝えてくれ」
ただ女性のお誘いに断りを入れ、一礼するなりアヤトは先へと向かってしまう。
「え? アヤト……?」
「あの……失礼します」
「なんか済みません……」
遅れてロロベリアとミューズ、居たたまれない気持ちになったフロッツも謝罪を入れて後を追った。
「いいのかよ」
「なにがだ」
「昔お世話になった人だろ? 少しくらいお邪魔してもいいと思うぞ」
「貴族家のご令嬢やご子息と一緒に居ると知られれば目立つだろう。特に白いのは見バレしやすいからな」
「……それもそうだな」
アヤトの言い分はもっともとフロッツも理解を示す。
身分を伏せたところで黒髪黒目以上に珍しい乳白色の髪をしているロロベリアはマイレーヌ学院の序列一位として国外にまで名が広まりつつある。加えてミューズも国内ではそこそこの有名人、長居すればボロが出る可能性があった。
なにより経歴が複雑そうなアヤトも昔馴染みに色々と質問されても答えに困るだろう。まあアヤトならさあなで済ませそうだが、場の空気が悪くなるのは予想できるだけにフロッツも勘弁願いたい。
「ならお墓参りを済ませて早々に移動しますか。確か道中にも町はあったし、そこで一泊かな」
故に先ほどの女性が他の町民にアヤトの話をする前にルルベルを離れ、一泊する町ではロロベリアには髪を隠してもらおうとフロッツは提案。
「ところでアヤト、リーリアさんって誰?」
「わたしも気になります……」
「あん?」
……する前に方針が決まるなりロロベリアとミューズが即座に質問を。
「誰もなにもさっきほど言った通りだ」
「昔良く遊んでた可愛い女の子でしょう?」
「どのような関係だったのでしょうか……」
「だから、それなりに交流があった幼なじみのようなものだ」
「ふーん……幼なじみね(もやもや)」
「そうですか……幼なじみですか(もやもや)」
面倒げにしながらも答えてくれたが、端的過ぎる内容に二人は納得するどころかもやもやを増していくばかりで。
「たく……なんなんだ」
「なんなんだろうねぇ」
二人の気持ちを全く酌み取れないアヤトに呆れつつ、後ほど詳しく聞き出して安心させようとフロッツは笑った。
オマケその一は以前の後書きで予告していたお墓参りに一コマでした。
本編がシリアス展開の中、こちらは逆に平穏な時間でしたね……まあ、ロロやミューズにとっては平穏ではない情報もありましたが。
ちなみに言うまでもありませんが、リーリアさんと幼少期のアヤトくんは幼なじみですが、二人がもやもやするような感情を共に抱いていないのであしからず。
むしろ今のアヤトくんと会ったらリーリアさんどん引きするかもですね(笑)。
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