終章 悲痛の激突
アクセスありがとうございます!
ノア=スフィネの精霊石から発生した黒い靄によるラタニの変貌。
原因の黒い靄を視認できなくても直感のままツクヨはその場から逃げ出し、アヤトに報告を判断。
視認していたミューズも賛成して即座にマヤへ連絡を取った。
「マヤさんから了承を得られましたが……」
「問題はアヤトがどれくらいで来られるかだな」
一方的に捲し立てた後、マヤからは伝えると返答はあったものの考えてみればアヤトは現在もう一欠片の精霊石を浄化しているロロベリアを護衛中。終わり次第合流するにしてもいつになるか分からない。
またアヤトが合流した所でこの状況をどう対処するのか。いくらアヤトでも精霊力に関しては専門外、不測の事態で頼れる存在が故に真っ先に連絡したが解決策は不透明のまま。
もちろん不測の事態だからこそ連絡した判断は間違っていない。ただそれとは別に二人にとって予想外なことが。
「つーか、ラタニさんになにが起きてんだ」
「……わかりません」
危険と判断して逃げたものの、未だラタニは浮遊したままピクリともしない。
それが逆に不気味ではあるもお陰で距離を空けて様子を窺えているわけで。
マヤに連絡する際、ミューズが声に出して状況説明をしていたのでツクヨもラタニの変貌の経緯を知ることが出来た。
破壊された精霊石から発生した黒い靄が黒い精霊力とすれば、ラタニの変貌はその精霊力によって起きたもの。しかし前回は起きなかった精霊石の変化や、黒い靄はなぜ自分やミューズではなくラタニを襲ったのか。
距離の近い精霊力持ちに反応したのか。
ノア=スフィネ戦の際にラタニの体内でミューズが視認した黒い精霊力が関係しているのか。
アヤトが到着するまでに少しでも情報を集めようと二人はラタニの精霊力を視認していた。
「……ん?」
「どうしました、ツクヨさん」
「いや……気のせいか、いま黒い精霊力に混じって翠色の精霊力が視えたんだよ」
「では今のお姉さまは二種の精霊力を保有していると?」
「アタシの見間違えじゃなけりゃな」
そんな中で黒焔やラタニの頭部付近でツクヨは翠の揺らぎを視認。つまりラタニが本来保有している精霊力も残っているのだが、色の判別が出来ないミューズが確認しても黒い精霊力しか視認できない。
『ア……アア…………』
「「――っ」」
改めて確認するべくツクヨは更に集中するも、ラタニの頭がカクンと頷くなり精霊力が急激に高まり始める。
『アア…………アアアアァァァァァァ――――ッ』
そしてラタニが咆哮を挙げるなり体に纏う黒焔の精霊力が広大。
黒焔に触れた地面は抉れ、更に広がっていく。
「クソが……っ」
「うぅ……」
あの精霊力を浴びればどうなるかは火を見るよりも明らか。しかしツクヨとミューズはあまりの圧に思うように体が動かせない。
その間にも黒焔の広大は衰えず二人は窮地に立たされていたが――
「――間に合ったか」
気怠げな声と共に二人は浮遊感に襲われ、そのまま黒焔から離れいく。
「無事か」
「助かったぜ……!」
「アヤトさま……ありがとうございます」
言うまでもなくアヤトが合流したと二人は安堵。
「つーかお前にも視えてんのか」
「黒い奴ならな……と」
どうやら精霊力の有無関係なく黒焔は視認できるらしく、広大が収縮するなりアヤトは立ち止まり二人を下ろした。
「ここで大人しくしていろ」
「なにか策でもあるのか」
「ねぇよ」
「ねぇって……お前なぁ」
そのまま背を向けるアヤトに問いかけるも適当な返答にツクヨは脱力。
まあ普段らしさが逆に頼もしさも感じるだけに止めるつもりはない。
「なんにせよ……俺のやることは変わらねぇよ」
「あん……?」
「アヤトさま……?」
ただ続く返答にツクヨだけでなくミューズも違和感を抱く。
いつもは憎らしい程に冷静なアヤトの声音に寂しげな含みを感じたからで。
二人の違和感を他所にアヤトは一足飛びでラタニの元へ。
焔黒の影響で抉れた地面に着地すると面倒げに顔を上げた。
「ようラタニ」
『――――』
「お前に見下ろされるというのも不快だな」
『――――』
「つーかその髪や目は俺の真似でもしてんのか」
『――――』
「似合わねぇんだよ……たく」
苦笑交じりの軽口にも反応せず、感情を失った漆黒の双眸で見下ろすラタニにアヤトは切り替えるよう朧月に手を添えため息一つ。
「なにがあったのかは知らんが約束だ」
『――――ゥ』
朧月を抜きつつ黒髪が右前髪一房を残し、同じく闇のような黒い瞳の左側が煌めきを帯びた白銀に変化するのにあわせてラタニが僅かばかりに反応を見せる。
擬神化による神気を感じ取ったのか。
臨戦態勢をとったことで警戒したのか。
どちらにせよやるべきことは変わらない。
「テメェが誰かを傷つける前に……殺してやるよ」
もし自分が本物のバケモノになったら殺して欲しい。
それがラタニと交わした約束なら不服でも守るのみと。
『アアアア――――ッ』
「クソが――っ」
襲い来るラタニに苛立ちを露わにアヤトは跳躍した。
ここで? と思われるかも知れませんが、これにて第十五章も終了となります。
今まで何度も軽口を叩き合い、遊びとして衝突していたラタニと悲痛な想いを胸にアヤトは衝突することになりました。
二人の衝突の行方、またラタニの変貌理由、アレクとの関係も含めた過去、アヤトと交わした約束等々、ラタニの秘密はラタニ編の後編となる第十六章で全て明かされます。
……ですが、その前にお約束のオマケを挟みます。
第十五章で触れなかったあんなことや、次章に繋がるこんなことなどを描くオマケもお楽しみに!
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!