注目の初陣
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観覧席から痛いほどの注目を向けられても、アヤトとリースは完全無視で闘技場の中央へ。
「初戦であなたと戦えるとは精霊の導きでしょうか」
立ち止まるなり相手側の精霊術士、チェルシーがアヤトに言葉を投げかけた。
「……なにかした?」
ただ笑顔なのに敵意むき出しな物言いに首を傾げるリースにアヤトは嘆息。
「何もしてねぇよ。むしろわざわざ心配してくれた慈悲深い精霊術士さまだ」
「……納得」
つまり登録時に揉めた相手らしく、この敵意も理解。
同時に精霊の導きではなく死神だろうと思うも、どうでもいいと首を振る。
その間も審判役の講師がルール説明と健闘を称えられ、両ペアは二〇メルの距離を取る。
「リス、どっちと遊ぶ」
「どっちが強いの?」
「強いて言えば精霊術士さまか。ま、強いといってもせいぜい俺のありがたい訓練を受ける前のリスと対して変わらんが」
「……ならそっちで」
憎まれ口にもある意味馴れてきたリースは無駄口なく返答を。
アヤトの相手の力量を読む能力は間違いない。
ならば自分がどれほど成長したかを知るには良い相手だ。
そして闘技場内が静まり返る中――
『試合開始!』
ついに開始宣言が闘技場に響き渡った。
◇
開始と同時にチェルシーは精霊力を解放、金髪と青の瞳がエメラルドよりも澄んだ翠に、剣を構えるアレクシアも金の瞳がアメジストのような紫に変わる。
二人の戦術は至ってシンプル、アレクシアが飛び出しまずアヤトを戦闘不能にする。その間にチェルシーは精霊術の準備。
もしリースがアレクシアに立ちふさがっても構わず応戦、そうなれば精霊術でアヤトを狙えばいい。
リースの近接戦は脅威でもアレクシアは接近戦に特化した精霊騎士クラス、簡単に遅れは取らない。
持たぬ者を処理すれば二対一とアヤトを敵として意識していない戦術で。
予定通りアレクシアが飛び出すと同時に槍を構えたリースも精霊力を解放、ルビーよりも鮮やかな紅に変わり。
「いく」
呟くなり地を蹴り、しかしアレクシア以上の疾さでチェルシーの元へ。
「な……くっ!」
「気にしないで!」
予想を上回る動きに虚を突かれ簡単に逃したと慌てるアレクシアだが、チェルシーは詩をキャンセル、短剣を引き抜き応戦に切り替えた。
咄嗟の状況判断は見事なもの。故にアレクシアは当初の予定通りアヤトを戦闘不能にすると突進する。
精霊士といえど持たぬ者には反応すら出来ない。
ただアヤトを除けばの話で。
「……やれやれ」
そのアヤトと言えば両手をコートのポケットに入れたまま、迫り来るアレクシアを面倒げに見据えてた。
「はぁぁぁぁ――っ!」
気合いと共に間合いに入ったアレクシアが剣を上段へ。
狙うは肩、精霊結界の効果はあくまで精霊力に関する攻撃に対してのみ。
剣を鞘に収めたままなので切り落とすことはないが骨折と失神は免れない。
加えてここ立つ以上容赦はしないと振り下ろした。
「――があっ!」
だが途中からアレクシアの身体が横へくの字に折れ曲がり、地面に転がった。
「きゃぁぁぁぁ――っ!」
同時にリースの槍を脇腹に受けたチェルシーが悲鳴と共に吹き飛び地面に転がり。
『しょ、勝者アヤト=カルヴァシア、リース=フィン=ニコレスカペア!』
審判は動かない二人を戦闘不能と見なし勝利者コールを叫んだ。
注目の一戦はまさかの秒殺。
「さて、遊んでやるか」
「がんばる」
この結果に静まり返る闘技場にも我関せずと、どこまでもマイペースな二人は闘技場を後にした。
◇
「……見えたか?」
「……いえ」
観戦していたカイルとエレノアは困惑ばかり。
疑問は二つ。
リースの動きが以前とは見違えるほど疾く、まるでロロベリアの成長ぶりを再現したような強さ。いったいアヤトはどんな訓練を二人に課しているのか、この短期間でこれ程の成長速度を見せられては興味が尽きない。
しかし、やはり気になるのはもう一つ。
剣を振り下ろしたアレクシアの隣りに気づけばそのアヤトがいて、蹴りを入れられ意識を失った。しかも彼はコートのポケットに両手を入れたまま、距離のある観覧席から注意深く観戦していたのにその動きが全く見えなかった。
時間を思い出したように周囲が徐々にざわめくように、精霊士のアレクシアを一発の蹴りで意識を失わせたこと。
一連の動作が全く見えなかったこと。
それを成したのが持たぬ者、白昼夢を見ている気分で。
ただ言えることは一つ。
「……彼の力量は私たちの想像を超えているのでしょうか」
エレノアが呟くように、アヤトの強さが計り得ないという事実のみ。
◇
「……マジであれとやるのかよ」
恐らく闘技場内で唯一状況を説明できる一人、ユースが嫌々ながらに言葉を吐き出す。
「本当に……嫌になるわね」
そしてもう一人、ロロベリアも肩を竦めるしかない。
二人はアヤトの実力を知るだけに精霊力を解放して観戦。強化された動体視力と距離もあり、規格外な瞬発力を持つアヤトの動きは見えていた。
ただ朧月を抜くことなく蹴り一発とはデタラメすぎる。
加えてリース、最後に手合わせした時よりも格段に強くなっている。
正直なところ近接戦ではロロベリアも再び後れを取るかもしれない。
「あらあら。まさか弱気になられているのでしょうか」
二人の落ち込みようにマヤは変わらずクスクスと笑う。
「弱気にもなるわ……でも、負けるつもりはない」
「ま、せめて足を引っ張らない程度には頑張らないと、試合中に姉貴に燃やされるんで」
正直な気持ちを吐露しながらもロロベリアは迷いのない決意を、ユースは相変わらずの飄々とした態度を見せる。
「ならばわたくしはお二人にがんばれーと応援をいたしましょう」
見事な切り替えにマヤは満足しつつ。
「リースさまはさておいて、兄様が敗北する方が面白そうなので」
失礼します――と姿を消した。
「神さまが応援とは、御利益ありそうだけど……」
「理由が理由だものね……でも、せいぜい楽しんでもらいましょう」
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