悪夢再来
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バルコニーに本日の主役ラタニが姿を現すなり民衆は盛大な歓声と拍手で出迎える。
もちろん貴族席でもナーダのように元からラタニの功績を認めていた者だけでなく、元反ラタニ派の貴族や軍関係者も手の平返しで拍手で迎えていた。
誰もが歓迎ムードでラタニの勲章授与を見守っている中、唯一反ラタニ派が集う席のみバルコニーではなく民衆に意識が向けられていて。
「あそこはあそこで盛り上がってますねぇ」
「仕方なかろう。あやつらの計画では今ごろこの場は阿鼻叫喚と化しておったからな」
対するバルコニーでは民衆に手を振り答えつつラタニとレグリスが反ラタニ派の席を伺っていたりする。特に反ラタニ派の中核を成す貴族当主は場も忘れて怒鳴り散らしているようだ。歓声や拍手で聞こえないがあの席近くには王族の護衛と称して近衛騎士団を配備し、反ラタニ派の反応や言動を聞き逃さないよう指示もしている。
そして今ごろアヤトが捕らえた刺客や逃走の助力をする配下の証言に、反ラタニ派の反応も糾弾材料として追い詰め王国の膿を排除するのがレグリスの狙いで。
「アヤトに面倒事を押しつけたんですからあいつらの処分はしっかりお願いしますよ」
「あやつらの扱いには困っておった。徹底的に泣かせてやるわ」
「もし出来なかったらラタニさんが国王さまを泣かせちゃうからねん」
「予がお主を敵に回すほど愚かに見えるか?」
「見えないから今回は目を瞑ってるんですよ」
ラタニからクギを刺されるもレグリスは不敵な笑みで答える。
そんな物騒なやり取りが両者間で交わされているとも知らず一向に治まらない拍手喝采をレグリスは片手を挙げて宥めた。
『先も申したように今回の勲章は精霊種という脅威から我が国を守り抜いたラタニ=アーメリに与える物。故に予はこの功績に最も相応しい勲章を新たに用意した』
静まり返る民衆に向けてレグリスから改めて授与式について語る間にマーレグが勲章を納めたケースを用意。
そのケースを受け取ったレグリスが開けば火、水、土、風の精霊を四方に象り、中央には自然界の精霊力とされている紫色の宝石が填め込まれたラタニの為だけに用意された勲章で。
『これは長きに渡る王国の歴史で最も精霊に愛された英雄にのみ与えられる勲章となるであろう』
まさに今回の授与式に相応しい勲章のお披露目に三度拍手喝采が沸き起こる。
「うわぁ……いらねぇ」
『ラタニよ、こちらへ』
もちろん聞こえないのを良いことに本音をぶっちゃけるラタニを無視、レグリスはノリノリで身体を横へ。
「……さっさと向き合わんか」
「へーい」
今さらながら渋るなと急かされたラタニも観念したように向き合い、レグリスの前で跪いた。
同時に周囲は自然と静かになっていく。
民衆は平民からのし上がり、最強の肩書きを得ても変わらず親身になってくれた感謝を胸に。
ナーダやラタニ小隊の面々はようやくラタニが認められると感慨深く。
ロロベリアたち学院生は憧れの存在に敬意を表して。
それぞれがそれぞれの気持ちを胸に、ラタニ=アーメリという英雄の誕生を見守っていた。
『レグリス=フィン=ファンデルの名の元に、ラタニ=アーメリを王国の英雄と認めこの勲章を与えよう』
「……マジで欲しくないんだけどねぇ」
そして面倒げに立ち上がるラタニの胸元に、レグリス自ら勲章が着けられる寸前――
「――――!?」
「……ラタニ?」
突然ラタニが振り返りレグリスの手が止まってしまう。
「ラタニ、何をしておる」
その態度が受け取り拒否のようでレグリスは呆れ、見守っていた民衆らに困惑が広まっていた。
「おいおい……冗談はやめてくれよ」
しかし当のラタニは周囲の状況も無視してから笑い。
「まさかお主……ここに来てまだ嫌がるつもりか」
「国王さま……悪いけどお祭りどころじゃないかもしれんよ」
「? 先ほどからお主はなにを――」
ドォォ――ッ
あまりの態度にレグリスも窘めようとするも、突如響き渡る轟音にその声はかき消されてしまった。
「陛下!」
「なにごとです!」
「お嬢さま!」
咄嗟にマーレグがレグリスの元へ走り、バルコニー外で待機していたカナリアたちやエニシも飛び出し、警備に当たる者達は貴族席を守るよう警戒していく。
「先輩たちも下がって!」
またユースの指示を受けた精霊力持ちの学院生らも精霊力を解放、持たぬ者を庇うよう前に出た。
轟音やバルコニーの緊張感から民衆らも戸惑いざわめく中、唯一微動だにせずある一点を注目するラタニに自ずとバルコニーに居る者の視線も向けられて。
「隊長……まさか、あれは……っ」
「そのまさかみたいだねぇ」
視界に映る光景に息を呑むカナリアに相づちをしつつラタニも精霊力を解放。
大凡二〇〇メル先で起きている現象を目視したのはラタニのみ、ただ報告と酷似していることから気づいたのだろう。
位置的に恐らく精霊種の精霊石を保管している研究施設。
その上空で黒い霧らしきものが集約しつつ、徐々に形が定まっていく様はまさに悪夢のような光景で。
「ラタニよ、あれは……あれはなんなのだ!」
「国王さまも報告を受けたんでしょうに」
レグリスも気づいているはずなのに確認したくなる気持ちは良く分かるとラタニは苦笑い。
サイズこそ以前の半分ほど。しかしここは王国の中枢なのだ。
報告通りの存在なら被害は甚大、故に国王として認めたくないのだろう。
「今のが怪物誕生の瞬間さね」
グオォォォォォォォォォォ―――ッ
逃避を許さないラタニの言葉よりも、王都中に轟かせるノア=スフィネの咆哮が何よりも現実を突きつけた。
ラタニの勲章授与を寸前で台無しにしたノア=スフィネの再来。
前回とは違い多くの人々が暮らす王都での誕生は悪夢以外の何でもありませんね。
なぜノア=スフィネが再び現れたのはか後程として、まずはラタニVSノア=スフィネ戦が再び開幕。
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