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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十五章 迫り来る変化と終演編
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届かない忠告

アクセスありがとうございます!



 授与式開始が差し迫るにつれてバルコニー前広場の賑わいもピークを迎えていた。

 広場に続く道も民衆で溢れるほどで、ラタニの人気の高さが窺える。


「賑やかなもんだ」


 今か今かと待ち構える民衆を二〇〇メル先の時計塔から見下ろしながらアヤトは苦笑を漏らす。

 距離や高低差があるので広場の熱気とは裏腹に周辺は静かなもの。そもそも時計塔の整備士以外は立ち入り禁止区域なので誰かが来ることはまず無い。

 そしてこの場所に居るのは人混みが嫌いという理由ではない。王族が取り仕切る式典となれば広場を含め周辺の警備は厳重、国王とアヤトの繋がりを知るのは一部関係者のみなので人目に付くのを控える必要があった。

 故に保険として色こそ黒だがデザインの違うボロボロのコートを纏い、白い奇妙な仮面も用意して白銀に扮する準備もしている。

 なによりアヤトの受けた依頼は王族の警備ではなく反ラタニ派の刺客を制圧すること。


「あの人間が兄様の標的ですね」

「まあな」


 周囲に人気が無いこともあり時計台に待機してから顕現しているマヤが指さすのは建物の合間を縫って民衆に紛れた若い男。

 事前調査で得た情報によるとマイレーヌ学院に通っていたラタニと同学年。また同じ平民出で実力もそこそこ、卒業後は軍入りは叶わず反ラタニ派の貴族に雇われた精霊術士。

 学院時代にラタニと何かあったのか、それとも同じ平民でありながら輝かしい人生を歩むラタニに対する嫉妬か、反ラタニ派も利用できると今回の計画を持ちかけたようだ。


 それはさておき刺客の役割はバルコニーにラタニが登場した瞬間、民衆に向けて精霊術を放ち授与式を潰すこと。逃走経路や警備態勢も踏まえれば出来るだけ周囲に存在を知られないよう、また広場から距離を取る必要があるのでギリギリのタイミングで姿を見せたわけで。

 対するアヤトの役割は刺客が精霊力を解放した瞬間無力化、マーレグが手配している術士団に突き出すこと。決定的な証拠がないだけに未遂という形で終わらせる必要があった。


 後は反ラタニ派の反応、逃走の助力を担う配下や実行犯の証言を元にレグリスが上手く納めるだろう。

 まあ民衆で賑わう中で実行犯を敢えて泳がせ、未遂という形で終わらせる無理難題を実行できるアヤトが居るからこその対応策で。


「さて、兄様はどのように納めるのでしょうか。さすがに時間を操る安直な方法を選ぶとは思えませんが楽しみですね」

「バカ共のために俺の貴重な時間を削るかよ。ま、安直な方法なのは否定せんがな」


 マヤの煽りを他所にアヤトは仮面を身に付け擬神化、宰相のマーレグから始まり学院生、王族のアレクとエレノア、レイドにエスコートされる形でサクラがバルコニーに登場。


「さて――」


 同時にアヤトが屋根伝いに距離を詰めていく間に、レグリスと王妃の姿を見せるなり先ほどのざわめきが嘘のように民衆は静まり姿勢を低くして出迎える。

 その様子をバルコニーの縁に立ち見回したレグリスは小さく頷き、マーレグから受け取った声を拡張する精霊器を受け取った。


『みなのもの、楽にして構わぬ』


 許しを得て立ち上がる民衆に向けて挨拶と、授与式の趣旨を伝えていく。


『精霊種から我が国を守り抜いた英雄、ラタニ=アーメリを盛大に迎えてくれ』


 そして開始宣言に合わせて静聴していた民衆が拍手喝采で迎える中、再び身を屈めた刺客の男の髪色がエメラルドのような鮮やかな翠に変化。

 しかしラタニの登場を待ち構える民衆の視線はバルコニーに釘付けで男の変化に気づいた者は誰もいない。


「させるかよ」


 だが既に屋根伝いに五〇メルまで接近していたアヤトは事前に拾っていた小石を指で弾き、詩を紡いでいた男の頭に直撃させることで意識を削ぐ。


「すまんな」


 続けて男の周囲にいる民衆の何人にかの頭にも同じように弾いた小石を当て、痛みで怯ませることで僅かな空間を作り上げた。


「仕上げだ――」


 その空間を見逃さずアヤトは瞬時に移動、着地と同時に刺客の男を抱えて即座に離脱。


「なにが――」

「黙ってろ」


 突然の浮遊感に刺客の男が声を発する間もなく首筋に手刀を与えて昏倒、バルコニーにラタニが姿を見せたようで背後からひときわ大きな歓声が沸き上がった。

 ただでさえバルコニーに意識を向けられていた民衆は男の姿が消えたことに気づくはずもなく。

 小石を当てられた数人も不可解な痛みに首を傾げていたが、ラタニの登場を前に些細なことと熱狂的に出迎えていた。

 つまり周囲に悟られることなくアヤトは未遂で刺客を捕らえたわけで。


『確かに安直な方法でしたが、ここにみなさまが居ればデタラメだと呆れるでしょうね』


「かもな」


 擬神化による速度を利用した力業にマヤの愉快げな声が響くも、適当な相づちを返しつつアヤトはマーレグの手配した術士団の元に向かう。

 後は白銀として術士団に刺客を受け渡した後、逃走の助力を担う配下を監視している騎士団と協力して配下も捕らえれば依頼も完了。

 まだ完全とはいかないが最も厄介な工程は終わらせた。残りの面倒な役割はマーレグの仕事になる。


「さっさと終わらせるか」


『急がなければラタニさまの晴れ舞台に間に合いませんからね』


「興味ねぇよ。俺は面倒事をさっさと終わらせたいだけだ」


『そうでしたか。わたくしは興味があるので一足先に戻らせてもらいますね』


「好きにしろ」


「――では、お先に失礼します」


 合流場所に急ぐアヤトを中空に顕現したマヤは手を振り見送るも――


「果たして()()()()()()()()()()()()()()()()()……なんて、さすがに神気を通さなければ兄様にも聞こえませんね」


 わざとらしい忠告と共にクスクスと笑っていた。



 

久しぶりにアヤトくんが登場、そしていつものようにデタラメな方法で依頼を熟しました。

まだ完全に終わってませんが授与式の妨害は呆気なく防げました……が、マヤさんの意味深な忠告が意味するものは何か。マヤさんが楽しそうにしてる時点で嫌な予感しかしませんね……なかなか意地悪ですね、マヤさん。

とにかく次回から本格的に今章のメインが始まります。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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