裏終章 隠された最強対決 1
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ロロベリアとエレノアの序列継続戦が決定された日の朝。
「お邪魔してもいいかな?」
昼休憩を前に一人黙々と学食の準備をしているアヤトに来客が。
その来客はレイド、既に午前の座学が始まっているにも関わらず学食に訪れたのだがアヤトは一瞥するなりため息一つ。
「邪魔だと思うならゴミ出しでもしろ」
「…………てっきり何しに来たんだって追い返されると思ったけど」
思わぬ対応にさすがのレイドも驚くが、アヤトは仕込みを続ける。
「そのうち来るだろうと予想してたからな」
「どうして予想できるかな……」
「さあな。とにかく忙しい中相手してやるんだ、少しは手伝っても罰は当たらんだろう。なんなら茶も煎れてやるぞ、第二王子さま」
「なら手伝うしかないね……」
自分が王族と知ってもこの態度、新鮮な気分を味わいレイドは苦笑を浮かべるしかなかった。
そして三〇分後――
「雑用なんて初めてしたよ」
ゴミ出しどころかテーブルや椅子の整頓から乾拭きまでやらされたレイドは改めて新鮮な気分で。
「良い経験できて良かったな、第二王子さま」
「うん……そうだね」
その第二王子を顎で使ったアヤトはお茶を用意しつつ平然と、この対応には他に返す言葉が見つからなかった。
「それと出来ればその第二王子さまは止めてもらえないかな?」
「なら序列一位さまか」
「……レイドで構わないよ」
どこまでも横柄な物言いにレイドはため息を吐きつつ出せたお茶を一口飲み、アヤトも向かいに着席。
「用件はなんだ」
「ああ、そこまで予想はしてないんだ」
「どうだかな」
「してそうだね……でもその前に、キミとは一度ゆっくり話したくて」
「なら用件をさっさと話せ」
「個人的な会話をしたいという意味なんだけど……しかし、まずはそうするべきか」
このままでは機嫌を損ねそうとレイドは本題に入った。
「昨日、ロロベリアくんの序列に関する話し合いが行われた。こう言っては何だけど厳重注意を言い渡したにも関わらず休養日にキミと出かけたこと、夜遅くまで過ごしていたことが問題になってね。さすがにこのままというわけにはいかない」
「で?」
「……興味なさそうだね」
「実際ないからな」
「そうかな? もし彼女が序列を剥奪されればキミの立場が危うくなるのも分かるはずだよ。まさかキミたちを取り巻く噂を知らないわけでもないだろうし」
「それなりに知ってはいるが、鬱陶しい噂を消すためにわざわざ見世物になるつもりはねぇよ」
誘いに乗らない以前に、本当に興味がなさそうにお茶を啜るアヤトの様子でいきなり当てが外れたとレイドは嘆息。
個人で色々調べてみたがアヤトは学院内で唯一ロロベリアを特別視している傾向がある。彼の性格では他人とあまり関わらないはずなのに、彼女とは休養日まで共に過ごすのが良い例だ。
つまりロロベリアの問題からアヤトにも実力を証明してもらうつもりでいたが、これでは承諾は得られそうにない。
「そうなるとロロベリアくんに頑張ってもらうしかないね」
「つまり白いのを見世物にするのか」
「見世物という言い方はどうかと思うけど、彼女には序列継続を賭けてエレノアと戦ってもらうことになった」
やはりというかアヤトは自分の狙いを察していたようで、仕方なくレイドは会議で決定した内容、方法、条件など詳しい説明を始める。
「どうもロロベリアくんはキミを懇意に思っているみたいだからね。きっとこの模擬戦を受け入れ――」
「おい」
「ん? キミも模擬戦をしてくれる気になったかな?」
「したいのは賭だ」
「賭……?」
だが思わぬ提案を引き出し、興味深く注目すればアヤトはほくそ笑み。
「お前の提案を聞いた白いのがどうするか、という賭はどうだ」
「……いいけど。ボクは受け入れる方に賭けるよ?」
「なら俺は白いのがお前の妹に勝利する条件を付け加えて受け入れる方に賭けよう」
「……は?」
「そして俺が賭に勝てばついでにお前と遊んでやる。もしお前が勝てば……ま、その時は好きにしろ」
「……よく分からないね」
本当に分からないとレイドは首を傾げるばかり。
ロロベリアは序列にあまり固執していないが、剥奪された場合のリスクを考えれば継続を望むはず。
しかしアヤトが賭けたのは彼女がより過酷で、まず序列継続不可能な条件を自ら付け加えるというもの。
なによりアヤトが賭けに勝った場合、自分と遊ぶ――つまり当初の目的を叶えてくれるという。これでは賭けに勝っても負けてもレイドにしか利はない。
「だろうな。とにかく白いのが少しは口先だけの行為を改めるなら、俺もそれなりに褒美をくれてやるのもいい、程度のことだ」
「キミがボクと模擬戦をすることが、彼女の褒美になると?」
「あん? それを白いのが望んだと言ってただろ」
更にアヤトの目的が読めない。
口先だけというのは置いとくとしても、賭けの理由はロロベリアの提示するであろう条件がアヤトの期待に応えるからで。
その褒美に拒否し続けていた勝負をするだ、先ほどはロロベリアに対し興味なさげな態度だったにも関わらず。
こうなるとレイドは困惑ばかりで。
「ますます分からない……キミは見世物になるつもりは無いんだよね」
「ねぇよ。故に白いのとお前の妹が見世物になっている間に、秘密裏にお前と遊んでやるんだからな」
だがレイドの困惑を無視してアヤトは言い放つ。
「要は兄妹共々、良い経験をさせてやる」
自分がレイドに勝つだけでなく、ロロベリアがエレノアに勝つとの自信を込めて。
アヤトの自信はともかく、ロロベリアに対するこの信頼は何なのか。
特訓をしていると聞いたが、彼女の実力を知るからこそか。
「なら賭は成立だね」
分からないことだらけだが、少なくとも自分に不利益はないとレイドは了承を。
「ただエレノアとロロベリアくんの模擬戦中、というのは変えてくれないかな。これでも生会長だからね。さすがに欠席するわけにもいかないんだ」
後は話を煮詰めるのみと問題点を提示。
「それと秘密裏というのも難しい。これでも王族だから、ボクには常に護衛がいる。学院内は問題ないけどカイルとあまり別行動もね。彼も立ち会わせて良いかな?」
「ほう? ここにその序列二位さまを同席させず、立ち会わせても良いのか」
「…………」
「秘密裏を提案したのは、俺だけの都合ではないんだがな」
「……どうもキミを侮っていたようだ」
「なにを今更」
平然と肩を竦めるアヤトにレイドは理解する。
ここへ来たことも含め、アヤトはある程度自分の狙いを察しているようで。
彼とは友好な関係を築きたいならこれ以上のブラフは止めておこうと降参した。
「なら模擬戦後、ボクの屋敷でどうかな? 訓練場もあるし、エレノアや使用人は居るが人払いをさせておこう。問題はキミをどう招待するかだけど――」
「許可をくれるなら勝手に忍び込む」
「…………」
「さすがに人様の屋敷に無断で入り込むのはマナー違反だからな」
「……許可しよう」
「決まりだな」
どこまでも判断に困るアヤトの申し出にレイドは任せるのが一番だと諦めた。
その後、待ち合わせの時間を決めてからレイドは立ち上がる。
ある意味目的を達成できたのもあるが、これ以上はカイルに感づかれてしまうからだ。
「ところで、以前キミが言っていたそれなりに楽しめる遊び相手に、ボクは含まれているかな?」
ただ学食を出る前にふと思い出した話題を口にする。
アヤトが言うに学院内には四人いるらしいが、自分はどうなのかとの興味本位で。
「先に言っておく。俺はお前をそれなりに評価しているし、学院生最強はそのまま序列一位さまだろうよ」
この質問に対しアヤトは予想外にも認めるような口ぶりで。
「だがこの学院内でお前が一番楽しめん相手だ」
しかし矛盾した返答を告げた。
「……その心は?」
「三日後に分かる。ま、当日のお楽しみだ」
「……その日に、少しはキミが分かればいいなぁ」
それなりに会話をしたにも関わらずレイドが一番興味を抱いたアヤトを知る、という成果は得られないまま最初の接触は終わった。
だが想像していた以上に別格の存在だとレイドは知ることになる。
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