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ぐうたら主の相談所  作者: 日下みる
33/63

~勉強編 3~

理乃を施設に預けた週末、両親は面会に訪れていた。

流石に息子を連れて来る事には抵抗があり、家で留守番をしている。

理乃のいない家はまともに会話が成立しなかった。

それはピリピリとささくれた神経をより掻き毟り、口論が絶えなかった。

彼等の話し方は「そういえば、この間のあれ」とか「ずっと前のあれどうした」などというように抽象的で、かつ話の脈絡がない。

それを過去の情報と、その後に続く単語から予想を付け、中継していたのが理乃だった。

自然過ぎて誰も気付いてはいない。

けれど、確かに影響は残っていた。

今までは繋がっていた会話が途端にブチリブチリと途切れ、相手に伝わらない。

家族の間には、娘が産まれる前の様に会話がなくなり、喧嘩が増えた。

理乃が泣いて寂しがっていたら、すぐにでも引き戻そうと考えていた。

理乃は泣き虫こそ保育園に通い出してから直ったものの、泣かずに怒ると手に負えなかった。

手加減を知らないままでは、いつクラスメイトを”うっかり”殺してしまっても不思議ではなかった。

その手加減を覚えさせるのも兼ねて預けたが、早計だったかも知れないと後悔していた。

何せ、理乃が本気で怒る時は大人の男に限られていたのだから。

”うっかり”殺してしまうような相手には怒らない。

施設に到着し、面会室で娘の到着を待った。

何でも研究途中だとかで時間が掛かると言われた。

土日の休みなく研究されているのかと知ってショックを受けた。

そして、早いような遅いような待ち時間を経て、ドアの外から声が聞こえてきた。

娘の声だった。

「面会室ってここ?」

「そうだ。面会人が来ている」

「失礼します?」

疑問形でノックがされ、返事をする前にドアが開いた。

ノックの意味がない。

父は椅子から立ち上がった。

娘を抱き締める為に。

母は父に寄り添った。

娘に罵倒される事を恐れて。

そうして、開かれたドアから姿を表した娘の第一声が


「・・・誰?」


父の頭は真っ白になり愕然とした。

母は責められないと知り安堵した。

理乃は幼過ぎた。

親の顔も覚えられていないほど。

彼女は研究中だった。

身体検査中だった。

無意識下の本能に身体を任せる訓練の途中だった。

まだ上手く意識を残しておく事が出来ないほど未完成だった。

彼女を売った両親を本能は拒絶した。

父が号泣した。

けれど、興味がなかった。

案内人に声を掛けた。

「戻っていい?早く終わらせる約束してあるんだ」

「いいのか?」

「いいよ。何か泣いてるし」

バタンッと無情な音が響いた。

案内人すら気の毒そうに見ていたが、気にもならなかった。

父は次第に笑い出した。

「あははは・・・猫だ猫だとは思ってたが、飼い主の顔を三日で忘れるとは、本当に猫だったな」

「パパ・・・」

母はどう声を掛けたらいいのかわからなかった。

力が入らなかった。

何もヤル気が起きなかった。

今日はもう家に帰って寝てしまいたい。

今日の事が夢だったのだと思ってしまいたい。

虚ろな気持ちで帰宅し、その後。

「俺達の事を忘れた娘なんて知るか!」

唐突に夫が怒り出した。

それからはヤケだった。

毎月、理乃をサンプルとして預かっている謝礼としてお金が入金された。

その金額は次第に増えて行き、父の月給よりも多額になった。

父は学歴がないという理由で出世出来ない会社を辞め、自営業を始めた。

母はアルバイトを辞めた。

母は車の免許を取得した。

当時の免許取得代は五十万を超えていたにも関わらず。

GW、夏休み、秋休み、冬休みと家族旅行に出掛けた。

父の仕事用の車を購入した。

母の買い出し用の車も購入した。

家族用の車も買い換えた。

兄は何故かわからないが沢山買ってくれるゲームに喜んだ。

それでも毎月残る程の金額が入金されていった。

最新の88世代のパソコンも購入した。

使い方がさっぱりわからず、ただの箱となった。

それでもお金は余り、毎週外食を楽しんだ。

楽しい事を沢山した。

娘が帰って来たら一緒にしようと思っていた事を。

娘の実験で得た金で。

楽しい筈の事は何一つ楽しくなかった。

夫は乱暴になっていく一方だった。

家族の仲は荒んでいった。

各々自分の部屋に籠った。

こんな筈ではなかった。

何処から間違えたのか。

娘が幻だったのか。

あの笑い声ばかりの家族団欒は夢だったのだろうか。

けれど、その夢よりも今の方がよほど現実味が感じられなかった。

面会にもう一度行く度胸は、両親には残されていなかった。

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