~勉強編 2~
案内してくれた少女の名前は雪と名乗った。
ふわふわとした柔らかい髪と瞳の持ち主で、可愛い系美人だった。
小学校高学年になるそうだ。
学校に行けばさぞやモテるだろうに。
珍しく、何も異常がないのに売られた子供らしい。
その為「普通の子供の結果」程度のサンプル価値しかなく、ココでは新しく入った子供の世話役の担当をしていると教えてくれた。
他には、足が不自由な夜子。
気が強く、リーダーシップを取る姉御肌らしい。雪と同じくらいの年だとか。
こちらは黒髪ストレートの黒い瞳の名前の様なきつめの美人だった。
もう一人は花音と名乗った。
片目は眼帯に覆われており、どうやら片目が見えないらしい。この子は小学校低学年くらい。
他の子達は固まって近寄って来なかった。
どうやら、現実を受け入れているのはこの三人だけらしい。
現実から逃げても、何も変わりはしない事をまだ知らない様な子供ばかりだった。
これから夕食をして、その後は順番で入浴、その後は自由時間で寝る時間も自由らしい。
ただ、朝は七時には起きないと朝ご飯に有り付けない。
夕食を食べた後、理乃はさっさと寝る事を決めた。
ご飯大事。
母親のご飯より沢山食べられた。
まだ勉強の仲間に入るには年齢が早いという事で、各種検査をした。
健康診断から身体検査に能力検査。
知能検査をまさかこの歳で二回もやる羽目になるとは思わなかった理乃である。
まぁ、二度目ともなれば慣れてくる。
以前よりは出来たと思う。
淡々と検査をし、データを取られながらも自分の中でデータを蓄積した。
運動検査も、意識してやるよりは、身体に任せた方が速く確実なのも判明した。
最も、検査を見ている側には突然出来る様になった理由はわからないだろう。
教えてやる必要もない。
自分の為にココにいるのだから。
やはり、試してみると、意識して見てからでは、位置情報の計算に時間が掛かるし、計算した所で動くのは勘だ。
ならばと、最初から身体に任せるように切り替え方を訓練する。
着々とデータを収集していく。
ココでは、家ではダメだと言われていた事も出来る。
ついでなので、勉強への参加もお願いした。
早くて困る事でもない。
知識は多いに越した事はない。
分析する為にも知識は必要だった。
弱音も吐かず、泣く事もなく、自由時間には年長組に勉強を教わる理乃に感化されたのか、他の子達も元気になってきていた。
特に花音とは片目という問題同士の為、各自試行錯誤の策を練っては試している。
部屋のあちらこちらで、論議などが交わされた。
互いに助け合い、補い合う環境が整い、雪の負担も軽減していった。
一番小さな理乃が、率先して困っている様子の場合は手を貸す。
上の子は小さな子に負けてられない、とソレが当たり前になり、手を出し過ぎず、困った時には気後れする事なく助けを求められる様になっていった。
それらを興味深く観察していた研究員達。
明らかに理乃が入ってから、検査結果が上昇、もしくは頑張る努力を始めていた。
マイナスだのハンデだのに甘える気はない。
けれど、無理なモノは手を借りる事は恥ではない。
理乃には、運動検査の結果が良かった為、武道の時間が割り当てられた。
遠近感がない状態で、どう克服するのか、などの研究、分析である。
反面、定期的に採血や粘膜細胞が採取された。
対ウイルスの情報でも知りたいのだろう。
そうして、更なる研究が次々と導入されていった。
室内の酸素濃度をどれくらい下げても大丈夫か、など。
結果は、みんなが頭痛や息苦しさを訴え退室していく中、理乃は平気だった。ある程度まで下がると自然と寝た。
暗闇の中での活動も理乃が一番得意とした。
実験室が暗闇とは言え、見ている側がある。
目が慣れさえすれば問題はなく、月明かりが入ればもっと見える。
一日に必要な最低限の水分でも、理乃は一番問題なく長時間もった。
食料も以下同文。
現状、もし地球にウイルスや空気の低下、水分や食料の配給低下に陥っても理乃が一番生き残る可能性が高いとなった。
理乃としては、それがどーした。と言った感じだが。
そんな情報は必要としていないし、これから先、必要とする状況が訪れた場合、真っ先に死んだ方が楽だと思った。
むしろ、何がしたいんだコイツラ。
お次は帯電検査らしい。
いつか水関係の検査もあると思えば、マズイな…と思っていた。
弱点を知られるのは好きではない。
スタンガンを当てられ、次々と気絶していく中、バチバチと帯電しながら対策を練った。
思考に集中出来るくらいには余裕である。
むしろ、身体を本能に任せているので、思考は暇だった。
理乃は無意識下に使う脳の使用領域が多い為、意識して使える量が非常に少ない。
その為、勉強などの難しい事まで無意識下に丸投げしている。
思考を中継する必要もない程、無意識下を表層に出すのには苦労するが、慣れてしまえばパターン化して丸投げが出来る。
自分の事は無意識下が何とかしてくれるだろう。
これらの検査に雪がメンバー入りしていない事が救いかも知れない。
普通な雪では耐えられそうにもない。
雪から見たら、見ているだけで辛く、自分だけ何もされないことが申し訳なく涙が溢れていたのだが。
情報の分析に特化しすぎた理乃は感情面が疎かだった。
もう少し何とか感情に聡ければ、母親に売られていなかっただろう事を考えると、何とか対策を練る必要があるだろう。
とりあえず、これが終わったら雪を慰めよう。
麻酔耐性や睡眠薬耐性など一帯何の役に立つのか。
とりあえず、麻酔はご飯を食べれば治るし、麻痺していても動かせる。
睡眠薬は強過ぎると足元がふらつくが、意識に問題はない。
そして、対ウイルス検査があった後日、花音がウイルスが原因で死んだ。
花音と一番親交があったのは理乃だった。
死を初めて近くで見た。
以前、葬式に出たのは知らない親戚の人だった。
動いていた友人が死んだのは初めてだった。
友人だったのに。
”死体”に理乃は近付けない。
その夜、理乃は雪と一緒に寝た。
抱き締められながら。
胸に抱えられながら。
雪は泣いていた。
けれど、理乃には泣けない。
花音を失った悲しみで、自分は泣けない。
自分の為に泣く事を放棄した心が、傷付く事を許さなかった。
泣けない理乃を見て、雪は余計に泣いた。
理乃の心が既に壊れていた事に気付いて。
研究所に来た時には、理解出来ずに泣かなかったんじゃないと。
親に売られても泣けない程には既に心は鈍化していたのだと。
泣く雪を慰めながら、自分のポンコツ具合はより酷くなったのだな、と自覚した。
次の日、夜子は自宅へと帰った。
花音の件をキッカケに半分の人数になった。
大部屋から二人部屋になり、理乃と雪は同室になった。
役割は寮長の様なものだと。
リーダーの夜子が抜けた穴埋めに理乃があてがわれた。
その日の夜も雪は泣いた。
今度は嬉し泣きだった。
夜子が家に帰れて良かったと泣いた。
自分達に帰れる家はない。




