#5-22.家族
【前回までは】
迫るイモータルの大群は、突如としてホワイトたち資本家に襲いかかった。死者たちの復讐にヘルファイア倶楽部の資本家たちは悪事を認める。そして咬み裂きジェーンことジョアンナは炎の中に消えた──
1
──事件の翌日。
刑事精神病院に入れられたハーバードに面会者があった。
「ご機嫌はいかが? ドクター・ハーバード」
かけられた美しい声に、ハーバードはのろのろ顔を上げた。
昨日まで20代にも見えたハーバードの顔は、絶望と憔悴で60過ぎの老人のように老け込んでいた。
ドアののぞき窓、そこから美しい令嬢がハーバードを見ていた。
「お、お前は…!」
ハーバードの目が見開かれた。
「お前には見覚えがある……髪の色が変わっているが、僕の眼は誤魔化せない。僕は手がけた実験体、検体は忘れないんだ。お前は……ヴィヴィアン・ベンウィック!」
ハーバードは立ち上がると、飛びつくようにしてドアの前に立った。
「誰かが蘇らせたというのか? 僕以外の誰かが? そんな…そんなことできるはずない!」
ハーバードは混乱していた。
その口ぶりから、ハーバードはヴィヴィアンを替え玉だと思っていたようだ。
ベンウィック邸に集められた〈アフターズ〉たちは、交流はおろか顔を合わせることもなく研究に没頭していたという。だから複製人間だとは思いもよらないのだ。
「お前たちは昨夜の!」
ヴィヴィアンの後ろに3人のメイド──モリー、ルー、フェイが付き従っていたことに気づき、ハーバードの混乱は頂点に達した。
「そいつらはなんなんだ? イモータル7なのに自我と知性がある。僕がどうしても越えられなかった壁だ。どんな手を使ったんだ?」
「特別なことは何も。ただ一緒に暮らしただけよ」
「いい加減なことを言うなぁっ!」
のぞき窓に額をぶつけ、ハーバードが叫んだ。
「僕だってジョアンナと一緒に暮らしていたんだ。15年間…ずっとだ!」
「あなたはジョアンナと暮らしてなんかいない」
ヴィヴィアンは冷たく言い放った。
「あなたはジョアンナを所有しただけ。彼女を意思ある存在だと扱わなかった。それが、私とあなたとの違い。ジョアンナとこの子たちとの違いよ」
「そんなことない、そんなことない!」
ハーバードは激しく首を振って否定する。まるで子どもが駄々をこねているようだ。
「僕はジョアンナを愛していたんだ。だから彼女を蘇らせるためすべてをなげうって研究したんだ。死者の完全なる復活──究極のイモータルを!」
「彼女たちを見て気がつかなかったの? この子たちに生前の記憶はない。いまは別の人間として生きている。だから──」
ヴィヴィアンは冷たくハーバードを見つめた。
「──死者の復活なんて不可能なのよ。ドクター・ハーバード」
ハーバードは呆けたような顔で硬直した。そして、
「認めない! 認めないぞ!」
鉄のドアを叩いて泣き叫んだ。
「何が不可能だ! 意思ある存在だ! 僕は間違っていない! 間違っていないんだぁあああっ!」
その騒ぎに、職員たちが駆けつけてきた。
「ご無事ですか?」
尋ねる職員の声をハーバードの奇声が遮る。
「あの女は死体だ! あの女は動く死体なんだ! 僕は知っている! 僕だけが知っているんだ!」
ドア叩き、ゆすって大騒ぎするハーバード。
「用事は済みました。ありがとう」
困惑する職員に礼を言って、ヴィヴィアンとメイドたちは外に出た。
2
待たせてあった馬車のドアを開き、フェイが真っ先に乗り込んだ。そしてヴィヴィアンに手を伸ばす。
小さな手に引かれヴィヴィアンが馬車に乗り込むと、フェイが右腕に抱きついてきた。
「ヴィヴィアンさま。大好きだよ」
ヴィヴィアンの右腕を抱きしめフェイが言う。
「どうしたの? 急に甘えん坊になって」
「お屋敷に着くまでこうしてたいの。いいでしょう?」
上目づかいに見るフェイ。
「そんな顔されたらダメとは言えないわね」
苦笑し、ため息をつくヴィヴィアン。その左腕を隣に座ったルーが抱きしめた。
「それでは私も」
「ルー、あなたも?」
両手に花ならぬ両手にメイドとなったヴィヴィアン。
「何をやっているのですか」
無表情の中で微かに眉をひそめ、モリーも馬車に乗り込んだ。後席は3人でいっぱいであるため、前席にひとりで座る。
「いつまでそうしているつもり?」
馬車が動き出してもヴィヴィアンに抱きついたままのフェイとルーに、モリーは呆れた。
「残念ねモリー。もう空きはないわよ」
「早い者勝ちだもんね」
モリーを煽るように言うと、ルーとフェイはさらにヴィヴィアンにくっつく。
「控えめなのはあなたの美点だけど、それで割を食うこともあるのよ」
「後で後悔しても遅いんだよ~」
さらに煽るルーとフェイ。ヴィヴィアンは苦笑するしかない。
モリーは大きくため息をつくと、
「ふたりとも。甘いわね」
ヴィヴィアンの膝の上に横座りに乗り、正面から抱きしめた。
「ちょっと…モリー!?」
さしものヴィヴィアンもこれには慌てた。
「これで専有面積は私が一番です」
感情を欠いた声で言いながら、モリーは愛おしくヴィヴィアンを抱きしめる。
「ずるいーっ!」
「早い者勝ちです」
「そうだ、背中が空いているわね」
狭い馬車の中でメイドたちがヴィヴィアンの争奪戦?をはじめる。
「三人とも! そんなに暴れないで…そこは…っ! くすぐったい! やめなさい! やめて!」
明るい笑い声を乗せて馬車は石畳の通りを進む。
彼女たちの家へと向かって。
3
──同じ頃。
パーシー・ローマン刑事は困惑していた。
「休暇を取れ」
本部長に呼び出されたと思ったら、そう命じられたのだ。
「コープスシンジケートの件はどうするのですか?」
「報告書を提出しろ。ホワイトら資本家への尋問、聴取は他の者が行う」
ホワイトたちヘルファイア倶楽部の資本家は殺人幇助や教唆、密輸に誘拐などで逮捕されていた。
いずれふさわしい罰を受けることは間違いない。しかし事件の大きさから、事後処理と裁判の準備だけでも膨大な手間と時間がかかるのは目に見えている。
「今回の件で、労働者の権利や環境を見直すよう通達が来ておるのだ。働かせ過ぎだとブンヤに突っ込まれる前に、対処しておく必要がある」
つまりはルーカン本部長の保身であった。
「しかし……」
「幸い、今は大きな事件はない。よく休み、英気を養っておきたまえ」
「はぁ」
命令とあれば仕方が無い。
「……いきなり休暇といわれても、何をしたらいいんだ?」
警察本部を出てパーシーは空を見上げ、大きなため息をついた。
「刑事さん、クビにでもなったのかい?」
新聞売りの少年から声をかけられた。
「そんなひどい顔をしていたのか?」
自分に呆れながら、パーシーは少年からタブロイド紙を買った。
しかし買ったものの読む気も起きない。
「……そうだ。ロッホ・ネスに行くか」
ヴィヴィアンに事件解決の報告と協力の礼をしなければならない。
パーシーはロッホ・ネスへと急いだ。
手に持ったままのタブロイド紙。そこには奇妙な見出しがあった。
──キャメロットに妖精現る!
(第5話 死者の軍団 おわり)
【次回予告】
突然の休暇に戸惑う我らが敏腕刑事パーシー。
そこに降って湧いた妖精騒動。
伝説の妖精が、蒸気の都キャメロットに存在しているのか?
パーシー刑事とヴィヴィアン嬢の、妖精を探す奇妙なデートがはじまる。
そこに起きる殺人事件!
女流カメラマンは何を知っているのか?
魔術結社クリムゾン・ドーンは何をねらうのか?
邪悪なる魔法使いのおそるべき秘術。
それに立ち向かう、薔薇の騎士と無敵のマシン・ランサー!
謎が謎を呼び、魔法と銃火が交差する。
次回、『スチームキャメロット第6話 妖精狂騒曲』にご期待下さい。
第5話 死者の軍団 でした。
モリー、ルー、フェイの誕生の背景とヴィヴィアンとの絆の物語。いかがでしたでしょうか?
ヴィヴィアンとパーシーが別々に動くこともあって長くなりました。
次回は雰囲気を変えてドタバタな内容になる予定。
あと5万文字くらいに押さえたい……。
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