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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第八十五話 牛

「あっ、起きた!? お兄大丈夫なの!?」


「どっか痛むところとかないのです!? 一応回復魔法かけまくったのです!」


 うーん、朝からうるさいな。

 ん? なんでこいつらは人の部屋に入ってきてるんだ?

 今何時だ?


 ……十時半!?

 ヤバい寝坊してしまった!


「受付は!?」


「ほとんど終わってるから大丈夫だよ! それより体調はどう?」


「体調? 特に悪かった覚えもないが……単なる寝坊だ……すまん」


「なに言ってるの? 確実に体調悪かったでしょ? 熱もあったんだからね? 昨日のこと覚えてる?」


「そうなのです! 熱には回復魔法が効かないのです!」


 俺、寝込んでたってことか?

 昨日のこと……小屋で会議してたら色々面倒なことになったんで家に帰って寝たところまでは覚えているんだが。

 そのあとなにしたんだっけ?


「どのくらい寝てたんだ俺?」


「カトレア姉が言うには十六時前に家に帰ってきて、寝るって言って部屋に行ったらしいからそれからじゃないの? 私が十八時過ぎに起こしにいったときも寝てたからそっとしておいたんだけど、夕食の時間になっても起きてこないからもう一度見にいったら凄い汗かいてうなされてたんだよ! だからカトレア姉に薬作ってもらってむりやり飲ませたの!」


「そうなのです! 私も回復魔法が効かないとわかってるけどかけまくってるのです!」


 十六時からというと……十八時間!

 そんなに寝てたのか!

 でも一回トイレに行った覚えはあるな。

 そのときは特に体のダルさも感じなかったが。

 むりやり飲まされたという薬と回復魔法が効いていたのかな。


「そうか、迷惑かけたんだな、すまん」


「いいの! 気付いてあげられなかった私も悪いんだし……」


「そうなのです! もっと早く回復魔法をかけてれば熱にも勝てたかもしれないのです……」


「いや、俺の体調管理不足だ。ありがとうな。で、昨日の成果はどうだったんだ?」


「そうだ! お腹空いてるでしょ!? 下行こう!」


「いっぱい美味しいもの食べるのです!」


 ララとユウナに促され下へ行き食卓に座らされる。

 カトレアは管理人室にいるようだ。

 俺を見ると微笑んできた。

 あとで礼を言っとかないとな。


「はい、これ食べて!」


「これも飲むのです!」


 テーブルに料理が数種類とジュースが置かれた。

 寝起きのせいか寝すぎたせいかまだ少し頭がぼーっとしており、なんの料理かはわからない。


「これは?」


「ブルブル牛のステーキにローストビーフに牛カツだよ! 元気つけないといけないしね!」


「カウカウ牛のミルクで作ったバナナジュースなのです! 新作なのです!」


 ブルブル牛にカウカウ牛?

 もしかして昨日言ってた魔物か!?

 無事倒すことができたんだな。


 それにしても量多すぎない?

 まずはステーキからかな。


「いただくよ。……ん? 柔らかいな! それに肉の甘みがあって美味い。これは塩コショウだけか?」


「うん! お肉の味を見てもらおうと思ってね!」


「なるほど。では牛カツとやらを……うん! レア具合が少し心配だったがこれも美味い! トンカツよりも好きな人がいるかもしれないな!」


 牛カツってのは初めて食べたがなかなかいけるな。

 牛は豚より値段が高いからあまり見かけないのかもしれない。


「ローストビーフか、これも生に見えるが大丈夫なんだよな? 食べるぞ? ……うん? ……ステーキと牛カツよりこれが一番好きな味だ。肉の味がそのまま楽しめるな。これになにかソースかけるともっと美味しくなるんじゃないか?」


「ほら言ったでしょ!? お兄はやっぱりローストビーフを選ぶと思ってた!」


「くぅ~なのです! 牛カツのアイデアはいいと思ったのです……」


 こいつら俺で遊んでるのか?

 だが美味いものは美味いから仕方ない。


「使った部位にもよると思うんだけど、ステーキのこの肉はすき焼きやしゃぶしゃぶのほうが合ってそうだな。俺はステーキにはもう少し噛み応えが欲しい。牛カツもいいとは思うんだが、トンカツのほうが俺は好きかな」


「なるほど! じゃあまだ色々と試してみるね!」


「食堂で出すのか?」


「今はまだ温めておこうと思うの。ラーメンやカフェのこともあるしね! 徐々に出さないとレパートリーもそのうち尽きるしねー」


「それもそうだ。……おっ? バナナジュースも美味いな! これは流行りそうだ!」


「これはカトレア姉が作ったの! 今度ミキサー魔道具も作ってくれるって!」


 カトレアの錬金釜を使えばジュース類は簡単に作れるもんな。

 ミキサー魔道具ってことは錬金釜なしでも簡単にバナナジュースが作れるような魔道具なんだろう。

 ミルクも手に入ったようだし、ドリンク類は目途が立ちそうだな。


「そういや昨日は何時に帰ってきたんだ?」


「十八時だよ! 思ったより遠くて時間かかっちゃった。マルセールからメタリン馬車で三十分くらいのところだったけど街道から外れてたしね。ピピが空から魔物を探してくれなかったらきっと見つけられなかったと思う」


「そうなのか。強かったのか?」


「ここのランクで言うとDランクみたい! でもこっちにはピピとシルバとメタリンがいたからね! 相手が何匹いようと余裕だったよ!」


「何匹もいたのか? それに二種類もそこにいたってことか?」


「うん、いっぱいいたの! あまり倒すとよくないかと思ったけど、色や大きさが違うのがいてどれがカウカウ牛かわからなかったから何匹か倒して魔石だけ取ってきたんだよ! そしたらブルブル牛も混じってたみたい!」


 魔物はどれだけ倒してもいいんじゃないかな?

 でも二種類も手に入ってラッキーだったのかな。


「でも一つ困ったことがあるの」


「そうなのです! 困ってるのです!」


「困ったこと? なんだ? なにかあったのか?」


「外に来てもらってもいい?」


「外?」


 ララに言われて外に出た。


「どうしたんだ?」


「あそこを見て」


 ララはエリア外を指差してるようだ。


「ん? どこを見たらいい?」


「あの木の陰」


「なにかいるのか?」


 よくわからなかったので少し近づいてみた。

 するとなにか動物がいるではないか。


「なんだあれは?」


「たぶん牛」


「牛!? あれが牛なのか!?」


「きっと私たちが倒した中にお母さん牛かお父さん牛がいたのです! 復讐に来たのです!」


「え……」


 それはなんと言ったらいいかわからないが、申し訳ないことをしてしまったな。

 魔物といえど親はいる……のか?

 魔物って魔瘴から生まれるんじゃなかったっけ?


「ピピ、魔物って子供を産むのか?」


「チュリ! チュリリ! (もちろんです! 魔物も動物や人間と同じ生物ですよ!)


「そうなのか」


 近くにいたピピに聞いてみたが、ピピが言うんなら間違いないだろう。

 シルバに聞いてもわからなそうだからな。


「わかった。俺が行ってくるよ。話が通じるかはわからんが」


「私も行く! もし襲ってくるようなら……仕方ないよね……」


「私はここにいるのです……見てられないのです」


 俺とララとピピは牛に近づく。

 すると牛は木の陰から飛び出して俺たちを襲って……くるようなことはなさそうだ。


「やぁ、どうした?」


「モー? (誰君? その鳥さんのお仲間さん?)」


「あぁ、こいつはピピって言うんだ。ホワイトエナガっていう魔物だ」


「モー!? (その子も魔物なの? それより僕の言葉がわかるの!?)」


「もちろんわかるよ。俺は魔物使いだからな」


「モー!? (魔物使い!? 魔物とも仲良しなの?)」


「俺に懐いてくれた魔物とはな。あそこのシルバーウルフやあっちのロックゴーレムも魔物だ」


「モー!? (なんだって!? 君はいったい何者!?)」


「だから魔物使いだって。でここになにか用か? もし昨日お仲間を倒してしまった件だとしたらそれは申し訳ないとしか言いようがないが……」


「モー(いや、それは関係ないから気にしないで。魔物だから倒されて当たり前だし)」


「ずいぶんと他人事なんだな? だとしたらなんの用があってここまでついて来たんだ?」


「モー(魔物なんて人間に倒されて死ぬ運命だからね。悪いことをしてるんだから仕方ないよ。それより足速いスライムが気になってさ。なんで人間と仲良くしてるんだろうって思ってね)」


 変わった魔物だな。

 なんか客観視してるっていうか、諦めてるっていうか。

 それよりもこの牛、小さくない?

 牛って実物を見るのは初めてだけどこんなに小さいのか?

 勝手にもっと大きなものと想像していたが。

 シルバとあまり変わらないじゃないか。

 こんな体だと肉がちょっとしか取れないぞ?


「モー!? (今変な想像しなかった? 食べようとか思ってないよね!?)」


「いや……決してそんなことは……」


「モー! (やめて! 僕は戦う気もないんだから!)」


「ちょっとお兄どうなってるの! ものすごくこわがってるけど!?」


「いや、ちょっとな。それより復讐に来たわけじゃないから安心しろってユウナに言ってきてくれ」


 ララはそれを聞いて安心し、ユウナに伝えに言った。

 それを聞いたユウナもホッとしたようだ。


「メタリン! いたらちょっと来てくれ!」


「キュ! (ここにいるのです!)」


「お前が気になったスライムってこいつのことか?」


「モー!? (そうです! 君はそんな足速いのになんで人間といっしょにいるの!?)」


「キュ! (え? 楽しいからなのです!)」


「モー? (楽しい? それだけ?)」


「キュ? (それ以外になにが必要なのです?)」


「モ!? (なっ!? そうか、今まで生きてきて僕は楽しいと思ったことなんてなに一つなかったんだ)」


「キュ! キュ! (ここは楽しいこといっぱいなのです! 馬車を引くのも修行になって楽しいのです! お掃除も楽しいのです!)」


「モー? (そんなに楽しいと思えることがあるの? 人間と戦わなくてもいいの?)」


「キュ! (人間は仲間なのです! 敵は魔物なのです!)」


「モー!? (仲間!? 魔物が敵!?)」


「キュ! キュ! (でもそれは自分で決めることなのです! 人に左右されてはいけないのです!)」


「モー(自分で……そうか。もし僕が君を仲間だと思ったら君も仲間だと思ってくれるのかい?)」


「キュ! (私が仲間だと認めるのはご主人様が認めた者だけなのです!)」


「モー? (そうなの? ねぇ、もし良ければ僕も仲間にしてくれないかな? 自分を変えてみたいんだ)」


 う~ん、俺というかメタリンの仲間になりたいって感じだしな~。

 エリア外でメタリンと遊んでればそれでいいんじゃないか?


「う~ん、メタリンはどう思う? いきなり襲ったりしないかな? 角で刺されたら痛そうだし。外で遊ぶ分にはなにも言わないからそうしてくれるか?」


「キュ。キュ(う~んなのです。しばらく様子見たほうがいいのかもしれないのです)」


「だよなぁ。じゃあそういうことで」


「モー!? (そんなこと言わないで!? なんでもしますので!)」


「人間襲ったりしない? もし襲ったら……」


「モー? モー! (……襲ったら? ……いえ、絶対に襲わないから食べないでください! もし少しでも危害加えたら食べるんじゃなくて倒してください!)」


「キュー(ご主人様、私も見張っておくんで中に入れてあげてくださいなのです)」


「そうか。なら教育係はメタリンに任せるぞ。しばらく馬車で使ってみてもいいかもしれないな」


「モー!? モー! (いいんですか!? ありがとうございます! 馬車も引いてみたいです!)」


 なぜか牛が仲間になった。

 名前は……ウェルダンにしよう。


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