第八十三話 店長になりたい
「つまり二人もモモと同じように店長がやりたいと?」
「だって店長って響きがカッコいいからな! 店を任されるなんてオーナーとララ店長から一人前と認めてもらえたようなもんだしよ!」
「同じくです。僕も町の道具屋の店長なんかよりこのダンジョンでお店を持ちたいです」
おいおいヤック、町の道具屋のほうがいいに決まってるだろ。
ここはダンジョン以外なにもなければ人もいないんだぞ。
「ミーノは?」
「私? 私は食堂とラーメン屋の統括マネージャーだから今のままでいいのよ。しばらくはモモの面倒も見なくちゃいけないしね」
そんな役職ありましたっけ?
でも今後も増えるであろう飲食業務の管理者は必要だからまぁいいか。
「俺の中では来年の四月までは特に新メニューとか新店舗は考えてないんだけど」
「そんな……あと半年も待てねぇよ……」
「なにかやりたい店とかあるの?」
「やりたい店って言われてもなぁ……オーナーの考えた店じゃないとさすがにやってく自信ねぇよ」
「そうです、僕たちはロイスオーナーとララ店長についてきたんですから。オーナーのやりたいことが僕たちのやりたいことなんです」
なんていい従業員たちなんだ。
俺の考えることってほとんどが適当に思いついたことなのに。
それでも俺の意見を尊重してくれるというのか。
よし、こうなったらなにか考えちゃうぞ。
「ロイス君、少しいい?」
「え? フランさん、カレーは?」
俺はフランさんに隣のテーブルに呼ばれた。
「カレー待ち?」
「メロね、昔からカフェがやりたいって言ってたの」
「カフェ? カフェって今日行ったあのカフェ?」
「そう、あのカフェ。なにか参考になるかも」
「お待たせしましたー!」
ララが両手にダンジョンカツカレーを持ってやってきた。
フランさんとホルンさんはテンションマックスになったようだ。
食事の邪魔をしないように俺とララは会議のテーブルに戻る。
それにしてもカフェか。
メロさんがカフェなんて意外だな。
酒場とかのほうが合ってそうだ。
カフェをするとしたらどのような形態がいいんだろう。
ドリンク中心にするかパンケーキのような食事もできるようにするか。
あれは軽食とは言わないからな。
カフェでも思ったがウチの客がいつパンケーキを食べたいと思うだろうか。
それに時間帯は食堂やラーメン屋と同じにして客が来るのか?
食事をした後にドリンクを頼む人は多そうだけど。
カフェを専門店として作るにはなにが必要になる?
「フランと今日会ったばかりなのに向こうから話しかけてくるなんて凄すぎるぜ……俺なんかいまだに会話が続かねぇのによ」
「ロイス君は特別なのよ。魔物とだって会話できるんだからね」
カフェっていうように枠組みを決められてるとなかなかアイデアが出てこないもんだな。
俺は閃きタイプだからなー。
パンケーキか……パン……最近パン食べてないな。
カトレアが来てからすっかり朝はご飯派になってしまった。
朝か……。
「ララ、朝カフェってどう思う? 八時から十時限定とかで」
「朝カフェ!? 響きはいいね! なに販売するの!?」
「ドリンクと軽食をメインでいく。ドリンクはコーヒー、カフェラテ、ミカンジュース、リンゴジュース、バナナジュースだ。軽食はサンドイッチ、ホットドッグ、おにぎりかな」
「うん! いいと思う!」
「単品でも注文可能だが、ドリンクを買えば軽食を一つ選択できる形でいこう。10Gだとさすがに安すぎて品質面を心配されるから20Gだな。仕入れは面倒だから全部ウチの自家製でいく。バナナとレタスは新たに栽培が必要か? ハムとソーセージの作り方はミーノに教えてもらおう。あの緑のやつはピクルスっていうんだっけ? マスタードもあったほうがいいな。おにぎりの具はみんなに好きな具を一つずつあげてもらおう」
「了解! さっそく手配するね! で、お店はどうする? それと誰が作るの?」
「店はこの食堂をそのまま使う。ソーセージは焼くかボイルか考え中だが、それ以外は全部厨房エリアで事前に準備しておけるものばかりだからな。それと肝心の責任者だが……メロさんにお願いしてもいいかな?」
「えっ!? 俺が!? いいのか!? しかもカフェだって!?」
「八時開店だから七時半には来てもらいたいし、今までより三時間近く早く出勤してもらうことになるけど」
「そのことなんだけどよ、オーナーとかは毎日八時から働いてるだろ? それに俺たちとは違って明確な休憩時間がないしさ。それを見て俺たちはずっと申し訳なく思ってたんだよ。だから逆にありがたいくらいだ。親父には働いてる時間の割に給料もらいすぎだとか言われるしよぉ。でも時間が増えるんなら給料を今のままってのは勘弁してくれよ?」
「それなら良かった。給料は心配しなくても大丈夫だ、なぁララ?」
「うん! みんな頑張ってるし、この際給料も少し増やすね!」
「「「「おお!?」」」」
でもさすがにメロさん一人では無理か。
いくらウサギたちが材料を用意してくれても仕上げは人間がやらないと無理そうだ。
ラーメンは麺を茹でたりスープを入れたり、具は乗せるだけだからウサギでも大丈夫だけど、サンドイッチみたいにパンの上に具材を積むように乗せパンで挟んで切ってとなるとさすがにウサギには難しいだろう。
おにぎりは魔道具でポンポンできそうだが、これも手作り感があったほうが美味しく感じそうだし、ウサギにはあの三角の形は出せないからな。
ホットドッグもついでだから作ろうか。
でもそうなると結局全部人が作るのか。
さすがに効率悪いか?
ドリンクはどうする?
ホット用のコップも必要になるな。
あれ?
もしかして結構大変なんじゃね?
今さらやっぱりなかったことに……なんて言えないしな。
「ロイス君、なら私たちも朝から出てきてカフェを手伝ってもいい?」
「僕も手伝いたいです!」
「私も! おにぎり作るの得意ですし!」
おお?
三人とも手伝ってくれるのか、これは大きいな。
それなら七時半から準備すれば十分間に合う。
でも一つ問題がある。
みんな働きすぎだ。
実質十二時間はここにいることになる。
ヤックとメロさんは間に三時間休憩があるからまだいい。
仮に朝カフェの営業を九時半までとして、準備片付け休憩を考慮すると、ミーノとモモは、七時半~十時、十時半~十三時半、十四時半~十九時半の計十時間半も働く計算になる。
さすがにそこまで働かせるのはマズい。
「お兄、私はみんなが朝から夜まで働くのは反対。みんなも誤解しないでほしいけど、私やお兄はこのダンジョンに住んでるし、経営者だからみんなより長くいて当たり前なの。それに見てたらわかると思うけど私たちは自由に行動してるでしょ? だからみんなよりも働いてる時間は少ないようなものなの。でも食堂はそうじゃなくて休みなしで動くから私たちどころか冒険者たちよりもずっと働いてるよ」
「ララの言う通りだ。でもじゃあどうしたらいいと思う? やっぱり朝カフェはやめて今まで通りってのが一番しっくりくるんだけどな」
このまま取りやめの方向でもいいぞ?
「朝カフェはやる。冒険者たちも喜んでくれるはずだし。でも料理は前日に作っておいて、一人前ずつお肉と同じ透明な包装をしてお肉ほどじゃないけど状態保存がかかるようにする。ドリンクはアイス用とホット用の蓋つき容器を用意して歩きながらでも飲めるようにしたいの。アイス用にはストローもあるといいわね。それで実際のドリンクと料理の提供は全部転送魔法陣でウサギたちが行うわ。ドリンクを入れるのもウサギたちに任せる。どうかな、お兄? 状態保存や容器くらいの魔力消費なら冒険者たちが早く来てくれるようになればお釣りがくると思うし」
「「「「「「……」」」」」」
ほう、なかなかいいアイデアじゃないか。
これなら朝は誰もなにもしなくてもいい。
ウサギたちも仕事が増えて喜ぶ。
でもこれだと四人は、それなら全部作り置きでいいじゃんと思ってしまう可能性がある。
それにメロさんはカフェの話がなくなって可哀想だ。
少し補足が必要だな。
「一つ確認だが、前日に用意したものを提供することに納得してるんだな? 以前、食堂を始める際に俺がその意見を出したときには反対してたはずだが?」
「確かにあのときは反対したけど、これはまた別。私たちの負担が増えすぎるのがよくないってのもあるけど、朝は冒険者たちみんなも少しでも時間が惜しいだろうし提供が早いほうが嬉しいだろうからね。それにみんなもう状態保存が完璧なことをわかってくれてるからね」
「そうか、なら朝カフェはララの考えたものでいくことにしよう。提供が早くできるのもいい案だと思う。でも料理を前日に作るのはいいがいつ誰が作るんだ? ドリンクの用意は?」
「それは私とユウナちゃんが用意するしかないと思ってるけど……」
「それではダメだな。ララとユウナはやることがあるの忘れたのか?」
「……そうだね」
「だから俺も追加で提案だ。メロさんとヤックに翌日の朝カフェの料理とドリンクを準備してもらいたいんだ。当然ダンジョンへ入る時間はなくなるけど。ただし、どうせなら昼カフェもやってみようと思う」
「「「「「「「昼カフェ!?」」」」」」」
こうなったらついでにやってしまえ。