第三百四十六話 ダンジョン酒場で会議中
もうすぐ12月も終わりか。
今年の年末年始の営業はどうするかそろそろ考えないと。
去年はまだ宿屋がなかったし、帰省者も多かったから三日間は休みにできたが、今年は移住者たちのこともあるしそうはいかないよな。
「ロイス君、みなさんが来られたようです」
「ん、わかった」
ララが出迎えてくれてることだろう。
それにしてもわざわざウチで会議をしなくてもいいのに。
いくら俺をこのエリアから一歩も出したくないからってさ。
「こちらが会議場所となるダンジョン酒場です!」
「「「「おお!?」」」」
「「「「広い!」」」」
ん?
……聞いてたより多くないか?
「カトレア、席へ案内を頼む。グループでまとまって座れるようにな」
「わかりました」
誰がどのグループか考えるのが面倒だから全部カトレアに任せよう。
「あっ! ロイス君だ!」
「「「「おお!? ロイス君!」」」」
いや、そんなに久しぶりでもないからな……。
なぜかみんなの注目を浴びることになってしまったので軽く会釈をしておく。
カトレアとララが全員を席に案内し終わると、リョウカとルッカがドリンクと軽食を各テーブルにセットし始めた。
「従業員若い子ばかりですね」
「しかも可愛い子ばかり!」
「全員女の子らしいですよ!」
誰だそんな噂を流したやつは……。
まぁいい。
ん?
カトレアがスッと紙を俺に渡してきた。
……なるほど、追加で来た人たちを座席表に書き足してくれたのか。
カトレアはそのまま後ろのパーティ酒場のカウンター内に入った。
では改めて出席者を確認しようか。
マルセールからは、セバスさん、メアリーさん、ほかいつもの身内メンバー。
港町からは、メロディさんと旦那さん、バーゼルさん家族、帝国騎士隊長と副隊長、帝国魔道士の代表者二名。
ユウシャ村からはカーティスさん、ルーナさん、コンラッドさん、……ほか十人ほど。
ユウシャ村からなぜそんなに連れてきた?
さっきから俺の隣でララが目を光らせてるのはそのせいか。
俺やゲンさんが重傷を負ったせいでララはユウシャ村の人たちに対して不信感しかないからな。
マーロイ城でのこともユウシャ村の誰かが仕組んだ可能性もあるって考えてるくらいだ。
ウチのダンジョンに入ってる人もいるが、厳しく監視するようにドラシーに言ってるし。
「ララ、ストア組は?」
「もう来ると思うんだけど……」
みんなを待たせてなにしてるんだよ。
……あ、やっと来たか。
「遅れてすまんのう! もう始まっておったか!」
「長老、静かに……」
まずジジイとユウトさんが入ってきた。
そのあとに続けて鍛冶師や防具職人たちが入ってくる。
ホルンがスカウトしてきてくれたおかげで鍛冶職人と防具職人も数人ずつ増えた。
でもそれ以上に冒険者が増え続けてるおかげで仕事の量のほうが増えてるけどな。
それよりこれで従業員が女性だけじゃないってことを認識してくれただろう。
「では始めさせていただきます」
セバスさんとメアリーさんとはこの一週間の間に様々な議論を重ねてきた。
だからあとは町の人たちへの意思確認みたいなものだ。
まだ確定ではないので、従業員たちへも計画中としか伝えてない。
「お手元の冊子をめくってください。まず最初の議題は、マルセールの町を守る警備隊設立に関してです」
「「「「おおっ!?」」」」
いきなり驚きすぎだろ……ってあのあるある騎士隊長や帝国魔道士たちか。
こういう仕事がしたかったんだから嬉しくて当然か。
「お静かに。質問は後ほどお聞きしますので」
「すまないのである……」
空気読めなさそうだからちゃんと言っとかないとな。
「警備隊の仕事内容は主に三点を考えています。まずマルセール町内においての治安維持、次に各村との間の幹線道路周辺の見回り、そして個人の戦闘能力の向上および維持です」
帝国騎士や魔道士の仕事も基本はこんな感じだったんだろ?
さすがに魔法研究施設なんてものは作らないけどな。
「そして採用する隊員につきましては……」
騎士隊長たちが期待するような目でこちらを見てくる。
でもあいにくその期待には添えない可能性もあるけどな。
「ウチのダンジョンで実力試験を行います。ダンジョン内に入ってもらい、条件を満たした方のみ、次の面接試験に進んでいただくことになります」
……騎士隊長は焦ってるようだ。
その太った体で本当に敵と戦えるかは誰がどう見ても疑問だからな。
でも統率力があるのは確かっぽいから別枠での採用でもいいんだけど。
まぁそれは今する話ではない。
「応募する際の条件は特にありません。年齢や性別などの制限もないです。ただし、入隊後最低限の強さを維持できない方には辞めていただくこともあります」
もちろんすぐに辞めてもらうんじゃなくて、まずは別の業務への配置転換という線が濃厚だが。
こうでも言っておかないと普段の修行をサボる人が出てきそうだからな。
「勤務体系は週六日勤務の週一日休み、日中と夜間の二交代制を採用する予定です。また、勤務のうちの一日もしくは二日は大樹のダンジョンでの修行を義務付けます」
……驚いてくれてるようだ。
毎日町の見回りをしながら強くなれと言うのは少し可哀想だからな。
それに騎士たちが合間の時間に城でやってたという訓練法を聞いたが、そんなのよりダンジョンで実戦を積んだほうが強くなれると思うし。
「あまりやりたくはないのですが、ダンジョン内ではノルマみたいなものを設定するかもしれません。ちなみに、モチベーションを上げてもらうために、ダンジョンで得た魔石以外の収入については全てご自身の収入にしてもらう予定です」
これは嬉しいだろ?
給料をもらってダンジョンに入ってるのに、さらに収入が増えるんだぞ?
まぁその分給料は少し低めに設定するけどな。
「給料はウチとマルセールから折半で出します。だから警護隊は大樹のダンジョンの従業員でもあり、マルセールの町の職員でもあるんです。隊員にはランクを設けまして、そのランク毎に給料を固定します。そしてそのランクは町の誰もが見れるようにします。より重責を感じながら仕事に励んでもらいたいと思いまして。あ、役職手当は別途ありますので」
一種の脅しみたいなものだが、それくらい責任感を持ってほしいということだ。
「で、警備隊の本部を置く場所なんですが……」
みんなの後ろのカウンターにいるカトレアに目配せをする。
「「「「おおっ!?」」」」
俺の背後にある大画面にはマルセールの地図が表示されてるはずだ。
そこに赤丸で場所が記されている。
「マルセールの西端、つまり大樹のダンジョン側ですね。そこに警備隊の本部を建てます」
「「「「おおっ!?」」」」
今は本部の完成予想図が出てるはずだ。
魔道ダンジョン内に作っても良かったんだが、本物の建物のほうが実感が出るだろうということで地上になった。
それでも半分くらいの施設は魔道ダンジョン内になるけどな。
それに西側の大樹の森に入る道付近は昔からなにもなくて殺風景だったのがずっと気になってたんだよな。
そりゃ夜とか真っ暗でこわいし、神聖な森の近くになんて誰も建物を建てる勇気がなかったんだろうけど。
「中には事務室、食堂、会議室、待機場所、仮眠室、シャワー室、馬車乗り場や馬小屋などを想定しています。あとは魔道ダンジョンへの入り口と、魔物が出現する簡易訓練所への入り口ですかね」
「「「「……」」」」
おかしなことを言ってることに気付くか?
……お、さすがにウチの従業員は気付いたか。
それと町の身内連中も……。
魔道ダンジョンへの興味と知識が半端ないんだよなぁこのおじさんおばさんたち。
まぁこれは公にすることではないから今は説明しないが。
「そして魔道ダンジョン内には入隊者が住むための家を作ります。単身の方向けと、家族向けのものを考えています。タダってわけにはいきませんけど、格安で入居が可能です。もちろん通いも大歓迎です」
最初のうちは多くの人が住むことになるだろうな。
お金が貯まったらどこかに一軒家でも買ってくれればいい。
「こんなところですかね。……あ、最後にこの警備隊における一番大事な役割をお伝えしておきます。この警備隊に入隊する人はもちろんのこと、町に住む人全員に共通で認識してもらっておきたいですから」
いい具合にこの場の緊張感が高まる。
「それは…………マナを守ることです」
さすがにユウシャ村の人たちはすぐ反応したな。
「マナとは、この大樹や大樹の森全体から溢れ出ている聖なる力のことです。そのマナが、魔王や魔物から町や村を守ってくれてるんです。ですがマナを生かすも殺すも人間次第。だから警備隊にはマナを守るという大義のために治安維持に努めてほしいんです」
「「「「……」」」」
少し大きな話になりすぎたか?
いきなりマナって言われても普通は馴染みがないからな。
でもウチの警備隊がどこかの騎士隊みたいにぬるい考えでは困る。
どこかって帝国じゃないぞ?
「う~ん、この警備隊っていう呼び方も微妙ですよね。王国騎士隊とか帝国騎士隊とかのほうがカッコいいですし」
今はわかりやすく説明するために警備隊という言葉を使ってただけだ。
ララたちと相談してちゃんといい名称を考えてある。
「例えば……聖なるマナを守りし者たち、という意味を持たせた、パラディン隊……はいかがでしょうか? パラディンってカッコよくないですか?」
「ロイス君! いいよそれ!」
真っ先にバーゼルさんが賛同してくれた。
「うむ! 最高だ!」
続いてカーティスさん、そのあとも続々と賛同の声があがる。
ただ騎士隊長は受かる自信がないのか、しょんぼりしてるようにも見える。
「名前負けせんといいがの」
ジジイ……。
そのことについては正直俺もララも不安視してるんだから思ってても口に出すなよ……。




