第三百四十七話 元ユウシャ村の人々
町を守るための組織の発足ということで、特に反対もなく一つ目の議題は終了。
時間的にもきりが良かったので少し休憩をとることにした。
初めて来た人たちは宿屋ロビーのほうに見学に行ったようだ。
テーブルの上にある軽食はほとんど手が付けられていない。
このあとランチバイキングが待ってることをわかってるんだな。
誰もなにも言ってないはずなのに。
「ロイス君、少しいいかい?」
「どうぞ」
バーゼルさんか。
近くにいたウサギがすぐにイスを用意してくれ、バーゼルさんはそこに座る。
ウサギが近くにいる生活にもすっかり慣れたようだな。
「さっきの給料の話なんだけどさ、町がお金を出すのはわかるんだが、なぜ大樹のダンジョンも出すんだい? 町から補填を貰うわけでもないんだろう? それじゃ赤字にしかならなくないかな?」
「まぁこの件に関しては完全に大赤字ですね。でも仕事の一つである町の外の見回りというのには、道に埋めてある魔道プレート上に問題がないかを確認するという仕事もあります。だから全くメリットがないってわけでもないんですよ」
「なるほど。でも元となる資金がなければ無理なことだし、今後も安定した収入を得る必要があるだろ? 失礼なことを聞いて申し訳ないが、大樹のダンジョンや魔道列車はそんなに儲かってるのかい?」
「えぇ、それなりには」
「はっきり言ってくれるんだね……ロイス君らしいけど」
「でも正直今後どうなるかまではわかりませんね。魔道列車の収益が減るようなことがあるとさすがに大ダメージですし」
「そういやボクチク村からボワールの町までの延伸も決定したと聞いたんだけど本当なのかい?」
「耳が早いですね……昨日決定したばかりですよ?」
「ここに来るときにセバスさんが嬉しそうに話してたからね」
「……」
この話を聞いているであろうセバスさんを見ると、セバスさんの顔は不自然に横を向いていた。
メアリーさんは申し訳なさそうにしている。
別に聞かれて困る話でもないけどな。
「年明けから早速作業が始まります。今回も作業は全て移住者の方にお願いしますので」
「ありがとう。それとさ、もう一つ噂を聞いたんだけど……」
「もう一つ?」
……まさか?
セバスさんとメアリーさんは完全に聞こえてないフリをしている。
あれだけ極秘で進めるとか言ってたくせに。
いや、でも待て。
バーゼルさんがハッタリを言ってる可能性もある。
「どの件ですか?」
「マルセールの町を北にも拡張していき、北マルセール、マルセール、南マルセールとそれぞれ呼んで、縦に長い一つの大きな町にするとかっていう噂だよ」
どこが極秘なんだよ……。
もはやなんのために極秘って言ってたかもわからなくなってきた。
「そうみたいですね。さすがに5万人も人口が増えると港町付近の土地だけでは厳しいですから。だから駅もこのマルセールだけで三つもできることになります」
「「「「えぇっ!?」」」」
少し大きめの声で言ってやった。
極秘にする意味なんてなにもないことに気付いてしまったからな。
「で、この話をセバスさんから聞いたということは、もう決心は固めてくれたと思っていいんですね?」
「……うん。どこまで力になれるかわからないけど、マルセールの副町長の件、受けることにするよ」
「「「「えぇっ!?」」」」
驚きすぎだって……。
そういやいつの間にかみんな戻ってきてるじゃないか。
「そうですか。移住者の方たちも喜ばれると思いますよ」
「そうだといいんだけどね。元々の私の力のなさはみんなに知られているだろうから」
「そんなことないです。今港町にいる人はバーゼルさんの言葉を信じた人が多いですから」
「本当は私じゃなくてロイス君なんだけどね……まぁそれも含めて、この町のために力にならせてもらうよ」
「はい、それでいいと思います」
「でも現副町長のメアリーさんはどうするんだい? それにまだ噂の町長と会ってないんだが……」
う~ん。
さすがにこれは極秘だからな。
と思ったがもういいや。
「今後はメアリーさんが町長になる予定です」
「「「「えぇっ!?」」」」
「現町長であるシャルロット王女は今王都パルドに戻って帝国の件を王様に報告してる最中なんです。そして五万人もの人々の命を救ったという実績の元に、町長の職を勇退します。今後は王女ではなく一人の女性として、王族を離れた生活がしてみたいと言っておられましたよ。どこかバーゼルさんと似てますよね。かれこれ一か月は戻ってきてないところをみると、話はかなり難航してるんでしょうけど」
「「「「……」」」」
嘘はなに一つ言ってないからな。
でも一か月も戻ってきてないんだからさすがに心配はしてる。
ジェマもいっしょだから大丈夫だとは思いたいが……。
「ではみなさんお戻りのようですので、続きの話に参りましょうか」
ウサギがササっとみんなに冊子を配っていく。
……バーゼルさんも戻ったな。
「では今お配りした冊子をご覧ください。次の議題は、冒険者村についてです」
「「「「冒険者村!?」」」」
「はい。村と言いましても、冒険者たちが集まって住む土地みたいにお考えください。まぁそれを村って言うんでしょうけど。ではなぜマルセールの町じゃなくて、冒険者村なのか。それはこの村の場所に関係してます」
すかさずカトレアが画面に地図を映し出す。
「赤丸に注目してください。……おわかりでしょうか? この冒険者村は大樹の森に入ってすぐのところに作ることになります。つまり管轄はマルセールじゃなくて、大樹の森を管理してるウチなんです。だから町とは呼べないってだけですので悪しからず」
生活するうえではたいした違いはない。
ただ町の管轄ではない以上、ウチのやりたい放題ってだけだ。
「先ほどお話しましたパラディン隊本部は大樹の森に入る道の寸前の北側に作ることになります。そして今お話しした冒険者村はそのすぐ隣です」
パラディンと冒険者が一触即発になったりもするかもしれないな。
「この村を作る目的ですが、それはウチに通ってくれる冒険者、主に家族持ちの方たちへの支援のためです。この村に作る家を安価で貸し出し、経済的負担を楽にするという目的もあります。パラディン隊の家族向けの家みたいなものです」
パラディン隊のように魔道ダンジョンに家を作ることも考えたが、あれはマルセールに余ってる土地があまりないせいだからな。
ウチで管理してる土地に家を作ろうがなに一つ問題はない。
ってセバスさんが言ってくれた。
「そして冒険者の家族を支援したいという思いもあります。この村の地下に当たる魔道ダンジョン内で畑仕事や牧場仕事などを斡旋することも考えてますし、ウチのダンジョンの厨房などで働いてもらったりすることも考えてます」
昼休憩に旦那が食べる料理を奥さんが作ってたりするかもな。
「それとこの村に住むからと言って、別にウチのダンジョンに来てもらわなくても大丈夫です。ただ冒険者じゃないと住めないという決まりにはするつもりです。家族は冒険者じゃなくても構いません。ですから冒険者として生活していただけるのであれば生涯その村に住んでいただくことも可能です」
そこの線引きが難しいところではあるが、信じるしかないよな。
「その代わり、冒険者であるということ以外にもう一つ条件を付けさせてもらいます。それは、マルセールの町が危険に晒されたとき、パラディン隊とともに手を取り合って町の人々を守っていただきたいということです。自分たちや自分たちの村さえ守れればいいというのではなく、守れる人は全て守ってほしいのです」
俺が誰のことを言ってるかわかってるよな?
……そうだ、ユウシャ村の人たちだ。
バーゼル皇子や帝国騎士たち、そして冒険者たちが数万人救ったのに対して、ユウシャ村の人々は誰一人救ってないんだからな。
帝国のあんな端に村があったからなんて言い訳は通用しない。
その力を誰かのために使う気さえあれば帝都にでもミランニャにでも行けたはずだ。
まぁそのことは本人たちが一番わかってるだろうからこれ以上は追及しないが。
「では冊子の次のページをご覧ください。少し話は変わりますが、パラディン隊本部や冒険者村がある道の反対側には、大樹の森自然公園を造ります」
……反応が薄いな。
少し空気を悪くしてしまったか。
でもユウシャ村の人たちへは俺の口からは初めて言ったからな。
ユウシャ村でも、屍村に向かう途中でもいっさい口にはしないようにしてたことだ。
ルーナさんが落ち込んでるのを見るのは少し心が痛いが……。
「この公園は冒険者村がある大樹の森側はウチの管轄、パラディン隊本部の前からはマルセールの管轄と、ハッキリ分けて公園造りをすることにしました」
おっ?
よく見るとアリアナちゃんは喜んでるじゃないか。
やっぱり子供からしたら大きな公園が近くにあるのは嬉しいよな。
港付近から歩くと四十分はかかるから魔道列車で移動することになるだろうけどな。
まぁアリアナちゃんは町役場近くに住むだろうから大丈夫か。
「で、今日ユウシャ村の人たちにここに来てもらった理由ですが……」
そんなに身構えなくてもいいんだぞ……。
「冒険者村に住んでもらえないですかね?」
「「「「え?」」」」
「まず村の家作りや公園造りをお願いしたいんです。そして今後は家や公園の管理、魔道ダンジョン内の畑や牧場で日常の食料調達はもちろん非常時に備えての農作物や肉の生産、地上に植えるための木の生育などを仕事としてお願いしたいんです。必要な資金や素材はウチから提供します。成果に応じて村に報酬をお支払いすることもお約束しましょう」
話についてこれてるだろうか?
今までの環境に比べたらこんなにいい話はないと思うんだが。
「でも一番お願いしたいのは、未来の冒険者となるであろう子供たちの育成です。長年のノウハウを活かして、ぜひ今後もそれを続けてほしいんです。この村の子供だけじゃなく、町の子供からも希望者を募りますので」
ウチの環境を利用すればユウナやリヴァーナさんを超えるような逸材が生まれそうだしな。
「最後になりますが、この大樹のダンジョンの役割は、マナを生み出し守ること、そして冒険者の育成です。つまりパラディン隊と冒険者村の存在は大樹のダンジョンとほぼ同義であり、大樹のダンジョンだけではカバーしきれない部分を補ってくれるような存在になってほしいと思ってます」
ふぅ~、こんなところか。
なんだかこういう緊迫した空気感を味わうのは久しぶりだな。
「すぐに返事をとは言いませんので、一度みなさんで」
「やらせてくれ!」
早い……。
カーティスさんがみんなを代表するかのようにいい返事をした。
「……ルーナさんもそれでいいんですか?」
「はい……ロイス君に出会えて本当に良かったです……」
なんで泣きそうになってるんだよ……。




