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第百二十六話 錬金術師マリン

「わぁ~! こんなに冒険者がいっぱい来るんだね」


「今日は月曜日だから特にみんな朝早く来るんだ。おはようございます」


「ねぇお兄ちゃん、私もなにかしよっか?」


「おはようございます。いや、まだゆっくりしてるといい。お気をつけて」


「だってララちゃんは案内係で忙しそうだし、ユウナちゃんは鍛冶工房? に行っちゃったんだもん」


「ならダンジョンストアでも見てきたらどうだ? おはようございます。お客さんがいるから邪魔にならないようにな。おはようございます」


「えぇ~? 一人でウロウロするのも嫌だよ……。ここで見学してるからあとで案内してね」


「わかった。お気をつけて。九時半まで待ってくれ。おはようございます。それまでリスたちと遊んでやってくれ」


「うん!」


 管理人室のカウンターの上にはリスたち六匹が勢揃いしている。

 みんなでお出迎えしてあげてるんだろう。

 マリンは隣の席に座って冒険者たちを眺めている。


 一昨日までのリスたちはただ部屋の中を走り回ってるだけだったから冒険者たちはリスの存在を知らない。

 そのリスたちに加えて見慣れない少女が管理人室にいる。

 しかもその少女は俺のことをお兄ちゃんと呼んでいる。

 冒険者からしたらどんな光景に見えてるんだろうか……。


 マリンは昨日、食事をして風呂に入り、ソファに座ると瞬く間に寝てしまった。

 長旅で疲れていたんだろう。

 宿では眠りにつけなかったらしいしな。

 起きたとき一人だと不安に思うかもしれないからララといっしょに寝てもらうことにした。

 昔は二人でお昼寝してる光景をよく見たもんだ。


 結局マリンからはまだなにも聞けていない。

 今朝は七時半に起きてきて朝食を食べて八時からはもうこの状態だからな。


 初めて見る人工ダンジョンの受付の様子に興味津々のようだ。

 手元の水晶玉にはダンジョンストアの様子が映っている。




 ……ようやく終わった。

 ソファでカフェラテを飲みながら少し休憩しようか。

 ララとユウナは厨房エリアで新メニューの試作品作りに向かった。


 間違いなく今までで一番多い来場客数だな。

 新規もいつもより多かった。

 マルセールに冒険者ギルドがオープンしたことも関係してるのかもしれない。

 それに王都の魔工ダンジョンの件もあるかも。

 新冒険者の季節でもあるしな。


 なので途中からマリンに受付を手伝ってもらった。

 そんなに難しい作業ではないからな。

 それはいいとして気になることがある。


「マリンは魔道士なのか? 受付魔道具でダンジョンの魔力を使わずに自分の魔力を使ってたよな?」


「魔道士というか錬金術師だよ」


「錬金術師!? えっ!? 錬金術師!?」


 大事なことなので二回聞いてみた。


「うん。でも普通は気付くよね……」


 ……確かに気付くのが普通かもしれない。

 師匠と姉の二人は錬金術師なんだからな。

 小さいころの印象しかなくてそんなこと考えてすらなかったよ……。

 ララは気付いてるんだろうな。

 ユウナは……俺と同じで間違いない。


「カトレアからこのダンジョンのこと聞いてるんだよな?」


「うん。最近は師匠もここのことを話してくれるようになったよ」


「……カトレアのことはお姉ちゃんなのになんで師匠のことはお母さんって呼ばないんだ?」


「師匠って呼べば誰も変に疑ったりしないからだって。お姉ちゃんて呼ぶのは血が繋がってなくてもこの先ずっと仲良くしてほしいからだって。師匠は弟さん……お兄ちゃんのお父さんを亡くしてるでしょ? それに自分には子供がいないから色々思うところがあるんだよ」


 なるほど。

 お母さんなのに血が繋がってないことを知られて、マリンやカトレアが色々面倒なことに巻き込まれることを考えたんだろう。

 やはり家族思いのいい人だ。

 ここに突然乗り込んできた印象が強いから俺は少し苦手だけど……。

 あれはカトレアが出て行ってまだ間もないときだったよな。

 爺ちゃんが死んだってことをカトレアから初めて聞いて飛んで来たんだ。

 それに俺の母さんが死んだことも悲しんでくれてた。


 でもカトレアの話はしてくれてもマリンの話はしてくれなかったな。

 そのときはまだマリンが気付いてなかったのか。

 師匠……スピカさんも俺とマリンが知り合いなんてことは知らないか。


「そういやここにはなにしに来たんだ? 遊びに来たのか?」


「うん! ……ってもちろんそれだけじゃないよ? 私も錬金術師だからね。なにか手伝えないかと思って!」


「はははっ、それは心強いな! じゃあポーションとかエーテルを作ってもらおうかな」


「むぅ~? お兄ちゃん? 私のことまだ子供だと思ってバカにしてるでしょ?」


「え……子供だよな? ララだってまだ子供だぞ? マリンの二つ上のユウナだって俺からしたら子供だし……」


「年齢や見た目は仕方ないけど錬金術に年齢は関係ないの!」


「え…………まさかカトレア並みなのか?」


「え……いや……お姉ちゃんと比較されると困るけど……」


 そうだ、マリンはカトレアとスピカさんに教わってるんだ。

 もしかしたら想像以上に凄いのかもしれない……。

 いや、もしかしなくてもそこらの錬金術師とは比べものにならない気がしてきた……。

 まぁ俺はそこらの錬金術師の実力を全く知らないんだが……。


「……わかった。マリンを信じよう。ちょうどカトレアに頼ろうと思ってたところだ」


「お姉ちゃんも来たがってたんだよ! 地下四階っていうのを作るんでしょ? それにお兄ちゃんならもっと他に色々考えてることもあるだろうからって!」


 さすがカトレアだ。

 俺のことをよくわかってる。

 でも残念ながら地下四階以外のアイデアは俺が考えたことじゃないんだ。

 俺はスランプ中だったからな。


「ならなんでカトレアといっしょに来なかったんだ?」


「王都周辺に魔工ダンジョンができたの知ってる? そこから冒険者が持ち帰ってくる情報を整理して対策を立てたり、あとは冒険者用のアイテムを大量に錬金したりしなきゃいけなくて今師匠とお姉ちゃんは大忙しなの。あっ、そういえばマルセール周辺にできた魔工ダンジョンってお兄ちゃんたちが調査や討伐したんでしょ!? 凄いね! 魔工ダンジョンって名前もお兄ちゃんが付けたって聞いたよ? 王都でもマルセールの話がよく出てるもん!」


 スピカさんも絡んでるのか。

 ……ということはピピが水晶玉を届けた相手もスピカさんってことか?

 そういえばもっとゆっくり帰ってきたかったとか言ってたな。

 ピピのやつ、俺には内緒で家まで何回も遊びに行ってるな。


 というか錬金術師が対策まで立てたりもするのか。

 錬金術師というよりもスピカさんがここで育ったことを知ってるからか?


 ん?

 町長はスピカさんと知り合いだったから直接頼めたのか?

 父さんより年上って言ってたし、スピカさんと友達でもおかしくないもんな。

 ……ややこしいことにはならないよな?


「忙しいならマリンは手伝わなくて良かったのか?」


「普通は私の年齢で働いてると色々問題になるからね。家が貧しいとか理由があるならいいけど。カトレア姉がここに来るとなるとどうしても私が仕事をしないといけなくなるでしょ? 家でお手伝いする分にはなにも問題ないけどさすがに今の仕事量だとお手伝いとは言えないもん」


 十二歳が働いてると色々問題になる……。

 耳が痛い。

 町長がこの前言ってたことも満更ハッタリでもなかったのか……。

 でもマルセールに学校はないから働くしかやることないし。

 どっちにしてもララはセーフだ。

 ウチは極貧だったからな。


「いや、そういうことじゃなくてさ、マリンもお手伝いすれば二人の負担が減ったんじゃないかと思ってさ」


「え? でもそれだとここのお手伝いに誰も来れないじゃない? ……あっ、違うよ? 私もお姉ちゃんもここに来たかったんだからね? あくまで私たちが勝手に行きたいって思ってただけで別に義務みたいに考えてるわけじゃないからね? お兄ちゃんはすぐ悪い方向に考えるって聞いてるからあえて言うけど」


 俺のことをカトレアからどう聞いてるんだよ……。


「そうだったのか。いや、俺としてはもちろんいつでも大歓迎だ」


「うん! でも十日間ほどしかいられないけどね……」


 十日間か……。

 四月に入って運用が始まるまでいてくれるってことだよな?

 非常にありがたい。

 なんなら十日間と言わずにずっといてくれてもいいんだぞ?


「そういや学校は? 行ってるんだろ?」


「今春休みなの! 四月からは錬金術の専門学校へ行くんだよ! 正直あまり気乗りしないけど……」


「専門学校? その年からもう専門学校になるのか」


「飛び級ってやつね。だからきっと周りは十六歳になる年の子が多いの……しかも錬金術は特殊だから同級生も数人だしね」


 ……んん?

 飛び級?

 マリンは次が十三歳ってことは……三年も!?


「……まさかマリンは天才ってやつか?」


「う~ん。私の場合は師匠とお姉ちゃんが凄いからっていうのもあるの。錬金術師みたいに希少な職種の有望株に十六歳から働いてもらうためには今専門学校に入れたほうがいいからね」


 つまりマリン自身は凄くなかったとしても、家族が凄いからって理由で飛び級させられることもあるってことか。

 そうだとすると可哀想だな。


「専門学校に行ってなにか学ぶことはあるのか?」


「あることはあるだろうけど少ないと思う。広く浅く教えるみたいだから。そこから先は自分に合う錬金術を探してねって感じらしいの」


 学ぶことが少ないってことはやはり有望株と呼ばれるだけの実力はあるんだろう。


「学校なんて行かないでウチに来たらどうだ? 錬金術に関する本も結構あるらしいぞ? カトレアなんて手が空いてるときはずっと本読んでたからな。それに従業員の中には年が近い女の子も何人かいるぞ? もちろん仕事をしてもらう以上、給料はしっかり出すから。大きな作業がない間はパルドの家に帰ったり旅に出たっていいし」


「…………いいの? ……本当に来ちゃうよ?」


「もちろん構わないさ。カトレアが出ていってからウチはずっと錬金術師を探してたしな」


「お兄!」


「え?」


「十二歳の子になんてこと言うの! お兄が良くてもマリンちゃんには家族がいて帰る家もあるんだからね! それに人生が変わるかもしれないんだからそんな簡単に言ったらダメだよ!」


「……そうだよな……ごめん」


「わかったらいいの! マリンちゃん、お兄が変なこと言ってごめんね。気にしないで。じゃあ気を取り直して二人は新メニューの試食してね! はいこれ!」


 ララの言う通りだ。

 俺が錬金術師を求めてるだけでマリンのことを全く考えてなかった。

 マリンにとっては学校を卒業してから考えても遅くないもんな。

 それにカトレアとスピカさんもいるんだ。


 ……でもここにいる間だけは多少無茶言ってもいいよな?


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