第百二十四話 達成報告
今週もあっという間に終わってしまった。
今日は日曜だが二度寝はなしだ。
四月までもうあと一週間ちょいしかない。
それまでに宿屋構想の件をまとめなければ。
「ピィ~? (今日は誰も来ないの?)」
「ん? 日曜はダンジョン休みなんだ。だから従業員も冒険者も誰も来ない」
「ピィ(そうなんだ~)」
人がいないことを不思議に思ったマカが聞いてきた。
リスたちは昨日から急に話しだした。
いや、前から声は発していたから俺が言葉をわかるようになったと言うべきか。
いや、やはり成長して人間の言葉がわかるようになったんだろう。
……どっちでもいいか。
六匹は、マカ、ビス、メル、エク、マド、タルと名付けられた。
メス四匹、オス二匹だ。
名前を付けたのはララとユウナで、最近二人はお菓子作りにハマっているからそこから取ったらしい。
みんな微妙に色やガラが違うから見分けることは可能だ。
だがリスは小さいからララとユウナは苦労している。
俺は顔見たり声聞くだけでなぜかすぐに名前が浮かんでくる。
これも魔物使いの力なんだろう。
「ピィ? (じゃああの人たちは?)」
「あの人たち?」
管理人室から外を見ていたビスが誰かを発見したようだ。
移動して窓の外を見る。
…………あれは!?
「ユウナ、テーブルの上を片付けてくれ。ララはさっき作ってたお菓子の準備を頼む」
「誰が来たのです?」
「えっ? ここに来るの?」
「まぁいいじゃないか。みんな、お客さんのようだ。家の中に案内してきてくれるか?」
玄関を開けてやるとリスたちはいっせいに飛び出していった。
そしてお客さんは走り回るリスたちに困惑しながらも家の前にやってきた。
「おはようございます」
「ロイス君! 久しぶり!」
「ロイスさん! なんとか間に合いましたよ!」
「「……」」
ティアリスさんパーティだ。
三か月以上ぶりだな。
お兄さんたちは久しぶりに会う俺に恥ずかしがってるようだ。
……と思ったらリスに気を取られてるだけか。
「詳しい話は中でお聞きしましょうか。どうぞ」
「えっ? 中に入っていいの?」
初めて入る家の中に緊張気味のようだ。
「あっ! ティアリスさんだ!」
「えっ!? ティアリスさんなのです!?」
ユウナは仲良かったから嬉しいだろう。
四人に左右に分かれてソファに座ってもらった。
俺、こっちのソファに座ったの初めてかもしれない……。
ララはキッチンで料理を作っている。
少し早いが昼食にすることにした。
お兄さんたちはお腹が減っていたのかお菓子をバクバク食べている。
そして俺の隣にはユウナが座っている。
もちろんサブとしてだ。
「ユウナちゃんが副管理人になったの!?」
「そうなのです! カトレアさんは修行の旅に出てしまったのです」
「カトレアさんね~。ふふっ。きっと頑張ってるよ」
なんで笑った?
というかなんで驚かない?
カトレアが出て行ったのは依頼をした日よりも後のはずだ。
……まぁそんなことはどうでもいいか。
「では今日いらっしゃったのは依頼の報告ということで間違いないですね?」
「「「「はい!」」」」
急に仕事モードだ。
一瞬で顔つきも変わったな。
心なしかたくましくなってるようにも感じなくはない。
「ではお聞きしましょうか」
「ご依頼受けました魔石の件ですが、11種類中10種類の入手に成功しました。こちらをご確認ください」
ジョアンさんは魔石をテーブルの上に置いた。
「10種類ですか。まずは確認させてもらいますね。ユウナ」
「はいなのです! 確認してくるのです!」
ユウナは魔石を袋にしまうと部屋から出ていった。
さすがに目の前でドラシーに吸収させるわけにはいかないからな。
五分後、ユウナが戻ってきた。
四人は緊張してるのか待っている間は一言も口を開かなかった。
「どうだった?」
「確かに一覧の10種類だったのです!」
「そうか。ということは達成条件である90%以上はクリアのようですね。おめでとうございます。そしてありがとうございます」
四人はホッとしたのかソファにもたれかかった。
初めての依頼達成だから嬉しい以上に安心したんだろうな。
「ねぇ! 中級者向け階層ができるの!?」
「えぇ。四月一日から実装予定ですよ」
「あれ? あっさり答えてくれるんだ?」
「ん? 町で誰かから聞いたのでは?」
「え? 昨日の夜にマルセールに着いたばかりだからまだ誰とも会ってないよ? ……もしかしてもうみんな知ってるの?」
「ん? 今月の最初あたりにみんなには話しましたからね」
「え……な~んだ。ロイス君のことだからてっきり当日までのお楽しみだと思ってたんだけどなぁ」
俺だって本当はそうしたかったよ。
中級者階層のことを誰にも聞いてないということは自分たちで導きだしたのか?
さすがだな。
……おっと、報酬を渡しておかないとな。
「ユウナ」
「……? なんなのです?」
「……報酬だよ」
「あっ! そうだったのです!」
また部屋を出ていき、報酬が入った袋を持ってくる。
「約束の報酬です。中身をご確認ください」
「「「「……」」」」
四人は中身をおそるおそる覗いている。
確認といってもすぐには無理だろうけどな。
「宿に戻ってから確認するね! それより私たちが出てからのここの様子を聞かせて!」
「色々話を聞きたいのはこちらも同じですよ。とりあえずご飯食べながらにしましょうか」
ララが作った料理をこっちのテーブルに運んでくる。
「わぁ~! 食堂では出てなかった料理ばかりね!」
「四月から出す予定の新メニューを開発中なんです。どうぞ食べてください」
四人とユウナは凄い勢いで食べ始めた。
やっぱり冒険者はみんな食べっぷりがいいな。
それから俺は最近のダンジョンの様子を話した。
「なにそれ!? 魔王復活!? 魔工ダンジョン!?」
「初めて聞きましたよそんな話!」
「「魔王か~」」
まだ知らなかったのか。
どうやら王都は情報をあまり拡散してないようだな。
冒険者ギルドの繋がりもこんなもんか。
「ここに来るまではどこにいたんですか?」
「う~んと、まずマルセールから東に行って王都に行ったでしょ。そこから北上してラスに帰ったわ。年末にジョアン君だけ北回りで西のボワールに帰って、年が明けてから私たちもボワールに行ったの。それで二月にはまたラスに戻って、三月からはまたボワールね。昨日の朝にボワールを出てそのまま南下してマルセールに来たの」
よくわからないけどこの大陸を半周してきたってことでいいんだよな?
ボワールも大きな町とは聞いてるがそこにいても魔工ダンジョンのことが伝わってないのか。
でも近くにダンジョンが出現してないってことでもあるよな。
「そういやマルセールにも冒険者ギルドができたんですよ」
「えぇっ!? 全く気付かなかった……」
「町の中心にあるらしいんで一度行ってみてください」
「あとで行ってみるね。ってロイス君はまだ行ってないってこと?」
「できたのは最近ですし、俺はマルセールの町を出禁になった可能性がありますからね」
「「「「出禁!?」」」」
そして町長との一件を話した。
「そんなの怒って当然だよ!」
「そうですよ! でも町長はお辞めになったんですよね? それなら町にも行って大丈夫なのでは?」
「まぁ特に用事もないですしね。それに今度から冒険者ギルドにも町にももっと行きにくくなるかもしれませんから」
「え? どういうこと?」
「お兄!」
「言っちゃうのです!?」
あっ……しまった。
「なんですか? 気になるじゃないですか……」
「管理人さんのことだからどうせ町に喧嘩売ってるんだろ」
「ここに町でも作るんじゃないか」
……その表現は間違いではないよな。
まさかティアリスさんとジョアンさんよりもお兄さんたちのほうに当てられるとは。
「まぁそれは今後のお楽しみということで」
「ここまで言っといてお預けなの!?」
「こっちの話はそれくらいですね。旅の話も聞かせてくださいよ」
「もぉ~! まぁいいわ。じゃあここを出てからの話ね!」
それから二時間ほど話をしてティアリスさんたちは帰っていった。
旅ってのは楽しそうだな。
ララとユウナも目を輝かせて話を聞いていた。
そのうち二人も旅に出たいって言い出すんだろうな。
そうなると俺は一人か……。
いや、魔物の仲間がいっぱいいるな。
それに従業員もいっぱいいる。
俺、ここの管理人で良かったかもしれない。