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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第五章 震撼

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第百二十一話 気分転換

 今日も地下四階のことを考えている。

 当然のように全然いい案が浮かんでこない。


「なぁ、カトレア手伝いに来てくれないかな?」


「それは思ってても口にしない約束でしょ。それにまだ三か月しか経ってないじゃない」


「そうだよなぁ~。でも結局新しい錬金術師も雇えてないし」


「う~ん、私たちが思ってる以上に錬金術師は人工ダンジョンに興味がないのかもね」


「じゃあよほど変わり者が来ることを願うしかないのか」


「……お兄が迎えに行けばカトレア姉は来てくれるよ」


「でもそれは泣きつくようで嫌だしなぁ。カトレアが出て行く前から地下四階を作ることは決まってたわけだし」


「じゃあおとなしく自分で考えなよ。私だってやることいっぱいあるんだからね」


 俺と話してる間もララはなにかを書き続けている。

 ダンジョン経営のことや新メニューのこと、それに加えて今はダンジョン酒場の案も色々考えてくれているようだ。


「ちょっと気分転換してくる」


 外に出てみることにした。

 家の前にはいつものようにゲンさんが……あれ?

 ゲンさんがいない……どこに行ったんだ?


 小屋の前にはシルバが寝転んでいる。


「ゲンさんは?」


「わふ(森の中)」


 見回りかな。

 さすがに魔王復活となっては森のことが心配になるよな。

 せっかくマナで満ちあふれたのに魔瘴に侵されることになるかもしれない。


「シルバ、散歩しに行こう」


「わふっ! (うん! 久しぶりだね!)」


 俺はすっかり散歩に行かなくなったからなぁ。

 前と違って魔物が出るようなこともなくなったし。

 朝の散歩はシルバ、メタリン、ウェルダンでいっしょに行ってるようだ。

 シルバも仲間が増えて嬉しそうだな。


「森の中は一段と空気が美味しく感じるな」


「わふぅ(癒されるね)」


「ゲンさんはどこにいるんだ?」


「わふ(あそこ)」


 ……ん?

 しゃがみこんでなにをしてるんだ?

 動かなかったら岩にしか見えないな。


「ゲンさん」


「ゴ(珍しいな。たまには運動したほうがいいぞ)」


「うん。気分転換でもしようと思って散歩してるとこ」


「ゴゴ(そうか。頭も休みが必要だからな)」


 ゲンさんと話すと落ち着くなぁ。

 森の中だといつも以上にだ。

 なんだか自分が子供でいてもいいような気さえしてくる。


「ここでなにしてたの?」


「ゴゴ(こいつらが泣いてたんだ)」


「こいつら?」


 ゲンさんの横に行ってみる。

 すると土の上に小さな生物がいっぱいいるじゃないか。


「なんの赤ちゃん?」


「ゴ(リスだな)」


 リスの赤ちゃんってこんな小さいんだ。

 まぁリス自体小さいけど。

 一、二、……六匹もいる。

 まだ目も開いてないのか。


「母リスは?」


「ゴゴ(さぁな。少なくとも二~三日は食事を与えられていないようだ)」


「えっ!? それってヤバいんじゃないのか!?」


「ゴ(かもな。連れて帰っていいか?)」


「もちろん! 早く帰ってミルクを飲ませよう!」


 ゲンさんの手の上にリスたちを乗せ、急いで帰る。


「ララ! すぐにミルクを用意してくれ!」


「ミルク? そこに入ってるから勝手に飲んでよ」


「俺じゃない! リスだ!」


「リス? ……えっ!? 小っちゃい! カワイイ! しかもいっぱい!」


「しばらく食事をしてないっぽいんだ。とりあえずタオルで体を温めるから」


「わかった! ミルクは少し温かいほうがいいよね!?」


 それから一匹ずつ順番にミルクをあげた。


「……泣きやんだな」


「お腹いっぱいで寝ちゃったみたい。ねぇ、育児放棄かな? それとも死んじゃったのかな?」


「どうだろう。とにかくもう少し大きくなるまではここで育てよう」


「うん! なんだか楽しみ!」


 俺も楽しみだ。

 思わぬ気分転換になりそうだな。

 決して考えることから逃げてるわけではない。

 新しい経験がなにかアイデアを与えてくれたりするからな。


 十八時になってユウナが帰ってきた。

 今日は久しぶりの助っ人で地下三階に行ってきたようだ。

 帰ってきてすぐソファに深々と座り込んだ。


「う~ん、やっぱりなにか攻撃魔法覚えたいのです……」


 一人でブツブツ呟いている。


「でもきっと無理なのです……となると杖に頼るしかないのです……」


 大魔道士への道のりはまだまだ遠いようだな。


「汗かいたのでお先にお風呂いただくのです」


 そして風呂へ向かっていった。


「……嘘だろ?」


「攻撃魔法のことで頭がいっぱいでなにも目に入ってないみたい……」


 テーブルの上にはリスの赤ちゃんが六匹もいるというのに……。

 ある意味凄い集中力だな。

 周りが見えてないのは致命的だが。


「杖といえば木工職人も来たことないよな」


「だから職人さんがダンジョンになにしに来るの」


「さすらいの木工職人とかいないかな? いい木を求めて世界中を旅してるんだ」


「……木を求めてるんだったら来る可能性あるかも」


「大樹だろ? でも神聖なイメージがあるからこれを使おうとは思わないよなぁ」


「ダンジョンで育てたらどうかな? 大樹とまではいかないまでもそれに近いくらいマナを秘めた木を」


「ドラシーに聞いてみるか」


 すると呼び出す前に目の前に現れた。


「ちょっ! ドラシー! 下! どいて!」


「え? ……ああっ! ごめんなさい!」


 一匹踏まれた……。

 …………無事なようだ。


「気をつけてくれよ」


「小さすぎるのよ……。それより木のことね。いいわよ。挿し木で育ててみて。大樹の中で大樹を育てるなんてなんか変な感じだけど。はいこれ」


 ドラシーは小さな木をくれた。


「ありがとう。場所はどうしようか?」


「物資エリアが無難じゃない?」


「……今後も物資エリアの施設は増えるだろ? この木を中心に植えてぐるっと一周できるようにしようか」


「それいいかも! 横に増えていくのも味気ないもんね!」


「じゃあ早速植えてくるよ。夕飯の準備頼んだ。ミルクもな」


 物資エリアにやってきた。

 厨房ではミーノとリョウカが掃除をしているようだ。

 うん、いつも清潔に頼むぞ。


「あれ? こんな時間にどうしたの?」


「木を植えに来たんだ。ほら? ドラシーに大樹の枝を分けてもらった」


「へぇ~。ってロイス君? 右手の服にぶら下がってるのはなに?」


「ん? ぶら下がってる?」


 右手には木を持ってる。


 ……あ、肘らへんに……。


「リスだな」


「「リス!?」」


 一匹くっついてきてしまったようだ。

 結構力があるんだな。


「触ってみるか?」


 二人はキャーキャー言いながら指で撫でている。

 リスは任せて俺は木を植えに行こう。


 ……このあたりだな。

 地面に木を植え、大樹の水をやる。


 …………さすがにすぐには大きくならないか。

 今までの傾向からしたらすぐに大きくなるんじゃないかと思ったがそうではないようだ。

 これから毎日水をあげにくることにしよう。


 今日はリスと知り合ったり、大樹を植えてみたりといつもと違う体験をした。

 これでなにかいいアイデアも浮かんでくれるんじゃないかな。


「ロイス君」


「ん? ほら見てくれ、ここに大樹を植えたんだ。今後このエリアに作る施設はこの大樹を中心にぐるっと作ってくからな」


 身振り手振りでリョウカに伝える。


「うん、いいと思う。大きくなるのが楽しみだね」


「あぁ。……ん? なにか話があるのか?」


「うん。ダンジョン酒場のこと聞いたよ。ギルドそっくりにするらしいね」


「あ~それな。ララとユウナが作るって聞かないもんだからさ。依頼はダンジョン討伐くらいしかないだろうから他になにかできないか考えてるところなんだよ。その依頼も冒険者たちは町からここに来て確認しないといけない分、こっちがだいぶ不利だしな」


「でも報酬はこっちのほうが良くなる予定なんでしょ? それならみんなここの依頼を受けるよ。ところでさ……私も提案とかしてもいいのかな?」


「提案? 酒場関連で?」


「酒場とは少し違うんだけど……」


 そういやこの間もリョウカはなにか言いたそうだったよな。


 もしかして不満があるのか?

 給料が安すぎるとか?

 それとも労働時間が長すぎるとか、もっと休みが欲しいとか?

 人間関係で悩んでるのか?

 普段おとなしくて優等生キャラなだけになに言われるか想像つかない……。

 ……こわいな。


「な、なんでも言ってくれよ……え、遠慮しなくていいからな?」


「なんで少し怯えてるの……」


「え……そうだ、リス可愛かったろ? 一匹育ててみる?」


「……宿屋作ったらどうかなって」


「え? ……宿屋? 宿屋を作る?」


 宿屋って人が寝泊まりするあの宿屋だよな?

 宿場町と呼ばれるマルセールが売りにしてるあの宿屋だよな?

 リョウカの家のあの宿屋だよな?


「うん。それなら冒険者のみんなもわざわざマルセールから通わなくていいしね。それにこれからマルセールにはもっと人が集まるでしょ? 駆け出しの初心者の子たちが泊まれる価格の宿屋はそんなに多くないもの。このダンジョンに来ることが目的ならここに泊まれたほうが絶対いいと思うの」


 ……正直、毎日通ってくれる人たちを見てそれを考えたこともあった。

 だけどすぐに考えるのをやめた。

 だって徒歩一時間かかるとはいえ近くに宿場町があるんだぞ?

 こんな森しかないところに泊まりたいなんて普通誰も思わないだろ?

 それに町のお客を奪うことはしたくなかったし。

 そもそも宿屋を作るためには膨大な魔力が必要になるだろうし。


 だからどうしても移動時間短縮のための馬車運行に考えがいくようになった。

 結局それも実行できてないが。

 ララやユウナがそんなの甘すぎって言うんだよなぁ。

 ユウナなんか遠いのが嫌でここに住みたいって言ったくせに。


 ……やっぱりみんなもそう思ってるのかな?

 この場所に住めるユウナのことが羨ましいとか思ってる人もいるよな?

 ユウナだって小屋でもいいから寝泊まりさせてほしいって言ってきたんだし。

 しかもお金を払うとも言っていた。

 ユウナは年齢のこともあるからみんななにも言わないが不満に思ってる人もいるかもしれない。


 あ~、悩んでいても仕方ない。

 一度冒険者のみんなに直接聞いてみるか?


 その前に本当に宿屋が作れるのかどうかだ。

 魔力的な問題も含め、従業員の問題もある。


 今度はリョウカが少し怯えたように俺を見ている。

 俺にどういう反応されるか不安でいっぱいなんだろう。

 いつの間にかミーノも来ているではないか。

 ……この様子はリョウカから相談されていたのかもしれない。


 ……ミーノの手の上で寝てるリスが可愛いな。


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