6.ハッピーエンド
最終話です。
魔法使いさんは私が彼からのキスで倒れた翌日、すぐに結婚するぞというと、旅の途中で見かけた教会へと連れていった。
神様の前で、私たちは誓いの言葉とキスを交わし正式な夫婦になったのだが
それ以来彼はいっそう変な方向に暴走しだした。
「魔法使いさん魔法使いさん。なんで魔法使いさんは、大股で私に近付いてくるの?」
「それはあんたが逃げようとするからだ」
王子様体型の彼と幼女体型の私では、足のリーチが違いすぎるのに、彼は容赦なく近付いてくる。
私の奮闘もむなしく、すぐに壁際に追い詰められた。
「魔法使いさん魔法使いさん!なんで魔法使いさんは、手を私の肩に置いているの?」
「それはあんたを逃がさないためだ」
先程とたいして変わらない答えを口にした狼さんは、座り込んで立てなくなってしまった私の近くに跪くと、愛しい者を見つめるかのような瞳を向けてくる。
「魔法使いさん!魔法使いさん!なんで魔法使いさんは、顔を私に近づけてくるの!?」
「そんなの決まってるだろ」
チュッ
「あんたとキスするためだ」
魔法使いさんは満足そうな顔をすると、朝の朝食の準備に行った。
そう、なぜか魔法使いさんはキス魔と化したのである。
私は最初の一回以来受け身の姿勢しかとれていなく、今のところ1勝と89敗目だ。
キスされそうになると逃げる私を、意地でも追いかけいじめたくなるらしい。
魔法使いさんの好意の示しかたは小学生並みだと思う。
朝の挨拶と言わんばかりにキスを仕掛けてくる魔法使いさんと、恥ずかしくて逃げ出してしまう私でこのおいかけっこは恒例になりつつある。
朝からすでに私の体力は0に近い。
ちょうどいいタイミングで魔法使いさんから声がかかる。
「朝食出来たから、冷める前に早く来てくれ」
「わーい!」
直ぐ様リビングへ向かう。
魔法使いさんの料理の腕前はメキメキと上がっていて、胃袋は完全に捕まれている。
彼の料理が出てくるだけで、大抵のことは許せてしまう。
「「いただきます」」
今日の朝食は野菜たっぷりサンドウィッチとポトフだ。
「これ、ずっと隠してたがその必要もなくなったし、あんたにやる。」
食事を始めてすぐ魔法使いさんはそういうと、私に何日分かの新聞を渡してくる。
今までこの世界にも新聞がある事実を知らなかった私は愕然とした。
そこには、旅の最中に巨大化させた野菜の、その後どうなったのかに関する記事が載っていた。
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οοхх年秋月∫日
フスラン王国の王子がついに結婚!
~恋のキューピッドは巨大カボチャ!?~
先日、フスラン王国の王子が3日間にも及ぶ大舞踏会を開いた。王子の花嫁探しを目的としたこの舞踏会は、この国にいる結婚適齢の全女性が参加した。
そこで、彼の心を射止めたのが巷で噂のシデランレという10代の女性だ。
最初彼女は告白しようとした王子から逃走を図ろうとした。長い階段の途中でもたついてガラスの靴が脱げてしまったが、無事馬車にたどり着き、城から脱出したという。一方王子側は手がかりに片方残ったガラスの靴しかなく、彼女を再び見つけ出すのは絶望的かと思われた。
だが、運命がそれを許しはしなかった。走行途中でシデランレにかかっていた魔法が溶けてしまったのだ。ただ、それだけなら、彼女は歩いて家にたどり着いてしまっていただろう。しかし、幸いなことにも馬車の役割を果たしていた巨大カボチャのおかげで、シデランレを追いかけていた王子は、彼女をすぐに発見できたという。
数あるなかでなぜ巨大カボチャを馬車に使ったのか、シデランレに魔法をかけた西の魔女に話を聞いてみることにした。
「面白そうだったからよ。それ以外に理由はないわ。」
「本当にそれだけなんですか?」
「まぁ、力試し的要素があったのは否定しないわ。あの野菜は故意に、誰かが巨大化させたものよ。物凄い魔力があのカボチャから感じたわ。だからこそ、その魔力を含め操れるか自分の力量を試したかったの。」
「恋のキューピッドはカボチャを巨大化させた誰かということですか?」
「そうね。でも、どっちにしろ王子とシデランレは結婚出来たと思うわ。巨大カボチャはそれを早めた効果しかないと思うわ。」
取材から王子とシデランレは結ばれる運命だったということ。巨大カボチャはその手助けをしたにすぎないという。西の魔女らしい、未来を予測した発言が目立った。西の魔女は、2、3質問に答えるとすぐホウキで飛び去ってしまった。魔女は自由すぎるところがある、今後対策を考えていかなければならない。
後日執り行われる王子とシデランレの結婚式では、馬車として実際に使用した巨大カボチャを使って、カボチャプリンをウエディングケーキとして振る舞うらしい。
また、我々取材班は恋のキューピッドになった人物を探している。我こそがと名乗り出るか、もしくはそのものに関する情報提供を持っているものは、こちらの住所までご連絡ください。
→フスラン王国パリパリ都ヌーレ川沿いローぺビル2F夜月新聞まで
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「恋のキューピッド...」
「おめでたい話だ」
魔法使いさんは、恋のキューピッドになった自覚があるのだろうか?....いや、ないな。
彼は今、夕食のデザートにカボチャプリンを作るかどうか思案している。
それに20年以上前の記事だ。もう時効だろう。
私は次の紙面に目を走らせる。
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οοхΧ年春月∬日
カブ祭り開催!
優勝カブは全長100cm重さ2469g!!!
シロア国で3年前から行われるカブ祭りが今年も執り行われた。2万人以上もの人々が開催地であり始まりの場所でもある辺境の村を訪れた。
このカブ祭りは4年前ガチフョプという寂れた村に、巨大化したカブが突如出現したことから始まる。この衝撃的事件は過疎化した村に、あっという間に広まった。食料不足に悩んでいた村はこの嬉しいニュースに湧いた。この写真はすでにご存知の方も多いだろうか。
↓
ガチフョプ村の人間だけでなく、犬や猫、ネズミまでもが巨大カブを引き抜こうとする写真
これはたまたまこの村に訪れていた、旅人が撮った写真だ。抜けたカブは現場にいた人たち全員に、カブ汁として振る舞われた。この話は各地で広まり、後にあの巨大なカブは神様からの贈り物だと言われた。
これにかこつけて、ガチフョプ村では春になるとカブ祭りを開催している。メインイベントとして巨大なカブの大きさや重さを競う大会が催され、その後、大会にエントリーしたカブたちは祭りの来場者たちへカブ汁にして振る舞われる。これは神様からのお恵みを体内に取り込むことが目的だ。
第3回カブ大会には28もの農家が参加した。今回優勝したカブは、全長100cm重さ2469gという、大会開催過去最高の成績を打ち出した。このカブを育てた、ガチフョプ村のアセレイクさん(27)に、今の気持ちを聞いた。
「とっても嬉しいです。ですが、今や伝説となったあの巨大カブには遠く及ばないので、まだまだ改良の余地があると思っています。来年も優勝目指して頑張りたいです。」と来年の意気込みを力強く語ってくれた。
この祭りは今日を含め、あと2日間開催される。我々も天の恵みを頂きに、カブ祭りに参加しよう。
また独自のルートで手にいれた情報によると、カブを巨大化させたのは、スフラン王国でカボチャを巨大化させた恋のキューピッドと同一人物だと言われている。今後は夜月新聞と手を組み、この人物を探していきたいと考えている。下記まで情報提供を求む↓
シロア国モスワーク都イショボリ劇場近くストイトル家買読新聞まで
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その他にも
天空の落とし物?
空には巨大都市があった!
~ジャック氏豆の木をつたって4回目の挑戦~
宇宙人の移住計画、本格始動!?
カアスの地上絵に続き野菜巨大化!
など様々な報道があった。
新聞から顔をあげる。
私の気配に気付いた魔法使いさんは、食事の手を止め、こちらに顔を向けた。
「あんたの夢は叶ったか?」
「なんか思ってたのと違う。それにお尋ね者になった気分....」
私はこの世界の食料難を少しでも改善したかっただけなのに。
なぜか全く関係ない童話にまで影響を与えてしまったようだ。
「あんたとだったら、地獄の果てまで着いていってもいい」
魔法使いさんも検討違いな言葉をかけ、励ましてくる。
どうして?どこで間違えたの?と一人頭を抱えていると
『コンコン』
とドアが鳴った。
ここに来て始めてのことだ。
「魔法使いさんのお客さん?」
「そんなわけがない。あんたじゃないか?」
「それこそないよ。迷い人かな?」
とりあえず、魔法使いさんがドアを開ける。
バンッ!
「誰だっ」
警察官バリのドアの開け方をした魔法使いさんは、その緊張感のまま相手に問いかける。
静寂だけが周囲を包んだ。
そのまましばらく魔法使いさんと訪問者によるにらみ合いが続いたが、相手の方が根負けしたようだ。
「今晩泊めてもらえませんか?」
低みを帯びた男性の声が響いた。ついで女性の声も聞こえる。夫婦だろうか。
「お願いします。家事でも何でもしますので、一晩だけ泊めてください。」
「.....」
魔法使いさんは悩んでいる。多分私の許可なしに勝手に泊まらせていいのか悩んでいるのだろう。
私は彼がいる玄関へ向かった。
ドアの隙間から、年期ものだとわかる長いローブを被った男女が見える。
交渉は難航しているようだ。
魔法使いさんの服の裾をクイッと引っ張り、こちらに視線を向けさせる。
「泊まらせてあげれば」
「っ!いいのか?」
「うん、あなたさえ良ければ」
「わかった」
私たちの間で、この夫婦を泊まらせる算段をつけていると、女性の方の肩が揺れ、後に震えた声が出る。
「おねえ..ちゃ..ん...」
隣の男性が、すごい勢いで女性の方を見る。
「はぁ?!何言ってんだ。俺たちの姉ちゃんが、こんな幼女なワケねーだろ。」
「わかってるっ!わかってるけど...!お姉ちゃんにそっくりなの。もしかしたら....ねぇ、そこのお兄さん。」
「なんだ?」
どうしたんだろう?お姉ちゃんて誰のこと?私の疑問をそのままに旅の女性は魔法使いさんに問いかける。
「あなたのお母さんは今どこに「はあ!?お前、姉ちゃんが結婚してこの子供らを産んだとか思ってんの?」
いきなり旅の男性が叫ぶ。
この二人は夫婦じゃなくて、兄妹なのか。
ローブで姿が隠れているため、会話からでしか判断が出来ない。
だが遠慮のない言い合いからは、二人の仲の良さと長年一緒に居たからこその気負いなさを感じた。
魔法使いさんは二人の会話についていけてないようだ。頭上には、たくさんの疑問符が浮かんでいる。
それに、このままだとさらに二人はヒートアップしそうなので、私は手をパンパンと叩き、皆の意識をこちらに反らした。
「はい!そこまで~。彼が困ってるでしょう。二人とも喧嘩しないの!」
「「えっ」」「いや、別に」
魔法使いさんは、大人数での会話に慣れていないようだ。ああいう輩にはもっと主張しないと。
一方で男性がこちらを呆然と見ている。女性も彼と同様だ。
なんだかんだ言って、似た者同士なのだろう。
「あなた!しっかり困ってるときは困ってるって言わないとダメ!..まったく。はい、そこの二人手を出して」
彼らはおとなしく私の前に片手を差し出す。
私は彼らの腕をもつと握手するように向かい合わせにし、お互いの手を無理矢理握らせる。
「はい、仲直り」
これで大丈夫だろう。私の双子の弟と妹もこれをすると、憮然とした表情をしつつも、言い合いは止めていた。
よかったよかった万事解決と思っていると、魔法使いさんがこれは何だと聞いてくる。
「これは仲直りの握手」
「仲直りの時に握手をするのか?」
「そうだよ。だって本当に嫌いな人とは握手しないでしょ?」
「ああ」
「だから、握手できるくらいには仲が直りましたっていうのを、目に見える形でやってもらうの」
「わかった」
わかったって何が?
と思っているとなぜか魔法使いさんは両手を胸の前で広げていた。
「何してるの?」
「あんたを待っている」
魔法使いさんは何を待っているのだろう。
彼との会話は簡潔すぎて、たまに意味がわからない。とりあえず彼と同じように胸の前で両手を広げてみる。
あ、はにかんだ。
どうやら、私の行動は魔法使いさんが望んでいたものだったらしい。
この後どうするのだろうと考えていると、いつの間にかすごく近くに彼がいた。
そして彼の手が私の手を握りしめ、互いの指が入り組む。
所謂恋人繋ぎと言うやつだ。
「俺はあんたと至近距離で両手を握りしめることが出来るくらい、いや、本当は抱き締めてキスしたいくらい、もっと、それ以上のことがしたいくらい、仲がいい」
笑い飛ばしたいくらいなのに、彼の顔はあまりに真剣で、私は顔を真っ赤にしながら彼の足をグリグリ踏みつけることしか出来なかった。
「お~い「あんた止めなさいよ。馬に蹴られたいの」...だって、さすがに俺でも、身内の恋愛を見るのは居たたまれないっつーか」
完全な空気になっていた旅の二人は寄り添いながら、何やらコショコショ話をしている。
完全に仲直りが出来たようだ。
私は魔法使いさんの手を振り切って、彼らの前に立つ。
魔法使いさんが後ろの方で何やら文句を言っているが無視だ無視。これ以上彼を付け上がらせると、後々困るのは私だ。
それより、目の前の二人をどうにかしなければ。
とりあえず家の中へ入ってもらおう。
「お待たせしてしまい、すみません。どうぞ中へ...っ!」
と言葉を続けようとしたが、その前に女性が私の肩を掴んだ。
私マジマジと見た上で本物だと呟く。
私はとりあえず彼女の手を肩から離そうと万歳のポーズをとった。
すると、彼女は目をキラキラさせ
「お姉ちゃん!会いたかった!!」
と、いきなり私を抱き締めたのだ。
あまりのことに呆然とするしかない。
今日、私の心臓は働きすぎでストライキしそうだ。
男性が彼女の肩を掴み引き剥がしてくれた。彼女への扱いが雑だが、今だけは大変助かった。
後ろの方で魔法使いさんからの謎の圧力と危険な気配を感じる。あと一秒遅かったら私の心臓が完全にストライキするところだった。
その後、魔法使いさんはツカツカと歩いてくるなり、後ろから私を抱き締め離そうとしない。
こちらから顔を見ることは出来ないが、何となく恐がっているように感じた。
手が少し震えている。
彼らも魔法使いさんのただならぬ雰囲気に気付いたようだ。
彼らはフードを取ると、なぜかぎこちない顔をしながら自己紹介を始めた。
「お、おれ、、俺たちは怪しいもんじゃない」
「お兄ちゃん、それ、完全に不審者の発言だから」
「しょうがねーだろっ!だって、あいつ完全に表に出しちゃダメな顔してんだよっ」
「私からも同じ顔見えてるから、いちいち説明しないで!それに、わざとお姉ちゃんしか見ないようにしてるんだから」
「おまっ...ズルッ!」
「私だけじゃないわ。筆者だって、怖くてワザと表記してないのよ」
「何だとっ!俺だけこの恐怖を味わえというのか!?」
自己紹介かと思ったのだが、よくわからないことをゴチャコチャ喋りだした。
それに、長年一緒に暮らしているが魔法使いさんの恐い顔なんて見たことがない。
いい加減飽きてきたので、思わすあくびをしてしまった。
失敬失敬と心のなかで平謝りしていると、なぜか彼らから「「ヒッ」」と息を詰めたような音がした。
私は何かしてしまったのだろうか。
「すみません。すみません。俺たちはただ姉ちゃんにやっと会えたってハイテンションになってしまっただけなんです」
「そうなんです。その勢いで、思わずお姉ちゃんに抱きついてしまっただけなんです。他意なんてありません。本当なんです。赦してください、お願いします」
彼らは何故か謝罪を繰り返すと、これまでの謎の行動について弁明してきた。
だが、私には未だわからないことがある。
「ねぇ、お姉ちゃんって何のこと?」
彼らは少したじろいだようだったが、顔を見合わせた後、意を決したような顔で男の方から名乗り出した。
「俺とコイツは双子なんだ。それで俺が兄のグレテールだ」
そこに伸ばし棒を入れてはいけなかったと思う。将来が心配になる名前だ。
「私が妹のヘゼルン」
かわいいな。語尾にルンがつくとか、顔だけじゃなく名前までアイドル向きだ。名前が少し違うけど、きっと、あの有名な童話の双子のことだろうな。
うん?グレテールとヘゼルン?!
「私の弟と妹のグレテールとヘゼルンなの?!」
「やっとか~」
「うんっ!うんっ!よかった~」
妹は私が二人のことを覚えていたことに安心して泣き出してしまった。弟の方も少し涙ぐんでいる。
少しだけ申し訳なく思う。でも、しょうがないよねっ!まさか私の弟と妹があの有名な双子だと記憶が戻る前は知るよしもないし。
そもそも、あの童話とは名前が男女逆になってるし、私が知る弟と妹は5歳で、あどけない顔をしていた。これは、気づけなくても誰も私を責めることは出来ないと思うの。
「そっか~、弟と妹がこんなに大きくなってるなんて、知らなかった」
「俺らも、姉ちゃんがそんなに成長してないなんて思わなかった」
「本当お兄ちゃんはデリカシーがないわね。この少女が大人へと変貌していく過程の、ちょっと危うげな雰囲気がいいんじゃない、ねぇ?えっとー、お姉ちゃんの彼氏さん?」
「旦那だ」
「そうそう、旦那さん....って、えっ!?」
「ああ、いつ見ても俺の奥さんは愛らしい」
やたら魔法使いさんは私との関係を強調してくる。しかも私が二人のことを家族だと認めた時から腰に回った腕の力が尋常じゃない。
彼らの正体が判明したことで駆け出して弟と妹を抱き締めようとしたら、私の腹に彼の腕が食い込んで、思わず吐き出すところだった。
魔法使いさんはそんな私のお腹をそっと撫でてくれたけど、あなたのせいだからね!?
顔が真っ赤になっているのも、決して初めて夫婦らしい呼び方をされて照れてるんじゃなくて、先程の気持ち悪さが原因なんだから。
「姉ちゃん、いつの間にか結婚してたのか。家をいきなり飛び出して、もしかして野垂れ死にしてるかもなんて心配してたのに...」
「さすがね、お姉ちゃんは昔から強運だったもの」
「何でだろう。誉められているはずなのに、そう感じないのは」
「大丈夫だ、あんたのことは俺がこれからも一生面倒を見続ける」
一番ひどいのは、実は魔法使いさんではないだろうか。将来私ものあの魔女のようになりそうで恐い。
「どうする?お前聞けよ。妹だろ」
「はあ?ありえない。お兄ちゃんが聞きなさいよ」
「死ねっていうのか!?」
「そっくりそのまま返すわ」
また彼らはコショコショ話を始めた。
仲間外れのようで少し悲しい。
だが、これが空白の時間によって生じた、今の彼らとの距離なのかもしれない。
弟は大きく息を吐くと、これまでのことを語り出した。
「姉ちゃん、あの後母さんは流産して、そのまま父さんと離婚したんだ。俺らは父さんとあの家で暮らしている。
もしかしたら、姉ちゃんが帰ってくるかもとずっと待ってたんだ。食料も何故か巨大な野菜が村に届けられるようになったから、健康的な生活を維持できたしな。
だが、10年くらい前に父さんが死んだ。最後まで姉ちゃんのこと悔やんでいた。だから、俺らは姉ちゃんを探しに旅に出ることにした。
そしてようやく見つけたんだ。まさかこんな家に暮らしてるなんてな。どうりで、見つからないわけだ。
今さらになったけど、一応。家に帰るきはっ...無理!これ以上は無理」
「諦めるの!?」
「俺が姉ちゃんに、家に帰る気はないかなんて聞けるわけがないだろっ!見てみろヤツの顔、さっきの比じゃないぞ」
「抱きつかないでよ気持ち悪い。死ぬならお兄ちゃんだけにしてよね」
「ぜってー、離さねー」
顔云々の話は何を言っているかわからなかったが、どうして旅をしていたのかわかった。
要するに、弟と妹は私を探すために旅に出たのだろう。で、家に帰らないかと誘っているのだ。
これが魔法使いさんに出会ったばかりなら、お母さんもいないし、家族が私を待っててくれる、あの家に帰ったのだろうか。
...多分帰らなかっただろうな。
魔法使いさんとの出会いは、今思い出してもかなり強烈だった。あのときから、既に運命的なものを彼に感じていた気がする。
何も言わなかったが、私の表情を見て察したのだろう。
「でも、そっか~、姉ちゃん幸せなんだな。旅続行するか?」
「する!確かに当初の目的はお姉ちゃんだったけど、私たちにはもう一つ目的があるでしょ!」
「もう一つ?」
「姉ちゃんは知らないかもしれねーけど、あの野菜巨大化事件の犯人を探してんだよ」
「えっ」
「犯人って失礼よね。救世主の間違いよ!」
「別にどっちでもいいだろ」
「よくない。私たちの村だけでなく、この世界の人々を救った神様のような人なのよ」
「何で、そ、そんな人を探してるの」
「お姉ちゃん顔真っ青だよ。大丈夫?」
「大丈夫だ、衝撃的事実を知って混乱しているんだ。そんなことより、何故救世主とやらを探してるんだ?」
魔法使いさんは私がこの家を出ていかないとわかってから、心に余裕が出来たようだ。腕の拘束が緩んだばかりか、私のフォローまでしてくれる。これがスパダリか。
「野菜巨大化が始まって以来、各地で捜索願いに加え、懸賞金まで出したんだ。食料難だったからな、見つけ次第、国で管理もとい保護したかったんだろう」
つまり弟と妹は金目当てで、私たちを探しているのだろうか。
「そしたら、とある魔女が名乗りをあげたのよ」
「とある魔女?」
「なんか自分の方がもっと巨大な野菜を作れるって言ってたな」
まさか、虚偽の証言ではなく、あくまで自分の方が実力は上だと申告しに行くとは。魔女のプライドの高さを垣間見た気分だ。
「そう、それを皮切りに多くの魔女や魔法使いがこぞって自分の方がスゴいって言うのよ」
「それで、何故か野菜巨大化大会が開催したんだ」
「楽しそうだ」
魔法使いさんはソワソワしている。多分大会に参加したいのだろう。こう見えて魔法使いさんは賑やかなところを好む傾向にある。
「優勝者は確か極東の魔女だったか?」
「東洋の魔女よ!何よ極道って」
「極東って読むんじゃねーの?」
「それを読むなら『ごくとう』よ」
二人のトンチンカンなやり取りを見て懐かしく感じる。
それはそうと、東洋の魔女と言うと、たぶん大黒柱を魔女にくれた人のことだろう。
「優勝者は何かもらえたのか?」
「いや、願い事を全世界のトップに叶えてもらうことができる」
どれだけ野菜を巨大化させたのが、スゴいことなのかがわかる。どこの国でもほしい人材なのだろう。
「東洋の魔女は何を頼んだの?」
「魔女や魔法使いにだけ頼るのではなく、自分達で今の食料問題を解決することよ」
「!」
それは私があの旅で成し遂げたかったことだ。いつか自分の手で叶えたいと思っていた。
「そのあと東洋の魔女の願いは世界を巻き込んでの一大プロジェクトになったわ。研究費用は全額募金だったけどね。
いろんな国が我先にと出資したんだけどね。一応私たちも旅の途中で募金やボランティアをしたわ。
魔女や魔法使い、有名な学者、農家の人々全員で食料に関しての研究を行ったの」
「そのお陰で、ヒンシュカイリョウだったか?要するに、どんなに辺鄙で痩せた土地でも育つように、植物を変化させたんだ」
「じゃあ...」
「もちろん、巨大野菜が育つまでには至ってないよ。
ただ、食料で悩む人はいなくなったと思う。
前のお姉ちゃんみたいな理由で、家を追い出されたり、不当な扱いを受ける人はもういないよ」
頬に何かがこぼれ落ちる。
嬉しいのか悲しいのか自分のことなのにわからない。
魔法使いさんはそんな私の頭をただただ撫で続けてくれた。
ある程度落ち着くと、肝心なことに答えてもらっていないことに気づく。
「それで、何で旅を続けるの?食料不足は解決したんでしょ?」
「そうなんだか、未だ俺たちの村や周辺の国々の野菜を巨大化させた人物が見つかってないんだ」
まぁ、今日になってようやく、世間ではスゴく騒がれていることを知ったし、魔法使いさんも名誉とか賞金に興味はない。
名乗り出ることは不可能だし今後もないだろう。
「その人を探すの?」
「ええ」
「何故だ?」
私と魔法使いさんの純粋な疑問だった。
だが、何故か私たちのことを見た弟と妹は顔を見合わせるとクスクス笑いだす。
「だってなぁ」
「ねぇ」
「「ありがとうって言いたい」」「じゃん」「でしょ」
目を瞬かせた。何を言われたのかわからなかった。感謝?あの自己満でしかない行動が?弟と妹がそんな私たちの様子を見て笑い転げているのを呆然と見ることしか出来なかった。
「ぶっ...ふふっ..無理、ぶッ..アハハハハハは」
「笑いすぎ...フッ...ふふっ」
「ヒーッ、だって、姉ちゃんとお兄さんの動きシンクロしすぎでしょ..ハハッ」
「本当、仲良しだよね。フフフ、なんか安心しちゃった。お兄さん危ない人だと思ってたけど、なんだかんだ言ってお姉ちゃんと似た者同士なのね」
「変に抜けてるところとか、な」
「ね」
よくわからないが、魔法使いさんは私の旦那として認められたらしい。
彼らは満足そうな顔をすると、一晩だけ泊まり、「「ありがとうございました」」と礼儀正しい挨拶と手紙を残して、また旅に出た。
「手紙」
「何て書いてあるんだ?」
封筒から2枚の便箋を取り出す。1枚はグレテール、もう1枚はヘゼルンからだ。
2人で一緒に読む。途中からどちらの手紙も魔法使いさんへ渡してほしいと書いてあり、そこの部分だけはいくら頼んでも見せてはくれなかった。
読み終わって、また涙腺が崩壊してしまった。
「ううっ..」
「よかったな」
「うん!」
手紙に、私の旅は多くの人を助ける結果になったことが記されていた。自己満だといっても、実際は不安で一杯だった。
もしかしたら、私の行動が余計悪い結果へ向かう可能性だってゼロではなかった。
だからこそ、手紙を読んで、弟と妹、それに魔法使いさんに、とてもとても感謝した。
「ありがとう」
「?」
私はよく理解が出来ていない魔法使いさんに近づく。
「愛してる、これからもよろしくね旦那さん」
と耳もとで誓いの言葉を囁くと彼の頬にキスをした。
この後キスだけではすまなそうな予感がする。
そうやって、私たちは亀並みの歩みで少しずつ大人の階段を一緒にのぼっていくことになるのだろう。
彼の腕に抱き締められながら、私はそっと目を閉じる。
悪の魔女は物語が動き出す前から速やかにこの舞台から降りていた。
お菓子の家は何故か野菜の家へ変貌してしまった。
この家を訪れた双子は、とても頼もしい姿でやって来たうえ、また旅に出てしまった。
いろんなことがあったけど、一つもあの童話の通りにはならなかった。
子供たちの教訓になるようなこともない。
世界で読まれる本にはなれないだろう。
でも、こんな結末の方がハッピーエンドだと私は思う。
だから、この物語を変えてくれた、この世界を救った、私の人生をキラキラと輝かせてくれる魔法使いさんに満面の笑みを向けた。
彼は目をそらさずにはにかみながら、あの時と同じ誓いの言葉を口にした。
「俺も、あんたを愛してる。これからもずっと....よろしく、奥さん」
彼は私の唇にキスをした。
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姉ちゃんと義兄さんへ
2人に最大級ののことを感謝の気持ちを伝えたい。本当にありがとう。これからも、お幸せにな!
続きは義兄さんへ渡してくれ
姉ちゃん泣かしたら赦さねーから
姉ちゃんのこと今までありがとう、これからも頼んだ
グレテールより
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お姉ちゃんとお姉ちゃんの旦那さんへ
お姉ちゃん、お姉ちゃんの旦那さん、素敵なプレゼントありがとう。村の皆も2人のお陰で、誰一人飢餓で苦しむことはなくなったよ。
お姉ちゃんのことだから、本当は自分で何とかしたかったとか思ってない?
あの時言わなかったけど、東洋の魔女は全世界に向けてスピーチをしたことがあったの。そこでね、今回このような願い事をしたのは、紛れもなく私の他に最初野菜を巨大化させた人物がいたからこそだって。そうでなければ、私がこのような機会に恵まれることも、また人々からこれほど関心を集めることは出来なかったって。
だから、お姉ちゃんがしたことは決して無駄じゃないよ。
お姉ちゃんたちのお陰で、今の世界があるの。本当にありがとう。この事は私たち家族の永遠の秘密にしとくから。お兄ちゃんもああ見えて口は固いから、安心してね。
目的はなくなったけどこれからもお兄ちゃんと一緒に旅を続けるつもり。お姉ちゃん見てたら、私も早く結婚したいと思ったの。だから、お兄ちゃんはお嫁さん、私は素敵な旦那様を探しにね。
あと、遅くなったけど結婚おめでとう!!赤ちゃんできる頃には、またこの家にお邪魔するから、それまで元気でね!
この後はお姉ちゃんの旦那さんだけ見てね
お姉ちゃんに何かあったら、すぐ迎えに行くからよろしくね☆
あと、お姉ちゃんは押しに弱いから攻めて攻めて攻めまくれば、何だかんだ言いながらも受け入れてくれるよ!頑張ってね
ヘゼルンより
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ポイント、ブックマーク初めてもらえたので、とても嬉しかったです!少しでもご期待に添える作品になっていれば幸いです。
最後までお付き合いくださった方々、本当にありがとうございました!!