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14(7月1日・月)

 梅雨空が続く。不安定な自転車で傘を差して学校へ向かう。この街の人はほとんど、自転車で傘は差さない。


 騒々しい朝の靴箱で、珍しく声をかけてきた生徒がいた。クラスの前田富美男だ。軽いノリの、悪い連中の中で中堅どころだ。前髪がいつもテカテカしている。


「関口。ワイ、斉藤とつき合うとるとやろ?」


 即答で、


「いや」


 そう返したが、


「土曜に天神におったろうもん。隠すなさ」


 見られていたのか、と思ったが、


「買い物のつき合いだよ。それだけさ」


 ありのままを答えた。


 教室へ行き、カバンを机の横へ下げ、一時間目の用意をしていた。近づいてきたのは斉藤知恵だ。


「昨日はありがとう」


 無遠慮に席を立ったことは責めないらしい。その顔には笑みが見て取れる。


「別にいいんだけど」


「それでね。こないだ水着見てて思ったんだけど、夏休みになったら海に行かん?」


「悪い。俺、紫外線に弱いんだ」


「そう……」


 決して肉体的な話ではないのだが、例えればカミュの『異邦人』だ。太陽というものが自分にとっては不健康なものに思えてしまうのだった。


「それに夏休み中は塾もあるし」


 そんなものはない。


「そうよね。関口君、志望校決めたと?」


 彼女は長い髪をひと振りして決めポーズのように小首を傾げた。大抵の男はこれで落ちるだろう。よく自分を知っている子だ。


「国公立で行けそうなとこ探してるよ」


 そこでチャイムが鳴り、彼女は席へ戻った。最前列の廊下側だ。何となく、できる生徒の雰囲気が満ち満ちている。実際、優秀な生徒だ。


 昼になると、そう優秀でもない生徒が弁当を抱えてやってくる。すでに馴染んだ光景だが、そうでもない生徒もいて、


「斉藤と田口と、お前ちょっと贅沢じゃなかとや?」


 やっかみ半分で前田富美男が後ろの席から声を投げる。


 無視していると、


「何のこと?」


 弁当を開けながら由美子が真顔で訊ねてくる。


「こないだ斉藤と天神に行ったろ。その話さ」


「ふーん。ねえねえ、今日は私と一緒に行かん? ハンバーガー食べたか」


「あんまり制服で歩きまわりたくないんだけど」


「えー、なんでさ。斉藤さんとは行ったとやろ? 私も行きたか。バレンタインのお返しってことで」


 どうして女は飯を食っている間にも他の食べ物の話ができるのだろう。押し切られる形で午後は天神に決まった。


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