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12(6月14日・金)

「何でも奢るから。遠慮しないで」


 という彼女に、照り焼きバーガーのセットをコーラで頼んだ。それとポテトにはケチャップをつけてもらう。塩味のポテトは食えないのだ。すると彼女は真似をして、自分もケチャップを追加していた。


「すごいね関口君。あんなふうに言える男の人って初めて」


「ケチャップが?」


 俺は早速ポテトをつまんで言った。


「違うわよ、スカートのこと。ねえ、何であんなに女性の服に詳しいの?」


 できれば煙草でも吸いたいなと思いながら、


「親の仕事の都合だ。女ばっかりの中で遊ばされてた」


「ふうん。お母さんってどんなお仕事?」


 来た、とコーラをストローで啜り、


「よくあるスナックだ。夜の水商売やってるんだよ」


 隠さず言うと、彼女はなぜか、


「へえ……苦労なさってるのね」


 訳知り顔で答えた。


「ないよ、苦労なんて」


「そう……」


 それからどこか気まずい沈黙が続き、無言でハンバーガーを食べた。時計を見ると四時だ。まだ今なら間に合う。


「じゃ、ごちそう様。俺行くから」


 バニラシェーキを吸っていた彼女が慌てる。


「そんな、急がなくても――」


「用事があるんだ。じゃあまた学校で」


 俺はカバンとトレーを手に席を立った。振り向かず、天神のビル街へと歩きだす。人が溢れてどの顔も楽しそうだった。似合わないな、と呟いて彼女の家へ向かった。




 自転車を止めてチャイムを鳴らすが、誰の気配もない。どこかへ行ってしまったのだろうか。しばらく由美子のアパート前で淋しく立ち尽くして、階段をゆっくり降りていた。そこへ、


「あれえ、関口君」


 大きな袋を持った由美子が現れた。瞬間、心のもやが晴れるのを感じた。


「お米屋さんにね、行っとって」


 重そうに袋を抱えたまま鍵を開けた。俺は当然の顔でそれに続く。


「いつもはね、お店で残ったご飯ばチンするとやけど、時々それじゃ足りんようになるけんさ。あ、関口君ご飯食べた?」


「ああ、ハンバーガーだけどな」


「きゃあ。私、半年くらいハンバーガー食べとらん。照り焼きバーガー食べたか」


「その照り焼きバーガーを食ってきたんだけどな」


 意地悪のつもりで言うと相当に堪えたらしく、しばらく黙っていた。それでも彼女は湯を沸かす。いつものように紅茶が入るのを、俺は煙草を吹かして待っていた。


「はい、お待たせ」


 煙草のことも何も言わず、テーブルに紅茶が運ばれる。


「斉藤さんとデートじゃなかったと?」


 無表情に訊ねる彼女へ、


「デートじゃないよ。買い物につき合っただけだ」


「それば健全な高校生はデートって呼ぶとたい」


「なら俺はデートには向いてない。田口のところでのんびりしてる方がいいよ」


 一瞬の間を置き、


「それもデートかもよ」


 意味深な笑いで彼女は紅茶を啜った。そしてBGMはまたヒュウガナユタだ。『都会の暮らし』という曲が好きで何度も繰り返し聴かされた。


「ねえねえ。夢と愛とお金を等式に当てはめるなら、どうなるやろ」


「……なんのことだよ」


「だから、解は『幸せ』ってことでさあ」


 言っている意味は分かった。日向那由多の歌の、


 ――夢があれば 愛があれば なんて素敵な都会の暮らし


 という歌詞になぞらえた彼女の質問だった。しかし、その歌詞は歌が進むたびに、


 ――お金があれば お金があれば


 そう変わってゆくのだ。


「『愛×お金+夢』じゃないのか」

 そう答えた。


 しかし彼女はその解が気に入らなかったようで、


「えー、私は『(夢+お金)×愛』って思うよ。愛があればよかとよ」


 愛を夢見る少女には今日も訊けない言葉を抱えて、俺はまたテーブルの下の煙草に火をつける。中学生以来すっかりやめていた煙草だったが、どうにも最近癖になりそうだ。それを見て、


「関口君、『煙草はいいことない』ってお客さんも言いよらすよ。お金もムダになるって」


「分かってるよ。ずっと吸う気はない。二十歳になったらやめるよ」


「ふふっ、何それ」


 笑う彼女に頬が緩んだ。

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