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第八夜
「お主とわしは、同じ匂いがする。」
湯気の向こう。
エリナの瞳は、俺をただ見つめている。
ストーブの上の鉄鍋が沸騰する音だけが聞こえる。
俺は何も言わず、ストーブの揺れる炎を見つめる。
炎の赤が、痛い記憶へと俺を誘う。
見捨てられた。
その感情は全てを覆い尽くす。
見渡す限り一面の雪の中。
俺たちは退路を絶たれた。
敗軍の兵に、冷たい風が吹きつける。
残されたわずかな仲間と共にただ北を目指す、逃避行。
一人、また一人脱落して行くもの。
死にきれずに苦しむ仲間の掠れた声。
今も手に残る感触。
俺は震える手で、ウイスキーの瓶を掴む。
貪る様に煽ったそれは、俺を罰する様に喉を焼く。
エリナはただ黙って俺を見ていた。
俺の過去を見透かす様に。
ゆっくりと立ち上がったエリナは、足音もなく俺に近づく。
黒い髪がランプの光を受けて揺れる。
俺はただ見つめている。
その赤い唇から溢れた言葉は
「共に永遠を生きてみないか。」
細く冷たい指先が、俺の首筋に触れる。
ゾクリとする感覚に、俺は逆らうことができない。
聞こえるのは俺の心臓の鼓動と乱れた呼吸。
激しい雪が全てを覆い尽くした。




