第22話 初任務その3
第22話 初任務その3
夜風が吹き、焚火を揺らすのを眺める。俺たちは、平原の街道から少し外れた場所で腰を下ろして野営をしている。辺りは夜の闇に包まれ、遠くを見渡すことはできない。少し離れたところに焚火の光だけを遠目で確認できるだけだ。
現状、怪しい物音などはない。いたって自然だ。AMの気配も、野盗の気配も感じられない。とても静かだ。とはいっても、能力隠匿薬を飲んだ時の感覚には慣れていない。元を正せばなかったモノとは言っても、無くなると違和感を覚える。あれだ。あると便利なモノが無くなったような奴だ。
「……はぁ、寒っ」
夜風が冬の寒さの兆しを感じさせる。秋も終盤、ほぼ冬と言って差し支えない。防寒具を用意しても、寒いものは寒い。冬目前の寒さを感じながら腕時計型の端末を見れば、見張りの交代の時間となっていた。そろそろ交代か……天瀬起こさないとな。
天瀬を起こそうと立ち上がろうとしたら、テントから音無が出てくる。少し眠そうに目をこすり、焚火を挟んで、俺の前に座る。
「よう、募。少しは慣れてきたか?」
「多少は、慣れてきました。と言ってもまだ、この能力が使えない感覚には慣れないです」
「まっだろうな。俺も似たようなもんだった」
軽く笑ってそう言うと、静かな瞳で俺の目を捉える。
「初任務、不測の事態なんてざらだ。何が起きるかなんてわからない。だから、覚悟はしとけ。殺す覚悟と殺される覚悟、見捨てる覚悟を。必ず必要になってくる」
殺す覚悟、見捨てる覚悟……正直に言えばあまり実感が持てていない。それらを理解してないし、まだ、持ててもいない。
「……そうですね……分かりました」
「迷うな。だが、後悔しなくていい訳じゃない。殺す相手をちゃんと観ろ。色を、顔を、声を、忘れるんじゃねぇぞ?」
真っ直ぐ、俺へ放たれる言葉には、強い後悔に近い何かを感じる。
「……はい」
「ちょっとした忠告だ。見失うな。じゃあ、明日な」
そう言うと、音無がテントに戻っていくのを見送る。少し遅れて音無の後を追うようにテントに戻る。天瀬を起こし、瞼を閉じる。直前に、音無に言われたことを思い出す。
殺す相手を……観る。まだ、分からないな。思考をそこで切り眠りにつく。
――――
まだ、朝日が上がりきる前、テントの外から声が鼓膜を揺らす。
「……さい……起きてください。朝です」
声で目が覚め、起き上がる。今回の任務を共にしているメンバーの1人、花木 磨衣の声がテントの外から響く。テントから出て出発の準備を始める。朝食を全員で済ませ、薬を一斉に飲む。各自、武器類の点検や、馬の状態を確認する。
「よしお前ら、準備は済んだな。出発するぞ」
俺と天瀬が音無の操る馬車を挟み左右を、花木が馬車に乗り込み、後方を警戒しながら移動を始める。
「半日も歩けば森になるぞ。視界悪くなるから警戒強めとけよ」
3人で場所を交代しながら歩き続け、昼休憩を挟んですぐに森が見えてきた。警戒を強めながら、森の中を進む。
森の中は、20mを越える木々が空を覆い、低木や起伏などの影響で想像以上に視界が悪く、遠くを見通すのが困難になっている。冬なのもあり、葉が落ちてくれているおかげで、言うほど暗くはないが、代わりに風が通り寒さを感じさせる。
想像してた以上に寒いせいだな。これなら、歩いてた方がましだ。
白い息を吐きながら馬車の中からそんなことを思いながら、後方を見張る。
「おい!右舷、警戒しろ!」
背から音無の声が響く。咄嗟に銃を構え、馬車の右側の警戒を強める。注意深く、森の中を見据える。
ッ!?右側後方、何かの影?
視界の端で、馬車の右側後方で何かが動く影を捉えた。何かが複数体、木々の間を縫うように追ってきているのがわかる。
「右舷後方!対象不明!複数います!」
敵は、複数。後方から走ってきている。ギリギリ追い付かない程度の速度を維持している?
一瞬だけ、その姿を捉える。灰色の毛皮に血走った赤黒い眼、身軽でありながら十分以上の走力を備える身体。正しく、狼に似ている。だが、爪と牙が発達しているのが分かる。爪は、地面を蹴る度に鋭い爪痕を残している。
数は、5体。追い付かないよう、ギリギリの速度で張り付いてくる。
「狼型!右舷後方、総数5!後方に張り付いてきます!」
「天瀬、左舷後方から真横までを警戒しろ。募、花木は、右舷後方の敵性対象へ交互にリロードを挟みつつ発砲。無理に狙うな。確実に当たる距離までは、敵のいる辺りを撃て。攻撃――」
指示に従い、銃を構え狼型の敵に銃口を向ける。
「――開始」
引き金を引く。腕と肩に響く衝撃と、眼を刺すような一瞬の光。そして、つんざくような爆音が発砲している事実を伝える。弾丸は、木々や地面に当たり、敵には掠りもしない。発射される弾丸の軌跡が紅く光る。
「チッ!チェンジ!」
花木と交代し、射撃を交代しながらマガジンを交換する。使いきったマガジンを外し、新しいマガジンを填める。チャンバーに弾を送り込み、交代の準備を終える。いつでも代われるように銃を構える。
「募!チェンジ!」
花木の合図に合わせて、引き金を引く。弾は、ほとんど当たらないが、着実に数を減らしていく。最後の一匹を仕留め、引き金から指を離す。辺りを見回し、敵がいないのを確認する。
「右舷後方、片付っ?!」
一瞬の気の緩み、AMを全て片付けたと勘違いで、緩んだ警戒の僅かな隙を掻い潜り、俺へと牙を突き立てる。木の陰で息を殺し、警戒が緩むのを待ち、機が熟した瞬間に獲物へ喰らいついた。
まずっ!?防御!間に合わなっ!
「臭い口閉じろ」
さっきまで荷台の先にいたはずの音無がAMを地面に殴り落とし、銃の引き金を引き、飛びかかってきたAMの頭がハチの巣となる。地面に転がるAMを一瞥し、俺らに声をかける。
「すぐ森を抜ける。装備の点検やらはそこでやる。引き続き警戒しろ」
さっき以上に警戒を強め、森の街道を進む。




