02「今日だけはメイドに」【フェルナンデス】
――また、よからぬ企みとだろうという推測が立ちますが、お声を掛けないわけにはいきません。
書斎で机に向かい、鉛筆を持って設計図の写しと睨めっこしているギルバートに、メイド服を着せられたフェルナンデスが近付く。机の上には、定規や消しゴムも転がっている。
「おっ、着替えたな。似合ってるぞ」
フェルナンデスの気配に気付いたギルバートが、設計図から顔を上げてニヤニヤと笑いながら言った。フェルナンデスは、恥じらいながら棒読みで答える。
「オホメニアズカリ、コーエイニゾンジマス」
「ハハッ。そう、嫌がるなよ」
「命令したのは誰ですか。――熱心に図面を見ながら、何を考えていらっしゃるのですか、ギルバートさま」
「ご主人さまです。――今度のサマーハウスでマーガレットが使う部屋の壁に、隠し通路を設けられないかと思ってさ」
――召喚された当初は、頼りがいのある紳士だと思ったものですが、こんなシスコン変態だとは思いもしませんでした。この六年近くのあいだに、麗しい兄妹愛に、珍奇なアクセントが加わってしまったようです。
ギルバートの答えに呆れつつ、フェルナンデスは設計図を覗き込みながら提案する。すると、ギルバートも同意しつつ、難色を示す。
「作るとすれば、作り付けのクローゼットの壁ですね」
「フェルナンデスも、そう思うか?」
「えぇ。ギルバートさまも、そうお考えで?」
「そうなんだ。でも、この壁の向こうはゲストルームだろう?」
「あぁ、そうですね。お客さまをお呼びの際は、通路を使えなくなりますね」
「そこなんだよ。なんで、こういう設計にしちゃったんだろうなぁ」
ギルバートは鉛筆を投げ出し、降参とばかりに組んだ手を後頭部に回して背もたれに倒れかかる。
――誰も、将来的に隠し通路を作ることを前提にして建築しないでしょう。
フェルナンデスは、机から転がり落ちた鉛筆を拾いつつ、話題を転換する。
「気分を変えて、こちらの手紙をお読みになってはいかがでしょう。さきほど、ポストに投函されていました」
そう言って、懐から封蝋が捺された洋封筒を取り出し、そっと裏向けにして机の上に置く。そこには、メアリー・マーシャルという署名が、流麗な筆記体で記されている。
「ゲッ。この封蝋と署名のある手紙は、見たくないな」
ギルバートが眉をひそめ、あからさまな嫌悪感を示すと、ギルバートが質問する。
「同じ苗字ですし、この封蝋は、ギルバートさまが日頃お使いの物と同じモチーフですね。差し支えなければ、どういうご関係のかたか、教えてください」
「新大陸にいる、俺の叔母さまだよ。お父さまの妹」
ぶっきらぼうに言い捨てると、ギルバートは定規を手に取り、渋々といった調子で封を切る。そして中身を空けると、数枚の便箋と、一枚の写真が出てきた。写真には、ティーンエイジャーと思しき少女が写っている。
「このかたが、メアリーさまですか?」
「違う、違う。叔母さまは、とっくに三十歳を過ぎてる」
ギルバートは、フェルナンデスの疑問を即座に強く否定し、眉間にシワを寄せつつ、手紙を読み始める。
――今年の夏も、何か面白いことがありそうです。




